第327話 久しぶりのスター商会
修行の成果か、やっと、やっと、意識をしていれば普通の女の子として過ごせるようになって来た。
勿論気を抜いてしまうと何時もの癒し爆弾パターンになってしまうのだけど、それでも何発も空へと打ち上げる事は無くなってきた。
アダルヘルムからもスター商会へ行って良しと許可を貰え、胸が弾んだ。
危なくその瞬間魔力を爆発させそうになったけれど、笑顔で押しとどめることが出来た。
これも厳しい修行の成果だと言える。
まあ、修行は ”ゆっくり歩く” という物なのだけど……
そしてスター商会で無事に一日過ごすことが出来たら、今度はお母様に会わせて貰える許可も貰えた。私の魔力が精神力に引っ張られるのはアダルヘルムも良く分かって居たので、落ち着くまではお母様ご自身が私とは会わないと仰られていたらしい。
この二年間眠っていたことで、お母様にも沢山の心配を掛けてしまったと思うと申し訳ない気持ちで一杯になった。会った時にはきちんと謝りたいとそう思う。
それに元気になった姿を見て頂いて安心していただきたいと言う思いもあった。
以前なら自分の身の回りの事は殆ど自分で行って居た私も今は力の加減が難しいため、アリナが幼いころの様に、髪を結ったり、ドレスを着つけてくれたりとしてくれている。
先日までの私なら手に櫛でも持とう物なら力加減ができなくて粉々にしていた事は確実だっただろう。食事を摂ろうとしてお皿だけでなくテーブルまで切ってしまうぐらいだったのだから。
でも今はナイフもスプーンも使いこなせるようになって来たし、グラスも持った瞬間粉砕しなくなった。
これなら外での食事も大丈夫でしょうとアダルヘルムにも認めてもらえた。修行のたまものである。流石私! と褒めてあげたい。
身支度を整え、ディープウッズ家の屋敷内にある転移部屋へと向かった。
するとアダルヘルムが部屋の前で見送りの為か待っていてくれた。
アダルヘルムが綺麗な瞳で私を見つめると、その美しい緑色の瞳は心配そうに揺れているのが分かった。
「ララ様、昨日も話しましたが、決してクルトから離れないようにして下さいね」
「はい、勿論です。離れません」
「それから興奮しすぎませんように、特に子供たちに会った時は心を落ち着かせてくださいね」
「は、はい、肝に銘じます……」
アダルヘルムの言う事は 確かにその通りです と私も真摯に頷く。
久しぶりにアーロとミアの子である(私の孫)ステラにでもあった日には、興奮して空にでも飛び出してしまいそうだ。
アダルヘルムにもそれが分かるのか、後ろに控えているクルトに視線で「くれぐれも頼みます」とお願いしていた。これ迄の行いで私の信用度は低い様だ……
今日のクルトは戦場へでも赴く兵士の様な気合の入った表情だ。
それだけ私の魔力の事が心配なのだろう……迷惑を掛けて申し訳ない気持ちで一杯だ。
しゅんと落ち込んだ私の頭をアダルヘルムが優しく撫でた。
背の伸びた私はアダルヘルムを近くで見つめても、それ程見上げることも無くなった。寂しさもあるが嬉しくもある。宝石のようなアダルヘルムの瞳が間近で見れてとても嬉しいからだ。
やっぱりアダルヘルムは美しい男性だと凄くそう感じた。
「ララ様、今日まで厳しい訓練を頑張ったのです。今日はスター商会を楽しんでいらして下さい。後でベアリン達も向かわせますから」
「はい、有難うございます」
ベアリン達は毎日魔石バイクでディープウッズの森の見回りをしてくれている。ココも一緒に朝夕二回だ。
その為スター商会にはその見回りの後からやってくる。
普段ならばスター商会へ来た後は、メルキオール達とブルージェ領の見回りをするのだが、今日は私の為にスター商会内で待機していてくれるようだ。
これだけの護衛に付かれると何だか本物のお姫様のようで恥ずかしくなる。
クルトにそう話したら「ララ様はディープウッズ家のお姫様でしょう」と突っ込まれて、それもそうかと納得した。まだまだ蘭子は抜けないようだ……
もし王家のお姫様が出かけるとなったら物凄い護衛やお付きの者が付くらしいので、そう考えると私は今までかなり軽装で出かけていたことになる。
まあ、私自身が強くて転移も出来るからと言うのもあったのだろうけど、今はやっと自分の魔力になれて来たところなので、一人で気軽にお出掛けとは行かないのだ。
皆には暫く迷惑を掛けてしまうが今は甘えることにしている。皆の優しさには感謝しかない……
アダルヘルムは私に頷いて見せると、今度はクルトの方に向き合った。
「クルト、ララ様を頼みますね」
「はい、勿論です」
私とクルトはアダルヘルムと分かれると転移部屋へと入り、スター商会へと向かった。
スター商会へ着くと、リアムが仕事が忙しいはずなのに転移部屋の前で待っていてくれた。
嬉しくて思わず駆け寄って抱き着きたくなってしまったが、そこはグッと堪え、静々と近づきそっとハグをした。
背の高いリアムとはまだかなりの身長差があるが、それでも以前より抱き着くのが高い位置になった事が分かる。
前は良くリアムのお腹辺りに体当たりしてリアムが悶絶していたなと思い出し、可笑しくなった。リアムも同じことを思いだしたのか「一つ危険が無くなった」と言ってウインクして見せた。今日も変わらずイケメンのリアムであった。
ゆっくり歩いてリアムの執務室へと行くと、部屋ではランス、ジュリアン、ジョン、ローガン、ガレス、そして双子のグレアム、ギセラが待っていてくれた。久しぶりに会う私を見て、目元に薄っすらと涙をにじませる人もいてちょっと恥ずかしくなったが、先ずは心配を掛けたお詫びをした。
「皆さん、心配をお掛けして申し訳ありませんでした。私はすっかり元気になりましたので安心してくださいね」
ニッコリと微笑んでそう言うと、私の元気な姿に皆安堵してくれたようだった。
私はリアムに促されゆっくりと(ここ大事)ソファへと腰かけた。
緊張していたけれどソファは倒れることも壊れることも、そして穴が開くことも無くて心から安心した。修行の成果がここでも発揮されたようだ。
暫くするとまずはティボールドやニカノール達スターブティック・ペコラの皆がやって来た。店を開ける前に私の顔を見に来てくれた様だ。嬉しい。
「ララちゃーん!」
ニカノールは部屋に入ってくるなり私に抱きつこうとしたが、手前で何かを思い出す様にハッとピタリと止まった。きっとまだ魔力の調整が不安定とでも聞いて居たのだろ、その後そっと優しく抱きしめて来たので可愛くて笑ってしまった。
「ララちゃん、心配したわ……本当に無事で良かった……」
「ニカ、心配掛けてごめんね。お店を守ってくれてありがとう」
ニカノールとのハグが終わると、ブランディーヌ達とも順番に抱きしめ合った。皆な涙目になりながら私が無事だった事を喜んでくれた。
私は嬉し恥ずかしとはこんな気持ちなんだなと頬が熱くなった。やっぱりスター商会の皆も私の家族なのだ。彼らには何も無くて良かったとそう思った。
スター・ブティック・ペコラの皆が去って行くと、スター・リュミエール・リストランテの皆がやって来た。こちらも開店前に顔を出してくれたようだった。
サシャは相変わらずアイドルの様な素敵な笑顔だったけど、チョッピリ目がウルっとしているのが分かった。やっぱりこちらの皆にも心配を掛けたようだ、申し訳ない……
「ララ様、ご無事で何よりです……」
「サシャ、皆もありがとう」
泣いて喜んでくれている皆にお礼を言うと、ふとフレヤの手元が気になった。以前はしていなかった指輪をしているからだ。もしや? と思って見つめていると、フレヤが恥ずかしそうに微笑み頷いた。私が眠って居る間に結婚したようだ。
「フレヤ! おめでとうございます! 相手はどなたですか?!」
思わず力が入ってしまったのか、そっと手を置いたテーブルにピシピシとヒビが入ってしまった。興奮してしまった為ちょっと力が入ってしまった様だ。慌てて手をテーブルから離した。
ヒビは小さな物でビルやカイだったらすぐに直せそうでホッとした。今の私はまだ魔道具作りなどの細かい作業は出来ないから、謝って二人にお願いするしか無いだろう。
周りの皆は私の様子を温かな目で見ていて、リアムは「気にするな」と頷いてくれた。
優しい皆の様子に何だかとても大事にされているのが分かってくすぐったい気持ちになった。
みんな優しい……
「フフフ……ララ様、私の相手は今目の前におりますわ」
「えっ?! リアムなの?!」
リアムは思わずブッと飲んでいたものを吐き出してしまった。ひびが入った上にリアムによって汚されたテーブルを、ガレスがサッと拭き取ってくれた。ジョンの教育の成果か、リアムのそう言った行動にも慣れた物の様だった。私もリアムの懐かしい様子に思わず笑みがこぼれた。
「まあ、ララ様ったら、確かにリアム様はララ様の前に座ってらっしゃいますが、私の目の前の相手はこの人ですわ」
フレヤはそう言ってポンッと両手をサシャの肩に置いた。
サシャは肩に置かれた手にそっと自分の右手を乗せると、フレヤの事を愛おしそうに見つめていた。どうやらフレヤの相手はサシャのようだ。突然の出来事に私は目を丸くした。
サシャとフレヤ! お似合い! 滅茶苦茶お似合い! 素敵! 素敵すぎる!
「おめでとうございます!! 私も嬉しいです! はわぁー! 結婚式は? もう挙げたのですか?」
私が座っているソファがミシミシ、ギシギシと音を立て始めた。
クルトが「ララ様落ち着いて」と小さく声を掛けてくれた。私は頷きながら興奮を抑えようとしたが嬉しさからどうしても魔力が溢れてくるのが分かった。最悪癒し爆弾を打ち上げてしまえ! とそう開き直る感じになっていた。それ位嬉しくてたまらなかった。
「ララ様、私どもは式を挙げるつもりはございません」
「えっ? そうなのですか?」
「寮内でささやかなパーティーを皆が開いてくれましたので、それで十分なのです」
「フレヤはそれで良いのですか?」
結婚式は女の子の夢なのではないかな? と思ったが、フレヤは満足そうに頷いた。
「ララ様、庶民で結婚披露パーティーを行なえるのは裕福な家の者だけなのが普通なのですよ、それに私は自分が祝われるよりも人をお祝いする今の仕事が好きなのです。寮でのお祝いではドレスも着させて頂きましたし、サシャからは素敵な指輪迄もらえました。もう十分に満足なのです」
「フレヤがそれで良いなら私は何も言う事は有りませんが……」
フレヤのドレス姿が見たかった……と言うのが正直な気持ちだった。
絶対に可愛かったに決まっている……もっと早くに目が覚めれば良かったよー!
「ララ様、私共夫婦は今以上にスター・リュミエール・リストランテを盛り立ててまいりますので、夫婦共々これからも宜しくお願い致します」
「はい、こちらこそよろしくお願いしますですわ!」
サシャとフレヤはそう言ってとても良い笑顔を私に向けてくれた。
二人がもっともっと幸せになってくれると良いなと心からそう思った私だった。
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