第329話 お母様
やっと魔道具作りにも手を出せる様になった頃、アダルヘルムからお母様に会う許可がおりた。
私は嬉しくて飛び上がりそうだったが、無事気持ちを抑えるが出来、そして魔力も放出させる事はなかった。修行の成果と言えるだろう。
私は今、キーホルダー作りを頑張っている所だ。
ゼン達は秋には学校に入学になる、以前約束した通り賢獣キーホルダーをプレゼントしようと思っていたのだ。
けれど困ったことにこれがすんなりとはいかなかった。
先ずまだ身体強化を掛けていないと長時間の行動ができないことが一つの理由と、もう一つは身体強化を掛けて居ると、自分では微弱の力のつもりでも怪力少女になってしまい、繊細な力加減がとても難しかったのだ。
まあ爆発少女でなくなっただけ良しとしよう……
そして体が落ち着いてきたことでココと森に行く事も許された。
まだ出かけてはいないのだがベアリン達と一緒に森の中へと遊びに行く予定を立てている所だ。
計画では私は夢だったココの背に乗ってお出掛けする予定でいる。
ココも私を乗せることをとても喜んでくれているので、きっととっても楽しいお出かけになることは間違いないだろう。セオが学校に居ることが残念でならない。きっとココの背中に乗ってお出掛けと聞けば喜ぶこと間違いないだろう。卒業したらセオも連れて森に行きたいと思っている。
アダルヘルムは私の森へのお出掛けを珍しくすんなりと賛成してくれた。
きっと反対されるだろうと思っていた私は拍子抜けだった。
アダルヘルム曰く、森へ行って体力作りと魔力使いの両方を出来るだけ行ってきて欲しいとの事だった。それで体が落ち着く様なら、今後の朝練は森でのお出掛けに変えるそうだ。
剣術の朝練をしようとして木刀が何本も折れてしまったのが原因かもしれない……
そして私が起きてからもずっと私の側を離れなかった蝙蝠のキキだが、私の魔力が安定したことで安心したのか、最近は屋敷の中を探検したり、ココと一緒に森の中に遊びに行ったりもしている。
ココの事を(オネーチャーン)と可愛く呼んでいて、ココもまた兄弟ができたととても喜んでいた。ココにとってはセオが弟で、キキが妹のようだ。そして皆可愛い私の子供たちでもある。仲が良いところを見て親としてはとても嬉しく感じているのだった。
そのキキだが、どうやらこの世界の蝙蝠とは別の生き物のようだ。
あの少年……いや今は青年だろうか……ウイルバード・チュトラリーが何らかの魔法陣を使い高位の悪魔を呼び出そうとしてキキを呼び出してしまった様だ。
彼にとっては失敗なのかもしれないが、私にとってはあの時引き出される魔力を封じ込めることが出来たので成功だったといえるだろう。
それにキキはとっても可愛い。「オカーサーン ダイスキー」何て言われた日には魔力ではなく鼻血が溢れ出るかと思ってしまった。キキは蝙蝠では無くて私にとっては可愛い天使ちゃんなのだ。
もうウイルバード・チュトラリーが返してといっても絶対に渡すつもりはない。そもそも私の魔力で生まれた子なので私だけの子供だ。セオの事はお父さんだと思っているので、ウイルバード・チュトラリーの出る幕は無いだろう。
こんな可愛い子を要らないなんて言った事を後悔するが良い! へへんだっ。
そして今日はお母様に会うのでアリナにとびっきり可愛く仕上げてもらった。
自分でもドレスを触るのは出来るようになったのだが、着つけるのはまだ怖いので未だにアリナに甘えて居るのが現状だ。
先日ちょっと頭にココとキキとお揃いのリボンでも付けてみようかなーと思ったところ、ご想像通りぶちっとリボンはちぎれてしまった……。
アリナは私のこの怪力状態を嫌がることなく「いくらでも甘えて下さいませ」と言って喜んでくれている。なのでもう暫くはお願いすることにしたのだった。
今日は私が赤いリボン、ココが青いリボン、そしてキキが黄色いリボンをつけている。【信号機姉妹】と言ってアリナに説明したのだが全く意味が通じず撃沈した……
でもココは「アルジ ノ メノイロ」と喜んでくれ、キキは「オカアサン ノ カミノイロ」とリボンをとても喜んでくれた。なので私はそんな二人を撫でながら「ココのお尻の色とキキの瞳の色のリボンで私もとっても嬉しいよ」と喜んだ。
もう私は二人にメロメロだ。大好きでしょうがない。
うちの子可愛い!! 最高!!
そう! それよりも! アリナだが!
な、なーんと! 趣味の合う文通相手が見つかったらしい!
最近よくアリナに紙飛行機型の手紙が届くなと思ったら、どうやら文通相手からの手紙だった様だ。私とメイナードの様な仲なのだろう……少し頬を染めて「話がとても合うのですわ」と教えてくれた。あの表情から相手が男性なのは間違いないと私は判断した。
もしこれが恋愛へと発展するようなら全力で相手を調べ上げ、もしアリナにふさわしくない相手だったとしたら……
ふっふっふ……闇に葬るか……アダルヘルムに教えるかのどちらかを選択することでしょう……
でもアリナならばきっと素敵男子と結ばれるはず! 絶対に!
準備が整うとアダルヘルムが部屋に迎えに来てくれた。
アダルヘルムにエスコートされるのも、今までは抱っこだったり、手を繋ぐだけだったりしたが、今はちゃんと肘に手をかけることが出来ているので急激な自分の成長を改めて感じた。
アダルヘルムと廊下を歩いていると今日の魔力の調子などを聞かれた。
今朝はアダルヘルムとマトヴィル、そしてベアリン達と武術の稽古をした。なので思う存分魔力を使ったので体はとても落ち着いている。
アダルヘルムはそれを聞くとホッとした様子を見せていた。
他にも早く包丁を使いたい話や、ドレスを作りたい話、森へ行って果物を摘みたい話など、たわいもない話を愉しみながらお母様の部屋へと向かった。
そしてお母様の部屋の前に着くと、私一人で部屋へ入る様にとアダルヘルムに促された。
肩に乗っていたキキはアダルヘルムとお留守番だ。
私は二人に手を振ると、久しぶりに会えるお母様との面会に胸を弾ませて部屋へと入った。
お母様は何時もの勉強部屋にも、ソファのある応接室にも、そして執務室にもいなかった。
そうなるとやはり寝室なのだろうと思って、少し不安な気持ちに襲われた。
けれどアダルヘルムは病気では無いと言って居たので、何か事情があるのだろうと、淡い期待を持って寝室の扉を叩いた。
「お母様、ララです。入っても宜しいですか?」
「フフフッ、ええ、ララ、待っていたわ、そうぞいらっしゃい……」
お母様の声は相変わらずの美しい物だった。
それだけでご病気では無いのだと分かってホッとした。
部屋に入りお母様に近づいて行くと、どうして私に会わないでいたかがすぐに分かった。
私はお母様に近づきながら自然と涙が溢れてくるのを感じた。
久しぶりに会えて嬉しいからという気持ちも勿論あるのだが、それ以上にお母様の姿を見て胸が痛くなった……
これは現実なのか……夢であって欲しいとそう思った……
体の中で魔力がうごめくのが分かったが、涙と共に溢れている気がして、体から溢れ出すことは無かった……
お母様のベットの傍に立つと。お母様は私を優しく撫でられて、そしてジッと私を見つめてきた。
お母様の瞳はノアととてもよく似ていて美しい赤い瞳をしていた。
ウイルバード・チュトラリーの様な禍々しい毒のある様な赤い色ではなく、とても澄み切った宝石の様な綺麗に輝く物だった。少し私の娘のキキの瞳に似ていて、なんだか嬉しくなった。
私がキキのお母さんならお母様はキキのおばあ様だもの……似ていて凄く嬉しい……
「ララ……良く戻ってきましたね……私の可愛い子……さあ、貴女を抱きしめさせて頂戴……」
「お母様!」
私は泣きながらお母様に抱き着いた。
お母様は皺の増えた手で私をそっと撫でてくれた。
お母様の髪は銀色に美しく輝く物だったのに、今は白髪と呼べる色合いに変わっていた……
今までは年齢が二十歳そこそこにしか見えなかったお母様だったけれど、今は商業ギルドのギルド長のベルティやラウラと同じ位にしか見えなかった……
止まっていた時が一気に動き出したようなそんなお母様の様子に、私はお母様の死期が近い事を悟った……
これが私のせいなのか、ウイルバード・チュトラリーせいなのかは分からなかったけれど、お母様の残された時間があとわずかなのだろうと悟ると、胸が張り裂けるほど痛くなった。
「お母様……お母様……私……」
「フフフッ、ララ、驚いたでしょう、ごめんなさいね、中々会えなくて……」
私は首を横に振った。会えなかった理由は分かっている。絶対に私の為だ……
魔力が落ち着かないうちにこの姿のお母様に会って居たら、私はどうなっていたか自分でも分からない……
ウイルバード・チュトラリーに有った時に悪い気持ちに引っ張られそうになったことを思いだした。
もし不安定な状態でお母様のこの様子を知ったら、興奮してどこかに居るウイルバード・チュトラリーを探しに行った可能性もある……そうならない様にと、お母様が皆に口止めをしていたのだろう……
お母様は私の事を一番に考えて下さったのだ……
「ララ、私が急に年を取っていて驚いたでしょう? フフフッ、でも中々素敵だと思わない?」
「お母様は……いつだって……私の女神さまです……」
私が泣きながらそう答えると、お母様は「まあ!」と可愛らしく驚いてクスクスと笑い出した。
例え年をとってもお母様の美しさは変わらないし、衰えることは無い。本当に私の中の女神さまはお母様なのだ……
お母様は私の涙をハンケチで優しく拭って下さった。
優しく微笑まれるお母様はやっぱりとても美しかった。
そして私が泣き止むとお母様はベットの横の椅子に座るようにと声を掛けた。
私は色々と聞きたい事が有ったはずなのに、声に出すとまた泣きそうな気がして、お母様の話を待つことにした。
お母様は一つ息をつくと、ゆっくりと話を始めてくれた……
「ララ、先ずは私が今とても嬉しい気持ちでいるという事だけ伝えておくわ」
「……嬉しい?」
お母様は心からそう思っているようなスッキリとした笑顔を浮かべていた。
だから泣かなくていいのよ。とそう言われているようだった。
「私に残されている時間は、残りわずかでしょう……早ければあと半年……もってもあと二年が良いところだと思います……聡いあなたなら私の様子で気が付いたのではないのかしら?」
お母様にそう言われ、私はこくんと頷いた……
お母様にあった瞬間にもう一緒に居れる時間は長くないのだろうと、そう感じていたからだ……
「ララ、でも悲しまないで頂戴……私は本当に嬉しいのですよ……もう間もなく……やっとアラスター様に会えると思うと、フフフ……不思議ね、死を迎え入れることが愛おしく感じるのよ……」
そう言ったお母様はとても美しかった。
お母様は今もなお、お父様を愛し、そして恋をしているのだろう……
娘としてこんな嬉しいことは無いけれど……少しだけ焼きもちを焼いてしまった……
それがお父様になのか、お母様になのか、それとも恋が分からない故の羨ましさからなのかは分からなかったけれど……気が付くと私も笑顔になれていたのだった……。
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