第299話 剣術大会

 ユルゲンブルク騎士学校では毎年剣術大会と武術大会が開催される。


 これは前期に剣術大会、後期に武術大会となっており、まずは学年毎にクラス同士で対戦をする。


 クラス分けは成績順になっているので、普通に考えればAクラスが学年の代表になるのだが、中には勉強が苦手で下のクラスに居ても、剣術と武術は得意という筋肉馬鹿もこの学校にはいる。

 なので下のクラスであるEクラスやDクラスも活躍出来る場として盛り上がる大会でもあった。


 代表者はクラスから5名、勝ち抜き戦で先に三人倒した方が勝ちだ。セオ達Aクラスはセオ、ルイ、レオナルド、アレッシオ、マティルドゥが代表となっていた。

 同じ学年のDクラスの代表にはトマス、コロンブ、アデルが選ばれているので、対戦するのが今から楽しみでもあった。



 そしてついに剣術大会予選の、クラス対抗戦の日が来た。

 大将、副将、中堅、次鋒、先鋒をどう決めるかでAクラスの5人は話し合っていた。


「ジャンケンで良いんじゃね?」

「何を言っている! ここは実力順であろう!」

「実力順ですと、大将からセオ、ルイ、レオナルド、アレッシオ、私と言う事ですか?」

「女の子に先鋒はさせられないよ」

「俺はDクラス以外は何番でも良いよ」

「俺は沢山戦いたいから、先鋒が良いー!!」


 そして話し合いの結果。

 予選の戦いは先鋒ルイ、次鋒セオ、中堅マティルドゥ、副将アレッシオ、大将レオナルドとなった。ただしDクラスと当たる時はルイとセオは交代する様だ。

 一年生の優勝はここ百年は出ていない、はてさてどうなるか気合いが入る各クラスであった。


 まずはAクラス対Bクラス、先鋒のルイは気合い十分。反対にディープウッズ家の子息相手とあって尻込むBクラスメンバー、気が付けばルイの一人勝ちでAクラスの圧倒的勝利となった。


 続いて対Cクラス戦、またまたルイの五人抜き炸裂、それもあっという間に決着がついてしまった。Aクラスの生徒が盛り上がる中、代表の他のメンバーはつまらなそうにしていた。


「何だ! 私の出番が無いでは無いか!」

「僕の出番も欲しいなー、女の子達が待ってるし」

「私も少しは戦いたいです」


 てな事で、先鋒レオナルド、次鋒アレッシオ、中堅マティルドゥ、副将セオ、大将ルイに交代。Dクラス相手には先鋒になりたかったセオはガッカリだ。トマスとコロンブと対戦するのを楽しみにしていた様だった。


 Dクラス戦、これが事実上の学年決勝戦と言われていた。Dクラスはトマス、コロンブ、アデルがいる為、強いと噂されていた。Aクラスがもっとも警戒するクラスであった。


 試合が始まり、レオナルドは先鋒、次鋒と無事に倒した。中堅のアデルとの対戦は苦戦を強いられた。小回りの効く華奢な女の子に対して、自然とレオナルドの剣は緩んでしまった。結局アデルの勝利となり、次鋒アレッシオの出番となった。女の子にはめっぽう弱いアレッシオは早々に敗退。


 ここにアデル対マティルドゥの戦いが始まった。


 アデルは武術より剣術が得意、対してマティルドゥは剣術より武術が得意、二人の戦いは決着がつかず、時間切れの為引き分けとなった。両者十分に実力を発揮し、満足気に握手をしていた。

 

 そしてここでやっと待ちに待ったセオドア・ディープウッズの登場、会場中が黄色い声援で盛り上がり、向かい合うトマスは苦笑いを浮かべていた。


「何で俺の相手がセオなんだよー!」

「ハハッ、トマス宜しくね」


 試合が始まり、セオの一撃、一瞬で終わるかと思われていたが、それは違った。「ほらトマスこっち」「悪い癖が出てるよ」と指導する声が会場内に響く、時間ギリギリまで指導は続き、3秒前にセオの剣がトマスの喉元に来て試合終了。クタクタのトマスに対し涼しい顔のセオ、実力差は十分に分かっていた。


「セオ、強すぎ……疲れた……」

「ハハッ、また朝練頑張ろう」


 セオの笑顔に会場中の女子生徒の胸がキュンッとなった。(あー、トマスと入れ替わりたい!) トマスは女子生徒の思念で背筋に悪寒が走ったまま退場した。


 そしてDクラスの大将、コロンブが登場、セオと握手を交わしたコロンブは苦笑いだ。


「セオ、楽しんでるでしょう?」

「うん、だってやっと戦えるんだもん、時間沢山使わないと勿体ないでしょ?」


 コロンブが呆れた表情を浮かべると試合は始まった。またまたセオ先生の指導が始まる、「ほら、コロンブ、大振り過ぎるよ」「左がガラ空き」時間いっぱい掛けて指導をした後、セオに転がされたコロンブの負けが決定。Aクラスここまで三連勝、残るはEクラスのみとなった。


「私だけ勝ちが無いから、次の試合は私に先鋒を任せて貰えるかな?」


 このままでは、女の子からの人気に陰りが出始める、と心配したアレッシオが先鋒になった。


 Eクラス戦はアレッシオが三人、マティルドゥが二人を倒し、予想通りAクラスが学年代表の切符を掴んだ。


 そして一年生の結果を聞いて、闘志を燃やすニ、三年生。


 絶対に一年生に優勝を渡す訳には行かない。そんな恥ずかしい歴史を自分達の時代で作る訳には行かないぞ! 特に三年生は最後の剣術大会。何が何でも優勝だー! と燃えていたのだった。


 そして学年対抗戦がやって来た。


 一年Aクラスは先鋒アレッシオ、次鋒レオナルド、中堅マティルドゥ、副将ルイ、大将セオとして登録した。学年対抗は順番は変えられない、両学年ともこのまま戦う。


 まずは二年生対一年生。ここまで来ると一年の体格の差がありありと出ている。二年生の大将はゴリラ……いや、かなり体格が良い。その上メラメラと炎を燃やしているので、一年生の先鋒、次鋒のアレッシオとレオナルドはその怒っ気にやられ、二年生の先鋒の前に膝をついた。マティルドゥは先鋒と引き分け、女子としての体格の違いに悔し涙を流していた。


 そしてルイの登場。ちびっ子ルイ。相手はディープウッズ家の子息とはいえ、見た目が幼い為舐めて掛かった。ルイは二年生の次鋒、中堅、副将と順当に倒し、遂にたった一歳上とは思えない、サバ読んでるよね? 状態のゴリラ先輩と試合をする事になった。ルイはワクワク顔だ。


「フッ、ディープウッズの子息だからと言って、手加減はしないぞ」

「へへっ、じゃあ俺もそーしよー」


 ゴリラ先輩、ここでルイが今まで本気を出して居なかった事を知った。

 試合が始まるとルイの動きは今までの四人との対戦の時とは明らかにスピードが違った。ルイはクラス戦の時にセオが時間をギリギリまで使っていて楽しそうだったのを思い出し、自分もそれをやろうと決めて居た。

 小さい体を使ってちょこまかと動きまわり、ゴリラ先輩はヘロヘロだ。

 間も無く試合終了となる時にルイはゴリラ先輩の腹へと剣を突き出した。ルイの勝利に会場中から溢れんばかりの拍手が上がった。


「凄い! ルイ君可愛い!」


 ルイ・ディープウッズもまた、この大会で女子生徒からの人気を益々ゲットしたのだった。


 そして試合に出れず、一人つまらなかったセオは大きくため息をついていたのだった。


 次は対三年生。これに勝てば優勝だと気合いが入る一年生。


 三年生の大将はアレッシオの兄カミッロ・ユルゲンブルク、この学校の生徒会長でもある学校一の人気者だ。そんな兄に憧れてユルゲンブルク騎士学校に入学したアレッシオは兄自慢をする。


「兄上は剣筋が美しいんだ、僕の理想の姿だよ」


 うん。見た目はソックリだから二年後にはアレッシオも同じになれそうだよ。と皆が心の中で頷いていた。アレッシオはもしやナルシスト? と思ったが誰も口には出さない。


 試合が始まると、三年生の先鋒の前にアレッシオ、レオナルド、マティルドゥが倒された。三年生とは体格も体力もスピードも何もかも違った。大人と子供だとそう思わされた三人だった。


 そしてルイ登場。女子生徒の黄色歓声が会場中に飛び、先鋒三年生、羨ましくてギリギリと歯軋りをする。こんなちびっ子が人気があって、三連勝した自分に歓声が無い。納得出来ない先鋒先輩であった。


 先鋒相手という事もあり、ルイは難無く倒してしまう、次鋒も瞬殺、益々女の子達のハートに火が着いた。


「きゃー! ルイ君頑張ってー!」


 年頃の三年生の中堅先輩は、面白くない。 

 まるで自分が悪役の様では無いかとギリギリと歯軋りをする、始め! の合図の前に剣を振ったら、運悪くルイに当たり、ルイは怪我の為救護室に運ばれる事となった。

 中堅先輩失格となり女子生徒から大ブーイング、彼のトラウマになってしまった。可哀想に……


 ここでセオドア・ディープウッズがやっとこさ登場。

 「きゃー!」と黄色歓声と「うぉー!」と野太い歓声も飛ぶ、三年生副将先輩、イラッとしているが、自分の応援とは思って居ないセオは涼しい顔だ。


 はー、やっと試合が出来る、座っているのもつまらないんだよねー


 と呑気なセオに対しメラメラと燃える副将先輩。何を隠そう、彼は剣術部の主将でもあった。心の中では (剣術部に入らなかった事を後悔させてやる!) と吠えて居た。


 始め! の合図と共に主将先輩は素早い動きでセオに攻撃を仕掛けた、普通の生徒だったらこれで決着が付いていただろう、それ程の渾身の一撃だと自分でも思っていた。

 だが、セオはそれを簡単にいなした。そして大きく隙が出来た主将先輩に蹴りを入れると首元に剣を置いた。


 一瞬の出来事に会場中が唖然となった。主将先輩はこの学校を代表する実力者、それが子供の様に扱われたのだ、皆の驚きは凄まじい物だった。


「先輩、有難うございました。ただ、気合いの入れ過ぎで冷静さを失ってはダメだと思いますよ」


 年下の少年に指導されても主将先輩は怒りも湧かなかった。それだけ実力差があると自分でもそう思った。


「セオドア君、有難う。出来れば偶にで良いから手合わせをお願い出来るか?」

「ええ、喜んで」


 握手をした主将先輩、感動していた。

 セオドア・ディープウッズは歴史に残る騎士となる、そう確信していた。


 そして大将戦。

 アレッシオの兄、カミッロ登場。

 カールの掛かった金髪をサッと掻き上げ、カッコ良く試合場に上がる。弟のアレッシオまで「きゃー!」と歓声を上げていた。


「カミッロ・ユルゲンブルクだ。宜しく頼むよ、セオドア君」

「はい、セオドア・ディープウッズです。宜しくお願いします」


 握手を交わし試合は始まった。

 セオはカミッロの攻撃にクスリと口元がゆるんだ。


 ハハッ、アレッシオそっくり!!


 だが、カミッロの攻撃は所詮実戦では鍛えられていない物、魔獣も倒すセオの相手にはならなかった。

 カミッロも一瞬でセオの前に膝をつき敗れてしまった。


 これにより、百年以上降りの一年生の優勝が決まった!

 会場中が盛り上がる中、セオはカミッロに話しかけた。


「カミッロ先輩、魔獣を倒したらもっと強くなれますよ」

「ま、魔獣?」

「はい、陽炎熊とか良い練習相手になると思います」


 そう言ってニッコリ笑うセオを見て、カミッロは自分との実力の差を思い知った。凶悪で凶暴と恐れられている陽炎熊を、良い練習相手と言ってしまうのだ。

 自分では相手にもならない事が良く分かった。


「有難う、小さな魔獣から初めてみるよ」

「はい、頑張って下さい」


 こうして本年度の剣術大会は一年生の優勝で幕を閉じた。


 この大会を期にセオもルイもユルゲンブルク騎士学校で益々注目を浴びる事になるのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る