第403話 コロンブのお店
「よう! セオ、ララちゃんも、それにクルトさんもいらっしゃーい」
ニコニコと笑顔で私達を出迎えてくれたのは、実家の鍛冶屋で修行中のコロンブだ。
今日は以前から約束していたコロンブの実家の鍛冶屋を見学させて貰いに来た。
そして鍛冶に興味のあったキランとセリカも一緒だ。
アダルヘルムは二人に色んな所へと出向いて知識を蓄えて欲しいそうだ。
諜報員をやるのなら一般人に紛れないとならないだろう、二人はあまり世間に詳しくは無い様だけど今まではどうして居たのだろうか? 忍者のように屋根裏とかに忍び込んで話を聞いていたり、水の中や地面の中にでも入りこんでいたのだろうか?
でもここは魔法のある世界だ。きっと魔法でどうにか相手の話をつかんできていたのだろう。夜闇に紛れ動いていただけなら一般的な常識に疎いのも頷ける。
それに以前の主には血の契約を施されていたようだ。命令には抗えなかったし、自分の思い通りにも行動できなかったことだろう、そう思うと指令という名の強制的な物だったのだと思う。チェーニ一族はそれが当たり前なのだと思うと可愛そうになってくる。早く私自身をもっと鍛えて、実力を付けてチェーニ一族の村へ行ってそんな仕組みから解放したいものだ。セオの生まれた村を良くしたいと思う。
「コロンブ、なんかまた逞しくなったんじゃない?」
「へへっ、毎日重い物持ってるからね、セオは相変わらず飄々としてるね」
「コロンブ、今日は有難う、忙しいのにごめんね」
「ううん、ララちゃんが来るの親父も楽しみにしてたからさ、なんの問題も無いよ……それで後ろのお二人は? 初めて会う人だよね?」
「ええ、キランとセリカです。アダルヘルムの下で働くことになったの、宜しくね」
「……アダルヘルム様の……それは……その、頑張ってください……」
コロンブの顔は何故か引きつった笑顔になっていたが、キランとセリカは別にアダルヘルムに虐められてはいないので安心してもらいたいものだ。以前の職場? に比べたら今はとっても幸せだと感じてくれているらしいし、アダルヘルムからの指示も何の問題も無い物らしいので大丈夫だろう。
それとキランとセリカはお給料がもらえる事に驚いていた。
自分たちは買われた ”商品” なのに給料が発生するのは可笑しいと考えていた様だ。
私達は彼等の能力を買ったわけでキランとセリカの事を ”品物” だとは思っていない。
今度一緒に街にお出掛けして自分の給料で買い物をしましょうと誘うと、小さな笑顔が見て取れた。
二人の余りの可愛さに危なく魔力が溢れ出そうになったけれど、クルトに「それってララ様が街に行きたいだけでしょう?」と言われたため、魔力は一瞬で落ち着いた。決して図星だったからではない……酷い言いがかりだ。
「おやじ……あー、師匠、セオ達が来たよー」
コロンブに師匠と声を掛けられた人物はコロンブによく似たがっちりとした男性だった。
セオの顔を見ると、職人特有の厳しい表情が一瞬で崩れ落ち、まるで孫でも愛でるかのような顔で近づいてきた。
見るからに作業中だったと思うのだけど良いのだろうか?
「セオ坊! よく来たなー! 待ってたぞー!」
そう言うとコロンブのお父さんはセオに思いっきり抱き着いた。
セオからもコロンブからもお父さんの話しは聞いていたけれど、相当セオの事を気に入ってくれている様だ。息子そっちのけで有る。
「あー……師匠、他にもお客様が居るんだからさー、ちゃんと挨拶してくれよ」
「おお、すまんすまん、ついセオ坊に会えたのが嬉しくってなー、俺はセオ坊の友人のディエゴだ。今日はゆっくりしていってくれ」
そこはコロンブの父親だと名乗らなくて良いのかな? とも思ったけれど、きっと今コロンブは息子でなく弟子なのだろうと納得し、突っ込むことなく私も挨拶を返した。
「ディエゴさん、急にお邪魔させて頂いて申し訳ございません、コロンブの友人のララです。今日はお邪魔にならないように見学させて頂きますので宜しくお願いします」
「おお、コロンブには聞いてたけど、本当に可愛い子だなー、セオ坊の妹さんだったか? 遠慮は要らねー、何でも聞いてくれよ」
「はい、ありがとうございます」
コロンブの実家の鍛冶屋はレチェンテ国でもかなりの有名店のようで、職人も大勢いるようだ。店内の奥に鍛冶部屋があり、そこに入ると急に温度が上がりムンムンとして居て、職人たちは汗を流し鍛冶をしていた。
そんな職人たちは私のような子供が来たからか、それともセリカが美しいからか、手元を見て居なくて大丈夫? と心配になる程こちらをチラチラと見て来た。
鍛冶屋には女性の従業員がいない様なので、きっとこんな子供でも女の子だから注目しているのだろう、コロンブの妹もアイドルの様に職人たちに可愛がられていると聞いている。
それにセリカは裁縫が趣味のオルガが楽しんで着飾らせているため、闇ギルドに居た時よりも数倍見た目が魅力的になっている、その上少し表情が出てきたので、奥ゆかしい令嬢に見えるのだろう。主として部下であるセリカがモテモテになるのは嬉しいことだ。まあ、そう簡単にお嫁に出す気は無いけどね!
「お前達、気が緩んでいるぞ! 集中しろ!」
「「「へい!」」」
ディエゴに注意された職人たちは視線を手元に戻し、黙々と作業を始めた。
私は壁に飾られている高価な剣や、販売用に量産している剣などをジックリと見させてもらい、その後は只々ディエゴの作業を見させてもらった。
セオの鍛冶は繊細で、魔力の込め方も凄く丁寧だ。魔鉱石で作るセオの剣造りの右に出る者はこの国にはいないのではないかと思っているぐらいだ。それに比べて私は力技と言うか、込められるだけ魔力を込めて剣を作っているので、持てる人、使える人を限定してしまう剣だと思う。
クルトに「作る剣までじゃじゃ馬……いや、暴れん坊……いや、お転婆ですか?」と失礼な言い間違いをされるぐらいだ。
私の剣に比べディエゴの剣は熟練の……そう匠の技だった。
ただの鉱石がディエゴの手に掛かると、美しい物に様変わりする。勿論魔鉱石の剣も店にはあるのだが、普通の鉱石で作り上げたものが、魔鉱石の品とそん色がないぐらいに仕上がっていくのは見ていて痛快だった。
私だけでなく、セオもキランとセリカもその作業に夢中になっていて、気が付けばお昼時になっていた。クルトだけは私や従業員の皆に冷たいお茶を配ったり、汗拭きタオルを配ったりと運動部のマネージャーの様に働いていて、気が付けば従業員達皆に「クルトさん!」と慕われていた。流石私のお世話係だ。素晴らしい。
「ララの嬢ちゃん、俺の作業なんて見ていて面白いのかい?」
「はい! とっても勉強になります。私も鍛冶をやるのですが、ディエゴさんの足元にも及びません」
「おっ、なんだぁ、セオ坊だけじゃなく、ララの嬢ちゃんも鍛冶をやるのかい? どぉれ、俺にちょっと見せてみな」
ディエゴの様な匠に私の力技の剣を見せるのは少し恥ずかしかったが、これも成長の為の試練だと思い、魔法鞄からレッドアイアンで作った剣を取り出した。以前より魔力量も多いため、だいぶ良い物が出来ている気もするが、まだまだセオの鍛冶力には敵わない。根本的に私は繊細な魔法が苦手の様だ。ドッカンとかズッドンとかそんな風に魔力を使うのは得意なんだけどねー。
「こ、こりゃあ……なんて禍々しい……いや毒々しい……いや違うなぁ……神々しいのか? どんだけの魔力で練られてんだ……これは普通の剣士じゃ持てねーもんだ……英雄並みの奴じゃなきゃ剣に負けちまう……」
ディエゴが私の剣を掲げて見ていると、コロンブだけでなく他の従業員達まで集まって来た。どんな公開処刑なの! 皆私の作った剣をまじまじと見ている。止めて欲しい……
「いやはや、ララの嬢ちゃんまでこんなにも鍛冶が出来るとはなぁ……」
ディエゴは頭を抱えてしまった。
それ程私の剣は酷かったのだろうか? 取りあえず次は良く売れている儀礼用の剣も出してみた。
するとディエゴはその剣を見ると今度は眉間に皺が寄ってしまった。
「ララの嬢ちゃん……これは幾ら金がかかってんだ……」
「えっ?」
眉間に皺が寄っていたのはどうやら宝石にお金を掛け過ぎて居ると勘違いされたようだった。
私の剣のダメ出しではない事にホッとした。
「それは家に有る物で作ったので材料費は掛かって居ないんです。あ、でも売るときはスター商会の価格担当に任せているので無料では無いですけど……」
「そりゃあそうだ……これは国宝級のレベルだろう……こんな美しい剣を俺は見たことがねー」
どうやら褒められた様だ。
これだけの実力のある鍛冶師のディエゴに褒めてもらえるととても勇気を貰えた。
クルトが良かったですね。と視線で同調してくれたので私は笑顔でそれに応じる。私が鍛冶をする時クルトはいつも私の事を見守ってくれていたので、セオとの実力の違いに落ち込んでいたのを知っているため、一流の職人に褒められて嬉しかった事がクルトには伝わったようだった。
その後、何故かディエゴは店を閉める様にコロンブに指示を出した。
そして私の剣を酒のつまみに? 歓迎会? という名の飲み会が始まることになってしまった。
私はそれならばと、魔法鞄からスタービールやウイスキーなどのお酒類を出し、皆に飲んでもらう事にした。クルトはキランとセリカと共におつまみを作ると言って二階の台所を貸してもらう事にした。ディエゴは宴会が始まると私を右隣に、そしてセオを左隣りに座らせ、鍛冶について熱く熱く語ってくれた。
「まずなー、鉱石の見極め方が大事なんだよー」
「叩き方だって均等に力を送り込まなきゃならねー」
「俺は魔力がすくねーからよ、魔鉱石では剣を作るのがきついんだー」
等々、ディエゴはいろんな話を聞かせてくれてとても勉強になった。
それにコロンブをユルデンブルク騎士学校に通わせたのも、剣の使い方を覚えさせるためだけでなく、魔力量を伸ばして欲しかったこともあったようだ。父親のその話を聞いてコロンブは感謝したのか目を潤ませていたように見えた。
私達は結局夕飯時までコロンブのお店にお邪魔させて貰った。
ディエゴも従業員達も皆、見送りも出来ない程酔っぱらっていたので、お土産に二日酔いのポーションを置いて帰った。別れの時コロンブは絶対に親父以上の鍛冶職人になるからとセオに宣言していた。コロンブならきっと叶えられる夢だろう。
こうして楽しい鍛冶屋見学は終わり、帰りの馬車の中、ディエゴに褒められ少し自信を取り戻した私は、頑張ってセオに近づけるように鍛冶の腕を磨いて行こうと決意したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます