第十三章 オークションと学校作り

第415話 みーつけた!

 王妃様たちのスター商会ご訪問の後、ジュリエットは頻繁にスター・ブティック・ペコラに通うようになった。


 勿論目的はエステ……ではなくティボールドこと、小説家の ”ルド・エルス” 先生だ。


 王妃様来店の際に預かったジュリエットの処女作の小説は、中々良い物が書かれていた。


 ただジュリエットは余りにも現実を知らないと言うか、庶民の暮らしを知らないと言うか……貴族的部分でさえ、少し不安定な描写が数多くある上に、庶民の描写は尚更残念で……小説の中で気軽に庶民が食べる食事がレストランのコース料理と言うあり得ない物になっていた。


 そういう点をもう少し改善したら商業化できそうだと手紙で伝えると、庶民感覚を学ぼうとジュリエットはしょっちゅうスター商会に顔を出すようになったのだ。


 その為ジュリエットのスター商会訪問の際の護衛には、魔石バイク隊のマティルドゥとアデルを常に連れて来ていて、一緒にスター商会内の庶民の皆に取材をしたりしている。

 そんな時はルイもスター商会からの代表として、ジュリエットの護衛として付いてくれている。マティルドゥに会えるのでルイ的には問題は何もないのだが、ジュリエットが色んな人に聞いて回る行動が中々に面白い様だ。

 姫様に声を掛けられると固まる従業員が多いらしい。ルイはララ様だって同じ姫様なのになっと笑っていた。どういう意味だろう。


 この国の王であるアレッサンドロ・レチェンテことアー君も、ジュリエットに下手に街に出かけられるよりも、セオやルイの様に強い騎士がいる店なら安心だと、私に手紙で直々にお願いしてきた。


 そもそもジュリエットが気兼ねなく気軽に街に出れるのもスター商会内だけで、他店では無理なのだ。そのうち婚約者でも出来ればそれ自体も難しくなる、残り少ない娘時代を楽しんで欲しいとアー君は思って居る様だった。


 姉のシャーロットもジュリエット訪問の半分位は一緒について来ていて、その時はマティルドゥの兄のデッドリック・シモンも護衛に参加している。今デッドリックはシャーロット付きの護衛の様だ。きっとシャーロットが父親に専属でとお願いしたのだろうなと私は見ている。デッドリックにエスコートされるときのシャーロットが乙女だからだ。もう少し二人の恋を見守り、アー君にでもそのうち話すべきかなと思案中だ。人の恋路はなるべくは手を出さない方が良い物ね。



 そして私はというと、キランとセリカと相談の上、諜報員活動用の服や武器を作り上げた。

 先ずは洋服だが、隠しポケットを作った。

 普通に見えるポケットに制限をつけて、本人の魔力で触れない限り開かない魔法袋にしてみたのだ。存在を知らない人が調べてもただのポケットなのだが、セリカやキランが魔力を入れながら触れば魔法袋になる優れもので、容量はそれ程はないがニ、三日出掛けるぐらいの旅行バックサイズぐらいにはなっている。なので武器も難なく入る。


 あとは逃げる魔道具として、簡易転移シートを作った。

 1人用のレジャーシート半分くらいの大きさの魔紙に、マンホールサイズぐらいの転移陣を書き、一回だけ使うとタダの紙になってしまう物だ。これはスター商会ブルージェ領側と王都の物とディープウッズの屋敷に飛べる物を作った。逃げる場所を選択出来る様にと三種類だ。セリカにとても有難がれた。


 そして私の武器リボンを改良した魔道具も作った。

 セリカはスカーフ型、キランはループタイ型の物にした。これなら普段着で違和感なく使えるし、二人に良く似合っていた。オシャレも出来るのでもってこいだし、何よりも二人とも気に入ってくれたことが嬉しかった。


 そして指輪の魔道具も用意した。これは魔力を流すと魔獣の映像が出て怖がらせることが出来る物だ。一瞬でも隙を作ることが出来る様にする為と、ポケットに注目させない為という事もある。装飾品が付いていれば皆そちらに注目するだろう、それが魔道具となればなおさらだ。勿論普通の魔法鞄も持たせて、出来るだけポケットには気付かれない様にしたい。ポケットの魔法袋は隠しアイテムにしたいのだ。

 

 それから以前作った防犯グッズなども二人に渡し、キランとセリカはそれらの魔道具の使い方を今は練習している。難なく使えるようにして、年が明けたら本格的に諜報員の仕事に出かける予定だ。無理だけはしないようにと約束してある。二人の命が一番大事なのだから。






 そして月日は経ち、年が明け、すぐに春がやって来た。

 ブルージェ側のスター商会は今春祭りで忙しい時期だ。

 元商業ギルドのギルド長であるベルティと補佐のフェルスがイベント担当の仲間に入ってくれたので、ローガンはとても助かっている様だ。


 それにピエールの兄であるドルダン男爵家の長男のヘンリーと、四男であるダニエルがブルージェ領の領主依頼としてイベントを手伝ってくれる事になった。


 ヘンリーはスター商会王都店開店の時にローガン達と意気投合して仲良くなった。その時に四男のダニエルがブルージェ領で働いている話をすると、なんだかんだと話が進み、領主邸代表のイベント担当として働く事になったのだ。

 つまりダニエルはオーギュスタンの部下扱いになる様だ。ヘンリーは家の仕事もある為、相談役に近い、けれどちゃんと給料は出て居るので、貧乏男爵家としては有難いそうだ。何よりも仕事が楽しいらしい。

 これからユルデンブルク王都でも祭りを開催する事を考えると、王都を知っている二人はとても心強い味方だと思う。頑張って貰いたい物だ。




「クルト、花壇のお手入れしてきますねー」

「ララ様、くれぐれも外には出ないでくださいね」

「はーい、大丈夫でーす。セオ、行こう」

「うん、あー……クルト大丈夫だから」


 心配げなクルトを私の執務室に残し、私とセオは王都のスター商会の花壇の手入れを朝から行う事にした。クルトは殆ど使って居ない私の執務室の掃除をするそうだ。


 春になったので、花の植え替えや雑草を抜いたり、土にも栄養を補充したりと、入口に注目が集まるスター商会としては気合を入れてお手入れをする。勿論普段から護衛の皆が花壇には気を付けてくれているし、魔道具人形のランちゃんとノンちゃんも水やりなど普段から率先して花の事は気に掛けてくれている、なのでそれ程やる事は多くないのだが、折角なのでトピアリーなども綺麗に直していった。


 土の香りに触れながら働くのはとても楽しい、それにお天気がいいので春の日差しが気持ちいい。

 久しぶりにセオと二人きりで楽しくお喋りしながら花壇の手入れを愉しんだ。


「セオ、今度冒険者ギルドに行ってみない? ワイアットさんがワイアット商会の先にあるって言ってたでしょう?」

「そうだねー、あー、でもマスターから許可が下りるかなー……」

「……あー……うん、そうだよねー、問題はそこだよねー……」


 なんてことを話していると、セオがふとある物に気が付いた。

 それはスター商会の入口の門に新しく取り付けた、フクロウ君こと防犯カメラ魔道具をジッと見つめながら、右へ行ったり左へ行ったりとして居る大柄な人物だ。ちょこちょこっと体を動かしているが、視線だけはフクロウ君をジッと見つめている。鋭い目つきがちょっとだけ怖い印象の人物だった。


 私とセオは作業の手を止め、フクロウ君を見入っている人物に近付いてみた。

 その男性は大柄で筋肉もモリモリで背も高かった、だけどフクロウ君を見る目は優し気だ。動物が好きなのだろうか?


「こんにちはー」


 時間的にはまだおはようございますの時間だけど、気軽な感じで声を掛けてみた。

 男性は声に気が付いて私達に「よっ」とリアムがやるかの様に手を上げたが、視線はフクロウ君に行ったままだ。フクロウ君のことが相当気になる様で、手を振ったり、立ったりしゃがんだりと、まるで遊んでいるかのようだった。フクロウ君の視線が自分を追いかけてくることが楽しいみたいだ。


「あの、お兄さん、フクロウ君が気になりますか?」

「お、おう……こいつ、ふくろうくんって名前なのか? 魔道具だよな? 本物の動物じゃないんだよな?」

「はい、防犯用の魔道具です」

「そ、そうなのか……スゲーもんだなー……」


 そう答えると、男性はまたフクロウ君を見つめだした。

 鋭い顔つきだが、見ていると慣れてきてフクロウ君にうっとりとして居る事が分かった。

 やっぱり動物好きなんだろうと納得して居ると、今度は男性が話しかけて来た。


「なあ、嬢ちゃん、この魔道具を作った人間ってこの店の人なのか?」

「はい、この店の会頭ですね」

「か、会頭がっ? すんげーな……」


 そして男性はまた押し黙りフクロウ君を見つめる。

 今日録画された映像にはきっと彼の姿ばかりが映っている事だろう。

 男性は段々と口元がニマニマしてきた。フクロウ君に惚れているかの様だ。


「な、なあ、嬢ちゃん……その、俺が店の会頭さんに会う事って出来るのか?」

「出来ますよ」

「そ、そっか……そうだよな……俺みたいのに急に会ってくれるわけが……って、ええっ?!」

「大丈夫ですよ、会頭にはすぐに会えますよ」


 男性は細く鋭い目をこれでもかっというぐらい大きく見開くと、私の肩を掴もうとした。

 そこにサッとセオが割り込んでくると、男性は両手を上げ首を振り悪気はないポーズをした、驚いてつい私の肩を掴もうとしてしまった様だ。セオも本気では怒っていない。護衛としての行動だ。


「ご、ごめん、嬢ちゃんを襲おうとしたわけじゃなくってよ……」

「はい、大丈夫です、分かってますよ、ね、セオ?」

「あの、ララはつよ……か、か弱いんで気を付けて下さい」

「お、おう、そうだな、こんなちいせー子だもんな」


 セオはか弱いと言ってくれたけれど、私の肩を力強くつかむとこの青年の方が怪我をしてしまうだろう。痛い思いはしたくないので私はとっさに身体強化を掛けてしまうはずだ。そうなると彼の手の骨が心配だ。力加減によっては折れていたかもしれないしね。セオグッジョブ!


「えーと、それじゃあ一緒に会頭の部屋に行きましょうか?」

「えっ? そんな今すぐ会えんのか?」

「あ、お兄さんは時間が無いですか?」

「うんにゃ……ありがてーけどよ……その、良いのか? 俺なんかが……お邪魔して……」

「大丈夫ですよ、私はララと言います、護衛の彼はセオ。お兄さんのお名前を聞いても良いですか?」

「あ、ああ、そうだな、名乗っても無かったな、俺はヨナタンだ。日雇いの仕事してる、宜しくな」


 ヨナタン!


 その名前を聞いて私は嬉しくなった!

 ずっと探していた魔道具技師、ヨナタンだ。


 私は満面の笑顔をヨナタンに向けた。


「ヨナタンさん、ずっと会いたかったです! 宜しくお願いしますね」


 私が握手を求めると、ヨナタンは「へっ?」と変な声を出していた。

 何故会いたかったと言われたのか分からないようだ。

 やっと見つけた面白い魔道具技師ヨナタン。絶対にスター商会に雇い入れたいと決意した私だった。



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