第511話 ヴァージルからの報告
「ララ様、間もなくヴァージルが試験の結果報告に参りますよ」
「まあ、クルト、もうそんな時間ですか? では応接室に移動しましょうか?」
「はい、今日のお茶菓子は何にいたしましょうか?」
「ヴァージルはフィナンシェが好きですから、それを出して上げましょう」
「畏まりました。ララ様の作られたもので宜しいですか?」
「ええ、それでお願いしますね」
ヴァージルはブルージェ領に新しく出来た商業学校の試験を無事に終え、今日結果が出た。
間もなく私にその報告に来てくれるのだが、結果は聞かなくっても想像がつく。
ヴァージルならばきっと大丈夫。
合格間違いないだろう。
私と一緒に勉強したり、周りの子達との勉強の様子を見ていて、私にはそれだけの確信が持てた。
それにヴァージルが頑張っていたのも知っているしね。
ヴァージルの父親は、アイツールベイハムエル侯爵という名のフォウリージ国の貴族だった。
ヴァージルの母親のメリッサは男爵家の娘であったため、ヴァージルの父親との結婚を認めてもらえず、このレチェンテ国へ二人は駆け落ち同然でやって来た。
ヴァージルの父親は貴族の身分を捨て、メリッサとの愛を選んだのだ。
だけどやっと掴んだはずの幸せな生活は、長くは続かなかった。
ヴァージルの父親が襲われて亡くなったからだ。
父親の不審死が有ってから、メリッサとヴァージルは隠れるように生活をしていたが、私達と縁があり、このスター商会でメリッサが働き、ヴァージルが商業学校を受験することになった。
メリッサはいずれ商業学校のマナーの教師になることも決まっている。
王都にいるよりブルージェ領にいた方が安全だと言う理由もあるが、何よりヴァージルの商人になりたいという希望と、メリッサのヴァージルには普通の幸せを送らせたいという理由があっての事だった。
二人ともスター商会に来てからは良く頑張ってくれていて、私達も助かっている。
それとヴァージルはスター商会の歳の近い子供達から刺激を受け、勉強も店の手伝いもとても頑張っていた。
そんな中での今回のブルージェ領商業学校の受験。
受かっていないはずが無い。
私にはそんな自信があった。
「ララ様、失礼致します」
メリッサとヴァージルが、予定の時間通りに私の部屋へとやって来た。
クルトが二人を席へと案内する。
私と向かい合って座る二人の笑顔を見て、(やっぱり)と私は確信をした。
ヴァージルはメリッサと目を合わせ頷くと、私に試験の結果を教えてくれた。
「ララ様、僕……いえ、私はブルージェ領の商業学校に無事合格する事が出来ました。応援していただき有難うございました」
「ララ様、有難うございました」
ヴァージルとメリッサがそう言って頭を下げる。
二人ともとても嬉しそうだし、幸せそうだ。
二人はこれから絶対に幸せになれる! と、疑いなくそう思えるそんな弾ける笑顔だった。
「ヴァージル、メリッサ、おめでとうございます。時間が無い中ヴァージルは良く勉強を頑張りましたし、メリッサはサポートして下さいました。本当に素晴らしいですね」
私が褒めるとヴァージルは少し頬を染め、照れくさそうに「有難うございます」とまたお礼を言ってきた。
メリッサの方は目が潤んでいるようにも見える。
きっと旦那様が亡くなってからの、大変だった時期の事などを思い出したのだろう。
それでも頑張ってきたヴァージルを見て、とても嬉しそうだ。
ヴァージルにもメリッサにもこのまま何も事件が起きず、楽しい学園生活を送って貰いたい。
メリッサの溢れそになっている涙を見て心底そう思った。
ヴァージルの父親を襲った相手が誰なのかは分からないが、絶対に手出しさせないと、尚更強く誓った。
「ヴァージル、おめでとう。さあ、お菓子をどうぞ」
クルトがお茶菓子を出すと、ヴァージルの目が輝く。
ヴァージルは焼き菓子の中でフィナンシェが一番好きなので、出された物がスター商会のフィナンシェと違う事がすぐに分かったようだった。
クルトが私の手作りの物だと教えると、尚更喜んでくれた。
小さな子が幸せそうにお菓子を食べる姿はとても可愛い!
ヴァージルの笑顔で私まで幸せになれた。
「ララ様! これ、中にクリーム? チョコ? が入ってます!」
「ええ、そうです。新商品にどうかと思って作って見たんです。どうかしら? ヴァージルの意見を聞かせて下さい」
「とっても美味しいです! 僕は大好きです!」
「なら良かったです。作った甲斐がありますわ。リアムに早速相談してみますね」
「はい! 商品になるのが楽しみです!」
ヴァージルは私が作った新作フィナンシェを気に入ってくれたようで、普段ならしないお代わりをクルトにお願いしていた。
そんなヴァージルの子供らしい姿にホッとする。
初めてスター商会に来た時のヴァージルは、無理に大人になろうとしていた。
だけど今は年相応に見えるし、気を張っていない事が分かる。
スター商会ならば安心出来る。
ヴァージルにそう思って貰えている気がした。
「そう言えばララ様も受験されたんですよね?」
そんなヴァージルから子供らしい素直な質問を受ける。
私とヴァージルは同い年、受験をした私の事が気になるのは当然だ。
私は笑顔で頷き、ユルデンブルク魔法学校を受けた事をヴァージルに教えた。
「じゃあ、ララ様の試験結果ももうすぐ出るんですね。僕、凄く楽しみです!」
ヴァージルにそう言われ、「有難う」とお礼を言いながら、そう言えば結果はいつ出るんだろう? と今頃気になった。
ヴァージルが頑張って受験に合格したのに、会頭の私が失敗しましたとは言えないな……と、ちょっとだけプレッシャーを感じながら、まあ、多分大丈夫だろうと自分を励ました。
だって実力出し切ったものね。
ただし……
学校を壊した? かもしれない事だけがちょっとだけ不安だった。
私は悪くないはず。
そう、全て不可抗力なんだもの。
きっと合格だよね。
自分の結果には確信も自信も持てない私なのだった。
☆☆☆
こんにちは、白猫なおです。十月が忙しく、各小説のストックが無くなり、一週間投稿をお休みしようと思っています。ですのでララちゃんの投稿は次回8日になります。ご迷惑をお掛けしますが宜しくお願いします。(=^・^=)
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