第418話 闇ギルドのオークション
ブルージェ領のスター商会での話を終えた私達は、転移部屋を使って研究所へと向かった。
所長であるビルの執務室に向かうと、ビルとカイが喜んで対応してくれた。
先ずは初めて会うヨナタンを紹介する。
「ビル、カイ、私がずっと探していた天才魔道具技師のヨナタンさんです。宜しくお願いしますね」
ビルとカイには呪いの魔道具を見せていて、ヨナタンの事も話してあったので、カイはすぐにオクタヴィアンを呼びに行ってくれた。紹介されたヨナタンは「天才魔道具技師……」とポツリと呟いていて、まだ現実だと思えないでいる様だった。これまでのヨナタンの苦労を思うと仕方が無いのかもしれない。彼の面白い発想を理解してくれる人は今までいなかったのだろうから。
クルトが慣れた手つきでお茶を入れてくれて皆でくつろいでいると、ドタドタと大きな足音がしてカイと一緒にオクタヴィアンが部屋に入って来た。オクタヴィアンはまだ十代なはずなのだけど、どう見てもリアム達ぐらいにしか見えな風貌で、その上背も高くがっちりしている、細身のカイと並んでいると、どちらが年上かは分からない位だ。でも今日は自分と同じ魔道具技師が来たという事だからか少年のような笑顔を見せていた。普段はあまり妹のマティルドゥや兄のデッドリックとは似ているとは感じないのだけど、この笑顔を見るとやっぱり兄弟なのだなと思わされた。それ位可愛くって良い笑顔だった。
「ララ様、ヨナタン殿が見つかったと聞きました!」
「はい、オクタヴィアン、こちらに居るのがヨナタンですよ。これから色々と教えてあげて下さいね」
「は、はい、勿論です! この日をどれだけ楽しみにしていたか! ヨナタン殿どうかこれから仲良くしてください! 私の事はアンと気軽に呼んで頂いて構いませんので!」
「お、おお……宜しく……俺の事はヨナでいいぞ……その……これから宜しくだな……」
「ええ! ヨナ! 頑張りましょう!」
二メートル級の大柄な男性二人が手を取り見つめ合う姿はかなりの迫力があった。
アン、ヨナなんて二人共可愛い呼び名だけど、見た目は陽炎熊の様に逞しい。でも中身は素直な可愛い青年たちなのでそのギャップが萌え処だろうか? 今後の私の恋の為にもアリナに詳しく話を聞きたいところだ。
二人の挨拶が済んだところでおもちゃ屋さんの話をした。
以前から私がおもちゃ屋さんを作りたいと言っていたことを、ビルもカイもそしてオクタヴィアンも分かっていたので、勿論賛成してくれた。ただ直ぐに店舗を建てて、商品も開発していかなければならない事にはとても驚いていたけれど。
おもちゃ屋さんの建設はビルとカイ、そして二人の兄であるジンにも依頼を出して、出来るだけ早急に対応してくれるそうだ。子供がワクワクするような作りにして欲しいと伝えたため、秘密基地の様な物にしようと話し合った。
そしておもちゃの方はヨナタンとオクタヴィアンで開発をする。
勿論私もそこに参加するのだが、おもちゃ屋さんの担当になったチコとルベルにはこの部分を頑張って貰わないとならない、二人には子供の頃どんなおもちゃが欲しかったかと、街に居る子供たちにアンケートを取るなどして貰う事になった。
最初は急に担当になった事で動転していたチコとルベルだったが、ヨナタンやオクタヴィアンと話しているうちに楽しさの方が勝ってきたようでワクワク感が感じられた。そんな皆の様子を楽しみながら私も玩具の案を出す。
「今の所子供向けのおもちゃで作った物はシャボン玉と竹とんぼと風船ぐらいかしら?」
「ララ様、確か剛速球が投げられるボールも作っていましたよね?」
「オクタヴィアンよく覚えてますね」
「飛んでいられる縄跳びもあったんじゃないですか?」
「ありましたねー、でもあれは失敗作です。ずっと回してないと飛んでいられないから体力をかなり使うんですよねー」
「んじゃ、一回回したらちょっとだけ浮いて居られるように改良したらどうだ?」
「成程、ヨナタンなら作れそうですね」
「ララ様駄菓子はどうするんですか?」
「あー、駄菓子はマシューやモシェ、それに研究組のマルコとかと相談しながら作ろうかと思っています。今日はおもちゃ優先で」
「嬢ちゃん……いやララ様、俺動くぬいぐるみってーやつ作りてー」
「そうですね。悪い事に利用されない位の物を作りましょうか、子供の魔力でも遊べる様な……」
楽しい時間はあっと言う間に過ぎて行き。おもちゃ屋さんに向けての第一回目の会議はあっと言う間に終わってしまった。明日からも皆話し合いや試作品造りを頑張ってくれるようだ。私も負けずに頑張ろう。
ヨナタンは今日のうちに研究所の寮へと入ることになり、オクタヴィアンが付き添いをしながら自宅へと一度戻っていった。この世界の人は引越しが簡単なのか、あまり荷物が無いからなのか、魔法袋にササッと荷物を詰め込んでくるだけでヨナタンの引っ越しは終わってしまった様だ。
夜はヨナタンの歓迎会という名の飲み会をスター商会王都店の寮の中で開いたらしく、従業員皆が集まって大賑わいだったらしい。ヨナタンがとても喜んでいたとオクタヴィアンから聞いて私も嬉しくなった。少しづつここでの生活になじんでくれたらいいと思う。
そして今私はまたまた全身真っ黒なドレスに着替えている所だ。
そう今日は遂に楽しみにして居た闇ギルド主催のオークションに参加する日を迎えたのだ。
待ちに待ったこの日の為に、私は目立たないように(アダルヘルム指導)また黒いドレスだ。
オルガが「お嬢様の魅力が半減してしまいますわ……」と呟きながら作ってくれたドレスは、ひらひらと裾についたレース部分も黒で出来ていて、前回闇ギルドに行った時よりも真っ黒な状態だ。その上ボンネット帽も被っている……かえって目立つのではないか? という疑問は大人しく飲み込んだ。アダルヘルムが良しとしているので問題は無いだろう。
そして今日は私の他に、アダルヘルム、マトヴィル、セオ、クルト、そしてリアム、ランス、ジュリアンが一緒に行く事になった。アダルヘルムとマトヴィルは私の護衛の強化のためで、リアム達が来るのは商品を見て貰う為というのもある。商人としてのプロの目がアダルヘルムは欲しかった様だ。
「ララ様が変なものを買われてしまっては困りますからね……」
とアダルヘルムはそう言っていたけれど、本当は自分が欲しい物があるのではないかと私は疑っていた。何と言っても私には鑑定魔法があるので、そこまで酷い商品を掴むはずがないからだ。まあ本当の所は分からないけれど、アダルヘルムが購入したいものがあるのならば、出来る限りの力を使って応援しようと思っている。普段お世話になっているのだからこれぐらいはさせて貰わなければね。ヌフフフフ。
「ララ様……また変なことを考えているんじゃないんですか?」
クルトが呆れた様な顔で私を覗き込んできた。
何故かクルトには私が考えて居ることが分かってしまう能力がある様だ。
私は変な事など考えて居ませんよと首を横に振り、「アダルヘルムが買いたいものがあるんじゃないかと思っていただけです」と答えた。
クルトは大きなため息をつき、リアム様たちを呼んだのは私を目立たせないためだと教えてくれた。確かにリアムは商人としても、ウエルス家の三男坊としても有名なのでオークションにいても何の不思議でもない。私の隠れ蓑に丁度いいとアダルヘルムは思ったのだろう。リアムごめんね。
「リアム様もこの日を楽しみにしていたようですよ、ガレスから聞きました」
そうリアムは大店の三男坊なのだけれど、成人してすぐに王都を離れたため、オークションにも闇ギルドにもこれ迄一度も行った事がなかったのだそうだ。それに一個人として闇ギルドオークションに呼ばれるようになるには、かなりの功績が必要になってくる。大店の跡取りならまだしも三男となると、それなりに実績を積まなければオークションへの参加は難しい様だ。信用が無い者はオークションには入れないという事だろう。
そう考えると、どのオークションにも参加して良いとジュンシーに言って貰えた私は、闇ギルドから認めてもらえたという事だろうか。やっぱりジュンシーに色々とプレゼントしたのが良かったのだろう。
ふっふっふ……やっぱりどこの世界でも袖の下は大事だよねー。ん? ジュンシーもキランとセリカの購入をオマケしてくれたのだからこの場合はお互い様? 持ちつ持たれつって事だろうか? ジュンシーとは長い付き合いになりそうだし、このまま仲良くしていこう。一応未来の旦那様候補だもんね。出来ればそこは避けたいけどね。
そんな考え事をして居ると、馬車はあっと言う間に闇ギルドに到着した。
オークションは夜からで、品物を見れるのは夕方からになっているので、お昼過ぎに闇ギルドに到着しても客は誰も居なかった。アダルヘルムに続いてマトヴィルが馬車から降りると、迎えに出て居たジュンシーの目がキラリと光った。すぐに伝説の武術家であるマトヴィルだと分かったのだろう、値踏みをして居る様だった。
そしてジュンシーの補佐であるメルケとトレブは赤い顔だ。この前来たときにアダルヘルムにハートを撃ち抜かれてしまったのでそれもしょうがない、その上今日はマトヴィルまでいる。彼らの心臓が急に止まらない事を祈ろう。
私が馬車ら降りるとジュンシーの横にいた水色の熊のぬいぐるみのテゾーロがぴょんぴょんと飛びあがって喜んでくれた。可愛い。そして無言のまま足元に抱き着いてくると、ぎゅうっと力を込めてきた。ジュンシーが「おお……」と言いながら自分の体を抱きしめ悶えている、そこは気持ち悪いので無視することにした。セオは面白かったのか口元を隠して震えていた。ツボにはまった様だ。
「テゾーロ、いい子にしてましたか? ジュンシーさんは優しくしてくれてますか?」
モフモフのテゾーロを撫でながらついでに魔力も流す。抱っこしてあげればテゾーロは喜んで体を揺らした。ああ、可愛い。可愛すぎる。
(カミサマ……)
「えっ?」
(カミサマ スキ)
テゾーロは私に向かって神様と言うとまた抱き着いてきた。
テゾーロはただのぬいぐるみで話せるなんて思っていなかったのだけど、凄い成長だ。
魔石だって小さなものだし、テゾーロはドワーフ人形達の半分以下の体しかない。作った私でさえまさか喋られるようになるとは思っても居なかった。
二台目の馬車から降りてきたリアムが私の肩にポンと手を置いた後、顎でクイッとジュンシー達が立っている方を示した。そこには泣きながら膝をつき「奇跡だー」と叫びながら神に祈りを捧げているジュンシーの姿があった。
今日のオークションがとても心配だ……ジュンシーがギルド長として機能してくれれば良いけれど……まあ、こればかりは頑張って貰うしか無いだろう。
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