第359話 レチェンテ国の王城

 今私達スター商会のメンバー、リアム、ジュリアン、ランス、ガレス、そして私とセオとクルトは魔石バイクの引き渡しの為レチェンテ国の王城へと向かっていた。


 今回レチェンテ国の魔石バイク隊には10台のバイクを渡す予定だ。レオナルドとアレッシオは一日でも早く練習したいと、この日を心待ちにしていてくれた様で、スター商会側と王城の事務官との話し合いにも毎回参加していた様だ。

 それにセオとルイはレオナルドと手紙でのやり取りで連絡を取り合っていて、バイク隊の練習内容なども話し合っていたそうだった。


 隊長、副隊長になるレオナルドとアレッシオのやる気が良く分かって、私までワクワクした。新しい事を始める時はやっぱり胸がトキメク物だと思う。蘭子時代でも新学期の時は多少の高揚感があった。自分達で一からバイク隊という新部隊を始めるレオナルドとアレッシオはもっとだろう。二人の意気込みが良く分かった。


 馬車の窓から見えてきたレチェンテ国の王城は、木々に囲まれた高台にあり、シャンボールの様な少し丸みを帯びた城だった。城は高い塀に囲まれていて、侵入するのは困難だろうなと思い、自分だったら何処から入り込もうか? なんてことを考えながら見ていた。


 今の私なら正面からの強行突破でも楽勝かも知れないなとほくそ笑んでいると、案の定クルトに肩をポンッと叩かれてしまった。顔が緩んでいるよと言う事らしい。


 私は軽く自分の頬をペチペチと叩いた後、何事もなかったかのようにニッコリと微笑んでみたけれど、クルトに誤魔化しは効かなかった様だった。残念。


「ララ姫!」


 入口に着くと、レオナルドとアレッシオが待っていてくれた。私を見て嬉しそうにしてくれる二人を見ると、やっと友人として認めて貰えた様な気がして嬉しくなった。人見知りが激しいレオナルドにもなんとか心を開いて貰えた様で嬉しい。ルイがレオナルドが私の事を友人として好きだと教えてくれたのが良かったのかもしれない。レオナルドはもうそれ程恥ずかしがることは無くなって居る様だった。


「レオ、アレッシオ、お久しぶりです。あれからお変わり有りませんか?」

「ええ、変わり有りません。私達は毎日の様に集まっては魔石バイク隊の事で話し合いをしていますよ。あ、そうだ、ワルシャック第38騎士隊のアヤンとヴィハーンもこちらに異動して来ました。今日は挨拶の為に応接室で待機していますよ」

「そうですか、二人の異動も順調に行えたのですね、流石レオですね、素晴らしいです」


 挨拶もそこそこに私達は応接室へと案内して貰った。セオはアレッシオと話しながら後を付いて来ていて、魔石バイクの扱い方についての話をしている様だった。

 内容はいつしかベアリン達の曲芸の話になっていて、あの乗り方は危ないから真似をしない様にとセオが言っているのが聞こえた。確かにアレは街中ではやらない方がいいだろう。


 応接室にはアヤンとヴィハーンの他に事務官も数名待機していた。セオはアヤンとヴィハーンと挨拶を交わしていて、リアムはすぐに事務官との契約の話しとなった。

 本当は私からお願いした事なので無料で魔石バイクを渡してもいいのだけれど、メンテナンスなどはスター商会でなければ出来ないし、今後一般には販売する予定もないので、王城にレンタルするという形で落ち着くこととなった。そのうち魔石バイクも一般的になるかもしれないけれど、それまではこのままの契約で行くだろう。レオナルド達もその事には異論は無い様だった。


 魔石バイクに使用する魔石だけは王城側での準備となるのだが、それでも見た事の無い魔道具が安い値段で貸し出される事に事務官達は驚いていた。こんな安い金額でいいのかとリアムに何度も確認するぐらいだった。他の商会ではあり得ないことなのだろう。


「そう言えば今日はルイとピエールとトマスは一緒には来なかったのですね」


 契約が整い、皆でお茶を飲んでいると、アレッシオが三人の事を聞いてきた。

 王城で出されたお茶はユルデンブルク騎士学校の校長が出してくれた、ウエルス商会で販売されている高級茶葉のカルド茶だった。

 カルド茶はフォウリージ国のお茶で中々手に入らない物らしい。ウエルス商会にはそれだけの伝手があるのだろう。スター商会にはまだない物で、王都に進出するならばウエルス商会とは戦うことになるだろうし、リアムをいじめていたロイドには負けて居られないので、他国との付き合いも今後考えて居か無ければならない部分だと思った。


 お茶うけに出されたお菓子はふんだんにお砂糖が使われている高級菓子のようだった。

 これもウエルス商会のお菓子なのかも知れないが、あまり美味しくは感じられなかった。

 お菓子大好きなはずのリアムは珍しく手も付けて居なかった。もしかしたら実家のお菓子だと気が付いてわざと口にしなかったのかもしれないけれど、それだけではなく興味がない様に見えた。


 私はお茶を楽しみながらアレッシオにルイとピエールがスター商会で護衛のアルバイトをしたり、ブルージェ領の警備隊の仕事を手伝っている話を伝えた。そしてトマスは領主邸で訓練をしている事もだ。

 ピエールは親元を離れたこともあるが、このメンバーの中で自分だけがユルデンブルク騎士学校のBクラス出身で、皆より武術、剣術面で劣ることを気にしていた。

 その為ディープウッズ家にせっかく来ているのだからとアダルヘルムやマトヴィルの特訓を受けたり、ベアリン達に魔石バイクの乗り方を習ったりと、皆に追いつこうと頑張っている様子を伝えた。


 アレッシオだけでなくレオナルドもピエールの頑張りを聞いて、自分たちもピエールに負けない様に努力しなければと嬉しそうに笑っていた。

 自分たちだけでなくこれから一緒に魔石バイク隊を運営していく仲間の頑張りがとても嬉しい様だった。自分たちも負けてはならないと意気込んでいて、それだけでレオナルドとアレッシオが魔石バイク隊に強い決意を持って居る事が良く分かった。


 私達が皆で雑談を愉しんでいると、部屋をノックする音が聞こえた。

 部屋にやって来たのはレオナルドの父親である、レチェンテ王だった。


「父上、今日は魔石バイク隊の契約だけなので、忙しい父上は来なくても大丈夫だと申したでは無いですか……」

「あ、うむ……そうなのだが……なんだ……その……気になってね……」


 護衛や事務官、傍付きの使用人たちをぞろぞろと引き連れてやって来たレチェンテ王を見て、レオナルドは呆れた様な表情を浮かべていた。もう成人して一人前となったレオナルドからすると、心配でやって来た父親の事がうっとうしい様だ。その顔には呆れた様な物が浮かんでいた。従弟であるアレッシオも叔父であるレチェンテ王の過保護な様子に苦笑いを浮かべていた。


 レチェンテ王の登場に、リアム達やアヤンとヴィハーンもサッと椅子から立ち上がって頭を下げた。私とセオ達も立ち上がり挨拶をした。こうなる事が嫌でレオナルドはレチェンテ王をこの契約に立ち会わせたくは無かったのだろう。自分と友人たちだけの気の置けない時間を王の登場で邪魔されたくは無かった様だった。そう考えると王という職業は孤独なのだろうな……とちょっと同情が湧いた。


 レチェンテ王ってば、本当に親ばかなんだね、成人してもレオナルドの事が可愛くって仕方がないんだ……きっと執務で忙しいのに時間を作ってわざわざこの部屋に来たんだろうね。うんうん、気持ちはよく分かるよ! 私だって親ばかだもの!


「レチェンテ王、先日は私の友人のピエール・ドルダンの事で大変お世話をお掛け致しました。ピエールもとても感謝しておりました。本当にありがとうございます」

「いえいえいえいえいえいえ、ララ姫様! 我が国の者の不始末でございます、どうか気になさらないで下さいませ、私の王としての監督不行き届きでございますので」


 レチェンテ王は良い父親という事だけでなく、私みたいな小さな子にも優しい上に、一貴族であるピエールのことも心の底から心配してくれて居る様だった。こんなに優しい人が王様なんてレチェンテ国は恵まれているみたいだ。お父さんが優しいからレオナルドも良い子なんだなと良く分かった。子は親の背を見て育つとは良く言ったものだ。私もセオ達に立派な背中を見せれるようにレチェンテ王を見習おうと決めた。


「レチェンテ王、もしよろしければ私と文通友達になって頂けませんか?」

「「「「文通友達?!」」」」


 部屋に居る皆が私の言葉を聞いて驚くのが分かった。

 レチェンテ王は口を開けてポカンとしているし、レオナルド達はレチェンテ王と私を首が可笑しくなるのではないかと言うぐらい見比べている。セオはニヤニヤしていて、リアムとクルトは頭を抱えていた。なんでそんなに驚くのだろうか? と思ったけれど、よく考えたら親ばか同好会を作りたいと思っていたのは私だけだったと思い至った。

 突然十歳の子に文通しましょうと言われてもそれは驚くよねっと納得できた。


「えーと……レチェンテ王はとても聡明で素晴らしい方だと思いまして……私も見習わなければと思ったのです……私の友人……と呼んではでは不敬ですよね……」

「と、と、とんでもございません! 有難い事でございます! 是非その文通友達と言う者にならせて下さいませ!」

「まあ、レチェンテ王は本当に優しい方なのですね。アダルヘルムとも仲が宜しいみたいですし、私とも仲良くしていただけるととても嬉しいですわ」


 アダルヘルムとレチェンテ王が文通友達なのは知っていたので、私も仲間にして貰えて嬉しいと伝えると、レチェンテ王の顔色は何故か青い物に変わった。きっとアダルヘルムの事を思いだしたのだろう……アダルヘルムの美しさは怖いぐらいだもんね。


 うんうんと一人で納得していたのだけれど、クルトには視線でどうして文通友達なろうなんてそんな思考回路になったのですか? と言われて居る様だった。後で親ばか同好会の話しをクルトにもアダルヘルムにも伝えなければならないだろう。もしかしたら他の人も入りたがるかもしれないけどね。楽しみだ。


「そうですね、ユルデンブルク大公も文通のお仲間に入って頂けないでしょうか?」

「アントーニオもでございますか?」

「父上をですか?」


 私はアレッシオとレチェンテ王にこくんと頷いて見せた。

 ユルデンブルク大公が親ばかなのは卒業式で良く分かっていた。親ばか同好会に相応しいメンバーだろう。これにプリンス伯爵も入れたりタルコットも入れたりトミーやアーロも入れれば完璧だ。親ばか同好会、乙女心分からない隊よりもずっと良い気がする。


 ニマニマ……ではなくニコニコとして居るとレチェンテ王は「承知いたしました」と文通を受け入れてくれた。これで子供自慢を出来る場所が確保できた。セオやルイの事だけじゃなくてスター商会の子供たちの自慢も出来る場所が確保できたことに私は大満足だった。


 レチェンテ王はレオナルドに背中を押されるようにして部屋を後にした。

 反抗期を迎えた息子の対応とかも同好会の皆で話し合えたらいいなーっと思って居たら。ボソッとリアムが私の耳も下で囁いた。


「ララ、文通はウイルバート・チュトラリーの為の対策なのか? それともスター商会が王都に進出する為に王家とコネを作るために言ったのか?」


 まったくそんな事は考えて居なかったのだけど、真剣な表情のリアムには親ばか同好会の話などせず「勿論両方だよ」と言ってレディスマイルで誤魔化した私だった。セオとクルトには見破られてたみたいだけど……スター商会の会頭としてそこは笑顔で頷いた私なのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る