第321話 魔力の使い方
「さあ、ララ様、体調を見ましょう……」
アダルヘルムが皆を部屋の外へと追い出し……いえ、診察の為にちょっと皆に部屋の外へ出てもらった。
オルガやアリナはまだ涙が引いておらず、目元をハンカチで押さえながら部屋から出て行き、マトヴィルは腕によりをかけて美味しい料理を作ってくれると言って、ウインクして出て行った。
セオは学校から転移で抜け出して居たようで、学校に一度戻ってルイに話をしたらまたディープウッズ家に戻ってくると言って、嬉しそうに出て行った。そんなに気軽に学校から転移して良いのかな? と思ったけど、アダルヘルムが何も言わないところを見ると、きっと許可でも貰って居るんだろうなって納得できた。
ベアリン達はスター商会や研究所、それに領主のタルコット達に話してくると元気よく飛び出していった。背が高いから扉の入口で頭をぶつけないかと冷や冷やしたけど、そこは慣れているのか大丈夫そうだった。
今この部屋にはクルトと、ドワーフ人形のスノーとウイン、そしてアダルヘルムが残っている。
私の肩には勿論蝙蝠のキキがくりくりお目目で可愛らしく、首をこてんと傾けながら私の様子を見ていた。可愛くって胸がキュンキュンなる。やっぱり私乙女心分かっているよね? って安心した。
ベットに戻り、アダルヘルムが私の手首で脈を取ったり、目を見たりと調べて居ると、急に部屋の中が暗くなった。カーテンでも閉まったのかと思ったら、ココが外から窓の近くに顔を出した。
(アルジ オキタ アルジ スキ)
「コ、ココ?!」
ココを見て驚いた。デカい! デカい! デカすぎる!!
大きいじゃなくて ”デカい!” って言葉がピッタリ合うぐらいにココは大きく成長していた。声も以前の様な可愛い物ではなく、野太い、お腹に響くような声だった。
二階建てバス? それ位かな? とにかく大きいし迫力がある。頭を撫でてあげたいけど、あれってどう考えても届かないよね……あ、でも背中に乗せて貰う事は出来るかも。
それにしてもココがカッコ良くなってる……男前目指してたからピッタリなんだけど……何だかちょっと寂しい……
でも待って……ココがこれだけ成長してたって事は……私が寝てたのって……一、二週間なんてものじゃないよね……
どのくらいの間寝て居たんだろう……と想像してぞっとして居ると、アダルヘルムが私の頭をそっと撫でた。私の表情を見て怖がっているのが分かったのかもしれない、なので優しいアダルヘルムとクルトの微笑みに少しホッと出来て、まあ、なる様になるかっ! とそう思えた。蘭子だったらあり得ない前向きな考えだろう。
「ララ様、今は身体強化を掛けておられる状態ですか?」
アダルヘルムに問いかけられて頷いて見せる。
最初はあの人達の攻撃を受けたせいで体が重いと思っていたけれど、ココの姿を見て気が付いた、私はずっと寝ていたから体が重いのだと。
起きた時は喋るのもおっくうになるぐらいに体が自由に動かなかった。一体どれほど寝ていたのかと自分に呆れてしまった。
「ララ様、一度身体強化を解いて頂けますか?」
「あ、はい」
直ぐにやってみようと思ったのだが、身体強化を解くのがとっても難しかった。
魔力を出している方が体が楽なのだ、抑え込もうと思うと額に薄っすら汗がにじんできた。
膨れた風船が割れないようなイメージで、そっと抑え込むようにゆっくりと魔力を抑えて行く、気を抜くと一瞬で魔力が破裂しそうで、凄く神経を使った。
時間を掛けて魔力を抑えこめたと思ったら、急に体の力が抜けて、ポテンッとベットに上半身が前のめりに倒れてしまった。まるで人形みたいな自分の姿に笑いたくなったけど、体が動かないせいで笑えない。アダルヘルムとクルトが慌てて私の体を起こしてくれた。
「ふむ……先ずは体の筋力を戻すところからですね……そしてこの膨大な魔力とうまく付き合って行かないとなりませんね……」
アダルヘルムは床を見て、私が歩いてできた足跡をジッと見つめていた。
確かに動くたびに家を壊すのは流石に恥ずかしい、とっても体重が重い子だと思われても嫌だし、出来るだけ早く魔力をコントロールする訓練が必要かも知れない……
「暫くは身体強化を極々弱く体に掛けて生活いたしましょうか、少しずつそれで体力と筋力も戻るでしょう」
アダルヘルムに返事をしようと思ったが、首も動かないし、口も動かし辛かったので、瞼でパチパチっと合図をして見た。アダルヘルムは分かってくれたようで、クスッと優しい笑顔を見せると頷いてくれた。
ハッ! ここでこのアダルヘルムの素敵笑顔にドキッとしないといけないのかな? それが乙女心? でもアダルヘルムはお父さんに近い存在のお兄さん? って感じだからなぁ……カッコイイとは思うけど……うーん……難しい。
神様も言ってたけど徐々にだね。きっとそのうち恋をしてドキドキが止まらなくなる日が来る筈!
「さあ、ではララ様、ゆっくり魔力を流して体を包んで下さい、微量を意識してくださいね」
私はまた瞼をパチパチしてアダルヘルムに ”了解” と送った。
少しの魔力と思うけど、体からやっぱり沢山の魔力が出たがるのが分かった。
今までの100パーセントの魔力が今や10パーセントぐらいの感覚だ。だからごく微量と思ってもとっても難しい。
0か100なら楽勝なんだけど、3出してって言われても「それは無理!」って叫びたくなっちゃう。
何とか自分の中では ”弱” の感覚の身体強化を掛けてみたけど、アダルヘルムは困った様な顔になった。
「ララ様にとってはこの強さで微量なのですね……」
体の中の魔力を抑え込もうとしているのだけど、意識していないとまた魔力が溢れ出しそうな感じがした。
何だか熱い飲み物を一気飲みして体の中に熱が入っているようで、体の内側が燃えている様な、お風呂でのぼせて早く涼しい所に避難したいって思ってしまうような、そんな感覚がして、今の私には魔力を微量で抑えるのがとても難しい事が分かった。
「ララ様、ではご自身の体が楽なだけ魔力を流して身体強化を掛けてみて下さい」
私は小さく「はい……」と呟くと体から魔力を放出した。
我慢しなくて良いと思うとホッと出来たが、体から多くの魔力が流れ出て居るのが分かった。
きっと先程癒し爆弾を空に打ち上げて居なければ、ずっと流れっぱなしになっていただろう。
壊れた蛇口の様な自分の体の状態に、如何にウイルバード・チュトラリーの使った魔法が危険だったかが分かった。
私は魔力が無限だから耐えられたし、今も生きて居られるのだと分かった。
そうでなければ最初に魔力を引っ張られた時点で体の中の魔力は底を付いていただろう。
それにもし生き残っていたとしても、魔力を使おうとするたび沢山流れ出てしまうのでは、どの道その後生きてはいられなかっただろう……
魔力を無限にして下さった神様には感謝しかなかった。
「これが……ララ様が楽な状態ですか?」
「はい、でも先程癒し爆弾を空へ打ち上げたから、この状態で済んでますが、そうでなければもっと大きな魔力を使って居たと思います……」
威圧にはなっていないはずなのに、大きな魔力を感じるからかアダルヘルムはごくりと喉を鳴らした。クルトも私を包む魔力の多さを感じるのか、青い顔でポカンと口を開けていた。
「そうですね……では何か魔法を使ってみましょうか……」
「はい、ではキキに魔力を上げますね」
「キキ?」
「はい、私の肩に居る蝙蝠です。キキと名付けました」
(キキ イイコ オカアサン ダイスキ)
アダルヘルムもクルトも今までキキの鳴き声しか聞こえて居なかったのに、突然言葉が聞こえてきたことに驚いて居る様だった。
キキを撫でて魔力を上げると、また私は魔力の流れが止まらなくなり始めた。
「ア、アダルヘルム……大変です。また魔力が止まらなくなってきました」
案の定体から魔力が溢れ出そうになって来た。
仕方なくまた窓辺に向かおうとベットに手を掛けると、遂にベットはギシギシギシッと音を立てて、ひびが大きく入ってしまった。ハッとなり焦ると、もっと魔力が溢れ出そうになる。
「ララ様、ベットの事は気にしなくて大丈夫ですから、ココに魔力を上げて下さい」
「は、はい!」
私がベットから飛び出すと、私の足が床に着いた途端、ズボッと穴が開いてしまった。
しまった!! と益々焦る。
「ララ様床も気にしなくて大丈夫です。後でマトヴィルが直しますから!」
「はい、ごめんなさい!」
アダルヘルム、自分じゃなくてマトヴィルに直させるんだね、と思いながら、薄い氷の上を歩くようにして窓辺に向かいココに近づいて行った。
ココの体は大きくなりすぎて今は私の部屋には入れないようだ。
いや正確には部屋には入れそうだけど、窓や扉を通過できそうにないと言った方が正しそうだ、それ程ココは成長していた。
テラスに出てココに手を差し伸べた。
ココは壁を登り私に近づいて来てくれた。
(ココ アルジ タベル ココ アルジ スキ)
ココは当たり前の様に私から溢れ出る魔力をむしゃむしゃと食べだした。
どうやっているのかは分からないが「ウマイ ウマイ」と言いながら美味しそうに食べている。
もしかしてココが急成長したのは私のせいなのかなって思うと、ちょっとだけ申し訳なくなった。
でもココは嬉しそうだから良いという事にしよう! と開き直る事にした。
ココがお腹いっぱいになった時、私の体はとてもスッキリしていた。
体の重りが取れた様だった。
「ココ有難うね、助かりました」
(ココ アルジ マモル アルジ ダイジ)
ココが頭を下げてくれたので、いい子いい子と撫でてあげた。
ココの体の毛も今までの柔らかい物とは違い、武器に出来るのでは? と思う程頑丈そうな毛に変わっていた。今の状態で初めてココに会う人は、ココの事を怖がりそうだなと思ってしまった。
中身はとっても可愛い女の子なんだけどね。
「アダルヘルム、スッキリしました!」
アダルヘルムの方へと振り向くと、私の部屋は酷い状態になっていた。
結局ベットは半分に折れてしまい、最初に開けてしまった床の穴は思ってよりも大きな物だった。それに氷の上だと意識して気を付けて歩いたはずなのに、床にはやはり私の足跡が付いていた。
アダルヘルムは苦笑いをしながら「はー……」とため息をついた。
「ララ様、暫くは魔力を抑える修行が必要ですね」
そう言ってアダルヘルムにしては珍しく声を上げて笑い出した。クルトまでもだ。
私もおかしくなって一緒に笑ったら、また床がミシミシと音を立てたので慌てて口を塞いだ。
どうやら乙女心の前に、乙女の体を取り戻すのが先決のようだ。明日からはアダルヘルムの厳しい修行が待っているだろう……
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