第444話 商業学校建設始まりました。

 今私達はブルージェ領の領主邸に向かっている。

 タルコットから連絡があり、商業学校用の土地で良い場所があるとの事なので、そこの視察に向かっているところだ。建設を担当するビルやカイも一緒に来ていて、後は何時ものメンバーのリアムとジュリアンが一緒だ。


 商業学校という事で実践できる施設も作りたく、鍛冶教室や、裁縫教室、それにレジを練習出来る教室なども作りたいと思って居る。いずれは使用人コースなども作る予定なので、そう言った実践できる教室は出来るだけ多い方が良い、そう考えると、建物はかなり大きくなることだろう。

 その話をタルコットに伝えるとブルージェ領所有の土地の中で、大きな土地を探してくれた。いずれ他領の子も入学するとなると寮も完備したいし、ブルージェ領の子に至っては通いやすい様にと、タルコットは中央地区のあるポルトの街内に探してくれた。

 ここならば色々な店に実践教育として生徒が出向く時も通いやすい事は間違いない、それに商業学校に勤める先生や食堂の料理人、それに校長を務めてくれるベルティと副校長のフェルスや、学園長のロゼッタも通いやすい事だろう。

 タルコットが気を遣って色々と考えてくれている事が良く分かった。私の我儘だったのに忙しい中ここまでしてくれて感謝しかない。絶対に素敵な学校を作りたいと思う。


 領主邸に着き、タルコットが待っている応接室に通されると、ベルティとフェルスだけでなく、ブルージェ領の商業ギルド長であるナサニエル・タイラーとガスパーも来ていた。ブルージェ領の商業学校建設という事で商業ギルドとしても関係があることなのだろう、学校の事は常にタルコットと話し合いをしてくれている様だ。有難い事だと思う。


「ララ様、職員の方は面接も終わり無事に雇う者も決まりました。新年度の生徒を受け入れるための募集もしております。今年は領内の者だけを入学させる予定ですが、来年からは他領からも生徒を受け入れようと思っております。準備は万端ですよ」

「タルコット、ナサも素早い対応有難うございます。本当に心強いです。それで……その……生徒は集まりそうですか?」


 タルコットとナサニエルがきょとんした顔になると、ベルティがクスクスと笑いだした。


「ララ、あんたは本当に自分のことが分かってないねー」

「ええっ? そうですか?」

「ブルージェ領自慢の聖女様が作る学校だよ、その上人気のスター商会とブルージェ領の領主が関わってる、そんなとこお金を積んででも入学したいって皆思う程さ」

「えっ? じゃあ生徒は無事に集まりそうなんですか?」

「勿論さ、それに学費が無料の学校だからねー、まだ募集も始まって間もないのに既に問い合わせが殺到してるよ。他領の者は今年は入れないって聞いたら泣いてるぐらいだし、貴族からも問い合わせが来るぐらいさ。まあ面接と試験が有る事は伝えたけどね、基礎教育は出来てなくても学校で教えればいい、問題は人柄だって話したら言葉に詰まってたよ」


 ベルティはアハハハハと笑って嬉しそうだけど、まさか商業学校がそこまで既に人気が出て居るとは思わなかった。かといって初年度から大勢の生徒を受け入れるのも難しそうだ。今年は手探りの状態だし、私も受験生なので仕方がない事だけど、勿体ない気がした。


「うーん……そこまで人気があるなら、他領の子も少しは受け入れてあげたいですね……」

「そうだね、今年は特例って事で、どうしてもこっちが欲しくなるような人材で、本人も望むなら数名は受け入れても良いかもね、子供の夢が叶わないのは可哀想だからね」


 ベルティの言葉に皆が頷く。

 スター商会で働きたいという夢を持っている子が居て、その関係の学校に入りたいのに、他領だから入学できないとなったら可愛そう過ぎる。

 実力があって本人のやる気もあるのに住んでいる場所が理由で入学できないなんて耐えられないだろう、そこは柔軟に受け入れてくれるようだ。流石ベルティだ。


「ララ様、やはり特別講師ですが他店からも赴きたいと言って居る店が多くあります。勿論我が商業ギルドからも私かガスパーが顔を出したいと思っておりますので、今年は一クラスだけでなく二クラスは作れるかと思います。今現在の申し込みで考えると一クラスだと殆どのものを不合格にしなければなりません……それでは余りにも不憫ですので……」

「えっ? そこまで申し込みが?!」


 こくんと申し訳なさそうな表情で頷くナサニエルを見て驚いた。スター商会のネームバリューは凄いらしい。それも今この国で一番人気のブルージェ領だ。来たい生徒が居るのは良く分かる。いや分かっているつもりだった。まさか私の想像以上とは……いやはやそれだけスター商会は凄いという事だろう。

 チラッとリアムの方を見るとお菓子を頬張り幸せそうな顔をして居た。折角リアムってすごい商人なんだなと改めて感動して居たのだけど、こうやって子供っぽい姿を見るとガクッと肩が落ちる。でもリアムの飾らないところが本当の魅力なんだよね。早くセオにそれが伝わると良いけれど。






 打ち合わせも終わり、皆でかぼちゃの馬車二台を使って商業学校建設予定の土地へと向かう事になった。馬車の中でも話しは続き、おもちゃ屋さん開店の話になった。何時頃開店させるのか、そして王都店とブルージェ領店の違いなど皆に色々と聞かれた。

 取りあえず開店は今の所人材を考えると、王都とブルージェ領では開店を別々の日にしたい。商品は同じものを置くとしても、店の建物は少しだけ差がある様にして両方の店に行ってみたいと思わせるようにしたいと思って居る。王都の人々やブルージェ領の人達にどれだけ興味を持ってもらえるかは分からないけれど、少しでも多くの子供たちが買い物だけでなく、店にただ遊びに来てくれるだけでも良いなと思っている。


「開店の時は誰か有名人は来るのかい?」

「有名人? アー君とかって事?」


 ベルティの有名人というのはこの国の誰もが知っている人の事を言うのだろう。レチェンテ王であるアー君の事は特に呼んではいないが、友人として開店に呼んだ方が良いのだろうか? そう聞いてみるとベルティではなくリアムが困った顔で答えた。


「ララ……王様を呼ぶような事をするなよ……警備に困る……」


 確かにアー君がおもちゃ屋さんに来たら、子供以外の貴族の大人たちまで一目王に会おうとして店にやって来そうだ。ただでさえオープンの日は混むことは間違いなく予想される。アー君が来たら混乱してしまう事は私でも分かった。リアムの言葉に素直に頷いておいた。


「じゃあ、今回招待するのは私の友人の子供だけにします」

「子供だけ?」

「はい、ブルージェ領だったらメイナードで、王都だったらプリンス伯爵の息子のメルキオッレですかねー、あ、でも……」

「でも?」

「闇ギルド長のジュンシーは絶対に来たいって言って居ました」

「あー……ララ……ルイスもだ……呼ばないとあいつ泣くぞ……」

「あー……確かに……」


 リアムの学生時代からの友人であり王都の商業ギルドのギルド長であるルイス・デニックはリアムの事を初恋の君と呼ぶほどリアムの事が大好きだ。リアムが新しい店を開店させるのに呼ばなければ私が恨まれそうだ。そうじゃなくてもここの所スター商会の従業員の募集などでルイスには迷惑を掛けて居る、ご招待しないわけには行かないだろう。


「うーん……じゃあ、時間作ってルイスの所に顔を出してこよっかなー、最近会っていないしねー」

「……別にルイスの所なんか行かなくても良いんじゃないのか、手紙で済ませろよ……」


 リアムはそう言うとプイっと外に視線を送ってしまった。

 きっと友人であるルイスと私が仲良くなることに焼きもちを焼いたのだろう。ルイスの気持ちはリアム一筋なのに取られると思っているのか可愛い物だ。ベルティも私と同じ考えだったのか口元を押さえ、可愛らしいリアムの事を笑わないように気を付けている様だ。幾つになってもリアムは少年のようで可愛い。ティボールドの様に大人の恋をと思ったけれど、これがリアムの良いところだから、この年中初恋仕様のリアムを好きになって、お付き合いしてくれる人がいつか出来れば良いと思う。リアム的にはそれがセオだと良いのだろうけどね。頑張って欲しいものだ。


「リアム、大丈夫だよ、私はルイスの事を取ったりしないからね」

「はあ?!」

「リアムは可愛いね。そういう所が私は大好きだよ」

「はああ?! はあ?! お前こんなとこで何言ってんだよ!」

「ぷっ! アハハハハ! もうダメだ! 本当にあんた達は相変わらずだねー」


 馬車の中はベルティの笑い声と温かい空気で包まれた。

 リアムは皆に笑われたからか真っ赤になってしまい、セオは妹代わりの私がリアムと仲良しなのに焼きもちを焼いたのか私の手をぎゅうっと握って来た。二人の恋はまだまだ前途多難の様だ。もう暫くは二人の親役の私としては様子見が必要だろう。仕方がない。


 


 そんな楽しい会話をしているとあっと言う間に馬車は建設予定の土地へと着いた。

 土地は既に整地されていて、学校用という事でとても広大な土地だった。中央地区があるポルトの街で良くこれ程の土地が準備出来たなと顔に出たのかタルコットが説明をしてくれた。


「ここは元々叔父上が……ブライアン・ブルージェが所有していた土地でした……叔父上はそれだけブルージェ領を好きなように出来ていたという事です……」


 もう既にブライアンはウイルバート・チュトラリーの手によって亡くなっているため、ブライアンが所有していた土地は本来ならば息子のデルリアン・ブルージェの物になるはずだった。けれどデルリアンも既に亡くなっていて、結婚もして居なかった、その為全てがタルコットの所有になったのだが、その顔は曇って居る様だった。


「叔父上のして来た事を考えると、これだけでは領民たちへの罪滅ぼしにはなりませんが、叔父上の財産は領民たちに還元させて貰いたいと思っております。私にはそれ位しかできませんが……」


 タルコットは少し悲しそうな顔でそういった。

 ブライアンのせいで家や財産を無くし奴隷落ちしてしまったものや、命を落としてしまったもの、行き場がなく犯罪を犯し捕まった者など多くいる事が現実だ。タルコットはその事から逃げることなく向きあい、無実の罪で捕まった物は助け出したし、奴隷に誤って落ちてしまったものはブルージェ領で買い取り仕事を与えたりもしている、それでも尚領主として叔父を信じ切っていたタルコットは自分の無知だった罪を悔いている様だ。タルコットらしいと思う。


「タルコットは素敵な領主様ですね」

「えっ? 私がですか?」

「はい、こんなにも領民思いの領主様は他にはいないと思いますよ。だから自信を持ってくださいね」

「はい……有難うございます……」


 リアムもタルコットの話が聞こえて居たのだろう、無言で近づくと肩を組んでいた。きっと友情がこれかもタルコットの事を支えてくれるだろう。

 商業学校がタルコットの心の枷を少しでも軽くしてくれるのならば友人としてとても嬉しい。これからも精一杯私もタルコット達を応援できたらと思う。


 でもきっと大人しくしてろって言われちゃうんだろうなー。トホホホホ。

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