第320話 起きました。

『貴女がそれを望むのならば、私はそれを叶えるだけですわ……』


 私がララ・ディープウッズに戻りたいと伝えると、神様はそう言ってニッコリと魅力的な笑顔で微笑まれた。


 私の願い。


 それは大好きな皆の元に戻りたいと言う事だけ……


 皆には沢山心配を掛けてしまった。


 セオやアダルヘルムは自分を責めていた。


 リアムは苦しみ、マトヴィルは申し訳無さそうにしていた。


 それに他の人達の声も聞こえた。


 子供達は私に楽しい話を聞かせてくれた。毎日の日々の事、スター商会の事、沢山沢山話してくれて嬉しかった。


 タルコット達は謝っていた。


 自分達家族を守る為に私が傷付いたと……


 でも違う、私が皆を守りたかったんだ。


 それにいつでも転移出来るのだと油断していた自分が悪かった。


 皆に会いたい……


 また皆と楽しく過ごしたい……


 私の大切な仲間達、大好きな家族、愛する人達。


 前世では有り得ない程今は恵まれている。


 手放したない。諦めたく無い。 


 絶対に……





『神様、有難うございます。私はやっぱり今の自分が大好きです。神様が私に下さった仲間がとても大切なんです』


 私がそう言い切ると、神様は私をギュッと抱きしめた。


 いくら幼いララの姿だとはいえ、自分より年下に思える女性に、それもスペシャル美しく、パーフェクトボディの神様に抱きしめられるとドキドキした。


 神様の豊満な胸が私の顔に丁度あたる……


(やばい、神様胸大きい、くー、羨ましい!)


 私の心の声はダダ漏れな為、神様はクスクスと笑うと私を離した。

 もう少しあの柔らかい胸の中に居たかった気持ちもあったが、やっぱりちょっとホッとしていた。


『本当に貴女は面白い方、フフッ、それにしてもまだ前世の年齢に強く引っ張られている様ですね』

『えっ? そうですか?』

『ええ、思い当たる節は有りませんか? 子供らしくワクワク、ドキドキとしていますか?』


 ララでの生活をふと思い出す。

 やりたい事をやったり、作りたい物を作ったりと、思い立ったらすぐ行動と、子供らしく生きている様な気がする。


 けれど、母親の様だと誰かに言われるとそれが一番嬉しくも感じる。

 ララの生涯では母親になりたいと思っているからだと疑って居なかったが、もしかしてそれがララ(子供)になり切れていないと言う事なのだろうか? 

 それならばやっぱり半分以上はまだ蘭子のままなのかもしれない……


『ララさんの周りには沢山の出会いを用意したのだけれど、どうだったかしら?』

『あ、はい、皆な良い子(・)でとっても大好きです』

『……良い子? ですか……』

『はい、あー、良い家族? と言う方が正しいでしょうか?』


 神様は文字通りガックリと肩を落とし、片手を額に置いてしまった。


 私は何か間違った事を言ったのだろうか? 


 首を傾げて居ると、神様はまたニッコリと、今度は作った様な笑顔で私に微笑んだ。


『ララさん、誰かに……えー、そうね、こう、胸が ”キュンッ” と苦しくなる様な気持ちになったりはしましたかしら?』

『胸が……キュンッ?』


 私は思い出す様にうーむと腕を組んで考えた。


 一番キュンッとするのはやっぱりお母様の笑顔だろうか? 他には? セオの寝顔が可愛い時? リアムが子供っぽく拗ねた時なんかも弟の様で可愛いなと思う。

 子供達も「ララ様、ララ様」ってしたってくれると胸がキュンキュン鳴るし、女の子達の着飾った姿も可愛いくてキュン死しそうになる。

 生まれたてのステラも可愛いし、ココ達賢獣だって可愛い。


 キュンキュンする事だらけで、どれを答えれば正解なのか悩む所だ……


『あー、ララさん、もう大丈夫よ……』

『えっ?』


 そう言えば神様には頭の中が筒抜けなのを思い出した。説明しなくても私のキュンッを分かって貰えた様だ。

 良かった良かったと私がホッとしていると、神様はとても困った様な表情になっていた。


『フー、どうやら貴女には乙女心が抜けている様ですわねー』

『えっ? ええっ?』


 乙女なのに乙女心が抜けている? 何ですって?!


 今まで散々リアム達を ”乙女心分からない隊” と馬鹿にして来たのに、一番乙女心が分かってないのは私だったのですかー! これはショックで立ち直れないかも知れない……


(ううう……乙女心分からないんじゃ、結婚なんて一生無理かも……やっぱり生まれ変わった方がいいのかなぁ……)


『あー、ララさん、大丈夫よ。貴女は蘭子さんの時に自分の気持ちを抑え過ぎたのね、だから今はまだそういった気持ちに疎いだけですよ、ええ、そう、その筈です……きっとこれから少しずつ、大人になれば乙女心も、恋心もきっと分かって行く筈ですわ……たぶん……ですけど……』


 神様の最後の ”たぶん” と言う言葉がとても気になったけど、もう少し大人になればきっと乙女心が分かるはずだと私は前向きに受け取る事にした。


 大体まだ私は7歳、恋なんて早すぎる。せめて10歳ぐらいには初恋をして、15歳には婚約をして、18歳ぐらいで結婚して20歳で出産! これなら子供、5人はいけるかな? 


 フッフッフ、どうだ! これぞ乙女心なり!


『残念ながら、それは人生設計であって乙女心とは言いませんわねー』


 頭の中を読まれて神様の方へと振り返ると、神様は益々困った顔をされていた。

 またその顔も可愛いのだが『これは中々重症ですわね……』と呟いたのがとても気になった。


 いつか本当に乙女心が分かるだろうか……いや、何でも努力すれば大丈夫なはず! そうだ、戻ったら乙女を鍛えよう! ファイト、私! とにかくいろんな人に声を掛けて見るんだ!


 神様は 「ああ……」 と言いながらまた額を押さえていた。私の考えは ”乙女心分からない隊” に相応しい様だ……それも神様が悩むぐらいに……




 神様との話を終える時間が来た様だった。


 自分の体の周りが光り出したのが分かった。


 神様の困った様な笑顔が遠くなる。


 『10年振りに会えて嬉しかったわ、またね、ララさん』と言った神様の声のあと、私はララに戻った。





 パチッ


 目を覚ますと自室のベッドの上だと分かった。


 見慣れた天蓋が最初に目に付いた。


 トコトコトコ、と可愛い足音が胸の辺りから聞こえて来たと思ったら、あの時の蝙蝠が可愛い赤い瞳で私を覗き込んできた。首をコテンと右に倒してとても可愛い。「キキキッ」と私に話しかける様に鳴いてきた。


(ヒメサマ オキタ)

(ヒメサマ オキタ)


 ドワーフ人形のスノーとウィンが私を覗き込んできた。

 何だかか成長してる? キラキラしてる? 魔力を沢山持ってるみたいに見えた。


 起きあがろうと思ったのだけど、寝過ぎたせいか体が動かなかった。

 あれだけの事があったから流石に三日だけ寝ていた訳では無いようだ。1週間? それとも2週間? この状態では分からない。


 スノーがそっと私の背に手を回し体を起こしくれた。だけど座ってられなくてすぐにクッションにもたれ掛かった。声も出せなくてウィンが渇いている口元に水を持って来てくれた。けれど上手く飲めなかった。


 うーん、身体強化すれば動けるかな?


 取り敢えず軽く身体強化を掛けてみた。


 体が急に楽になって声も出せそうな感じになった。「あー、あー」とマイクテストの様に声を出す。

 蝙蝠が嬉しそうに「キキキッ」とまた鳴いていた。


「スノー、ウィン、おはよう。今何時?」

(ヒメサマ オキター! イマ ゴゴデス)

(ヒメサマ ミンナ イマ クンレンシテイマス)

「そう、有難う」


 訓練をしていると言う事は皆裏庭にいるのだろう。


 私の側にクルトが居ないのでクルトも一緒に訓練をしているのだろうと分かった。


 私は肩に乗った蝙蝠に話しかける。


「貴女にお名前を付けて上げないとね、何が良いかしら?」


 うーむ、と腕を組んで考える。


 スノーとウィンも私の真似をして腕を組んでいる。可愛い。あ、もしかしてこれが胸キュンッ? いやいや、そうじゃなくて、今は蝙蝠の名前……そうだよね、やっぱりここは


「キキ! 貴女の名前はキキちゃん、どうかしら?」

(キキ ウレシイ キキ オカアサン スキ!)

「お母さん? 私キキのお母さんなの?」

(キキ オカアサン ウマレタ キキ オカアサン スキ)


 やったー! 私遂にお母さんになれたよー!!


 念願のお母さん! 蝙蝠のお母さんだけど、それでも嬉しい!!


 私はキキを手のひらに乗せるとそっと頬擦りをした。


 ココの小さい時はもしゃもしゃした毛が気持ち良かったけれど、キキの体はつるんとして、ヒンヤリとして気持ちいい。普通の蝙蝠とはきっと違うのだろう。顔つきも可愛いくって仕方なかった。


「ふふ、キキ、これから仲良くしましょうね」


 キキをそっと撫でながら魔力を少し与えてみた。

 キキはキラキラと輝くと嬉しそうに(ウン オカアサン ダイスキ)と声を出した。

 私の胸はまたまたキュンッとなった。


 乙女心爆発!


 すると、久しぶりに魔力を使ったからか、体中から魔力が溢れて来るのが分かった。

 体全体からどんどんどんどん魔力が溢れて来る。コレは大変だ! と抑え込もうと思っても全然抑えられない、魔力は流れ出る一方で、身体強化を掛けているからかベッドがギシギシと音を立て始めた。


 やばい、やばい、これやばいよね!


 とにかく魔力を放出しようと思い、ベッドから起きあがろうと手を置くと、ベッドはミシミシと音を立ててヒビが入った気がした。私は益々焦りだす。


 立ち上がるとそこに私の足跡が付く、体重が重いのでは無くて身体強化の影響だ。一歩一歩歩くたびに砂浜にでもいるかの様に私の足跡が床に出来る。

 身体強化を解きたくてもこれだけ魔力が溢れていると難しい。


 とにかく危険じゃない魔法で魔力を使い切るしかない! とそう思った。


(オカアサン キレイ オカアサン キラキラ)


 確かに私は魔力で光り輝いている。


 キキが喜ぶ姿が可愛いくて撫で撫でしたいが今はそれどころではない、何とか窓辺に着くと空に向かって癒し爆弾を打ち上げた。

 

 まずは一発空にドーーン!


 大きな音と共に明るい光が花火のようにはじけ飛んだ。


 だけど一発ではスッキリしない、まだまだ魔力は溢れ出る。二発、三発……全部で五発癒し爆弾を爆発させてみた。


 でもそれでも、もう少しスッキリさせたい、そんな気分だった。


 すると、私の部屋にセオやアダルヘルム達が飛び込んで来た。皆驚いた様な必死そうな顔になっていた。


 そりゃー、突然癒し爆弾飛ばしたら驚くよね。ごめんなさい。

 だけどもう少しだけスッキリさせたい。

 

 私は前もって皆に謝る事にした。


「皆、おはようございます。ごめんなさい、なんだか魔力が有り余ってしまって……ついでなのでもう一発いいですか?」


 笑顔でそうごまかし、私はもう一発空へと癒し爆弾を飛ばした。ドーーン! とまた空で癒し爆弾が大きくはじけたのを見て、やっと体が軽くなった気がした。


「ふー、やっとすっきりしました。なんだか体中に魔力が溢れてしまって。あれ? 皆どうかしましたか?」


 皆が私に向かって駆け寄ってきて、勢いよく抱き着いた。


 そうだよね、一週間ぐらい寝てたみたいだし……心配掛けたよね。皆涙目だ。


 アダルヘルムと目が合った。

 アダルヘルムの綺麗な緑色の瞳もウルウルしてた。ごめんなさいと目で訴えて、そろそろ皆に離れてねと伝えて欲しいと目でお願いをしてみた。


 アダルヘルムは困った様にクスリと笑って頷いた。


 やっぱり心配掛けてしまったみたい。

 もう大丈夫だよと言う意味を込めて皆の頭を撫でるともっと泣かれてしまった。 


 私は離れて貰うのを諦めて、皆が泣き止むまでその身を皆に委ねたのだった。

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