第226話 益々の発展に向けて

 遂にセオとルイが騎士学校へ入学する長の月を迎えた。

 明日の朝には王都に向けて出発だ。騎士学校は完全寮生活となる為、セオとルイは長い休みにならなければディープウッズの家に戻ってくる事は出来ない。王都に住む学生も週末だからと簡単に家には帰れないようで、寮での集団生活も騎士になる為の勉強の一環なのだそうだった。


 セオは転移が出来るので、戻って来ようと思えばいつでもディープウッズの屋敷に戻れるのだが、寮では同室の人間がいるので、気軽に転移などは出来ないだろう。同じ年代の少年たちと切磋琢磨してセオとルイが沢山友人を作り、騎士学校生活を楽しんでくれたら良いなと思う私であった。


 王都行きだが、アダルヘルムは勿論の事、今回入学式もあるという事で、私も一緒に行くことになった。子供の学校への入学式に参加できるなど夢の様な出来事に、アダルヘルムから許可が下りた時は舞い上がり、興奮して夜眠れなくなるぐらいだった。防犯カメラ魔道具を改良して入学式を絶対の録画しようと私は心に決めて、早速小屋に閉じこもったぐらいであった。

 アダルヘルムには感謝して、何度もお礼を言った。アダルヘルムは笑顔で気にしなくて良いですよと言ってくれた。流石アダルヘルムやはり紳士である。と思ったのだがどうやら自分の目の届かぬところに私を置いて行くのが心配だった様で、だったら王都へ一緒に連れて行ってしまおうと思い至り、アダルヘルムは妙案にニヤリと笑っていたようだった。




 さて、ビール祭りの後だが、翌々日にはお招きしたお客様達は無事帰路についた。プリンス伯爵とワイアットとはセオ達が王都に行った際に会う約束をし、ビアンキはマルコとビル達兄弟と会って挨拶をし、ミュラーとはカサエルの事をセオとルイに内緒で話し、そしてダニエル・エイベルは双子のグレアムとギセラに両親の様子などを報告していた。どのお客様もブルージェビールと共にスタービールも大量に購入したようで、満足げな様子で帰っていった。自宅で飲み過ぎないかが少し心配になるぐらいだった。


 そしてその週の太陽の日になると領主のタルコット達と商業ギルドのギルド長であるベルティ達がスター商会へやってきて、来年のビール祭りに向けての改善点や今回の収益などの話し合いが持たれた。勿論言い出しっぺであり、スター商会の会頭である私も参加することになったのだった。


「ブルージェ領のビールの売り上げですが、たった一日で今迄のブルージェ領のどの特産品よりも多い利益をもたらしました。ブルージェ領では麦が安く多く取れるため費用があまりかからないという事もありますが、やはりスター商会様の魔道具や教育などの、無料での協力があっての事だと思います。私たち領邸の物だけではこれ程の利益は生み出せなかったでしょう。それにビール祭りもここまでの規模に出来たかどうかも分かりません」



 タルコットの第二夫人ベアトリーチェの父親であり領内の会計担当のフリストフォル・コッポラが真剣な表情で今回のビール祭りの成功はスター商会のお陰だと言ってきた。会頭として私も嬉しいが、副会頭のリアムもお礼を言われて満足げだ。ランス達も良い笑顔で頷いている。短い期間で一生懸命頑張っていたのでビール祭りが成功して嬉しさも一入だろう。


「商業ギルドも公共住宅のお陰で店を新たに持てる者が出来て助かっているよ。それからタルコット達も知っているだろうが公共住宅に住みたくてわざわざブルージェ領へ引っ越してくるものも今増えている、後は他領の貴族共だね、別宅として屋敷を購入したいとティファ街の空いた屋敷に目を付けてるよ、これからもっとブルージェ領は発展すると見込んでの事だと思うよ。エストリラの街も慈善活動の一環でゴミ集めとやらをやってくれてるお陰で随分ときれいになった。これからあそこも土地を売りだして、別荘なんかを建てることになるだろうね。勿論その為にはもっと綺麗にする事が必要だけど見通しは明るいよ」


 ベルティの話を聞いて皆がうんうんと頷いている。ティファ街は元々貴族の別宅やお金持ちの大きな屋敷があった為綺麗に整備されていて街並みも美しいが、そこだけ綺麗なだけではこれからのブルージェ領の発展を考えてもダメなのだ。ブルージェ領全体が綺麗で、また行きたいと思わせる様なそんな街にならなければいけない。ここに居る皆は十分にその事が分かっている様だった。


「スター商会側はビールの売り上げは勿論ですが、何よりもポーションの売り上げが良かったですね。薬師ギルドでしか購入できないポーションがスター薬局では安く手に入りますから、領民だけでなく商人や貴族迄買って行っておりました。何せスター商会のポーションは”安くて美味い”ですから、高くてまずい薬師ギルドのポーションは買う気も起きないでしょう。その為今後の薬師ギルドの動きが心配というのはありますが、もし研究員で薬師ギルドを首になる者が居たらスター商会にお声がけいただけますでしょうか? スパイの事も心配でありますので十分な審査はしますが、スター商会で雇い入れたいと思っています」


 薬師ギルドでは才能よりも出身がどこかが優先されるところが有るらしい、今スター商会の研究員として働いているジュール、エタン、リリアンは才能は十分にあるのに第五研究所に回されていた。それは庶民出身という事もある様だ。第一研究所に居たノエミは貴族出身でその上才能もあり薬師ギルド活躍していたが、同じ第一研究所の職員が皆才能が有ったかというとそうでは無かった様だ。仕事が出来なくても貴族出身なら第一研究所は当たり前の様だし給料も良いらしい、大した仕事もせず、威張っている者は多く、ノエミはセクハラまがいの事を受けていたと言って居た。(まあ、ノエミの場合は極端なところもあるが……)

 なので才能が有るのにくすぶっているような若者をスター商会の研究所で雇入れられたらと思っている。タルコット達もビール工場の研究員として同じ様に雇い入れたいようだ。いつまでもスター商会の研究員に甘えてビール造りを行う訳には行かないとタルコットにも領主としての気合が入っているのであった。


「以前ララ様が仰っていた季節ごとのお祭りの件ですが……」

「なんだい? それは? 季節ごとってビール祭みたいなのを季節ごとにやるって言うのかい?」


 ベルティは喋った後に喉を潤していたお茶の入ったカップをテーブルに置くと、季節ごとの祭りの事を言い出したフリストフォルの方へと驚いた顔を向けた。あれ程大規模な祭りを毎回開くとなると露店出店者の選別などで商業ギルドも大変になる為、話を勝手に進められても困るようだ。フリストフォルを見るベルティの目がちょっと怖かった。


「あー……ベルティ、季節ごとのお祭りの件ですが、ビール祭りが夏だけの【イベント】となると、その時期しか観光客が来なくなってしまうと思うのです。ですから集客目的で何か【イベント】を開催したいと思って、それがお祭りだったのです」

「いべんと? って何だい? それにどんなことをやろうと思ってるんだい?」

「【イベント】は催しものですね。うーんこの前話したのは……」


 私はベルティ達にも花祭りや、かぼちゃの収穫祭の事や、クリスマスの話などを伝えた。ベルティはふむふむと興味を持た様子で頷いて話を聞いてくれた。花祭りだったら、春先に一週間ぐらい期間を設けてブルージェ領で有名な花をめでる祭りを開けば良いと話した。出店は少なくし、花を楽しめる広場などを作って各家庭でお弁当などを持ってきて楽しめるようにしてもいいし、魔道具で【ライトアップ】して、夜は恋人が楽しめるようにしても良いと話をした。そして秋のかぼちゃの収穫祭は、ブルージェ領で採れたかぼちゃで料理対決などをして賞金を出して競わせても良いと伝えて、冬は【クリスマス】の話をして。家族で楽しめるようにプレゼントを贈り合っても良いと話した。


 何も毎回ビール祭りの様な大掛かりなことをするのでは無く、領民がちょっと楽しめて、他領の人達がちょっとブルージェ領まで行ってみようかと思えるような、何か催しものが有れば良いのではないかと伝えたのだが、ベルティは何故か真っ青になってしまった。


「ララ……あんた……そんなことどこで思いつくんだい……恐ろしい子だねー。他領の領主が可愛そうになるよ……こんな楽しい事ばっかりある様な領が出来ちまったら、皆ブルージェ領へ越して来ようとお持ちまうだろうねー……タルコット、あんた大丈夫かい?」


 ベルティはブルージェ領が急に発展して、他領から引っ越してくる領民が増えたら、タルコットが他領の領主から恨まれるのではないかと心配になったようだ。それもそうだろう、田舎町のダメ領主と言われて馬鹿にされていた領主のタルコットが、今や王都でも噂に上がるぐらいの人気領主なのだ。羨む者が増えても可笑しくないだろう。タルコットも夜会で色々あるのか苦笑いを浮かべていた。


「うーん……だったら共同でお祭りを開催したらどうでしょうか?」

「「共同で?」」


 驚く皆に頷き話を続けた。例えばだが、かぼちゃはブルージェ領だけではなく、他領でも沢山採れる物だ、領境で採れたかぼちゃの大きさを比べる大会をしてもいいし、かぼちゃ料理の大会をその年年でレチェンテ国内の別の領で開催するなどの催しものを開いても良い。ブルージェ領と仲良くすると、良いことがあると思わせた方がタルコットの為には良いだろう。

 タルコットにも夜会で他領の者に会って味方になってくれそうな者が居たら、共同イベントの誘いをして見たらと伝えた。タルコットの味方は出来るだけ多い方が良いはずだ。


「うーん、どなたかイベントを担当してくれそうな方は居ませんか? 出来れば、領主側、商業ギルド、スター商会から一人ずつ担当を設けて、他領と話し合いが出来るようにして行けたら一番良いと思うのですけど……」


 リアム、タルコット、ベルティは三人で顔を見合わせた。どうしようと思っている様だ。


「ローガン、スター商会からはお前が担当になってくれ」

「わ、私がですか?」


 ローガンは今スター商会の従業員の募集などを担当しているが、店の従業員が落ち着いている今は大丈夫だろうとのリアムの判断の様だった。他領との打ち合わせなども入るので、大変だがローガンなら大丈夫だろう。私も頷いた。


「ウチからはフェルスあんたが行くかい?」

「いえ、私はギルド長の補佐ですから離れるわけには参りません」


 フェルスの答えを聞いてベルティは ふー とため息を吐いた。そして暫く考えると。閃いたように答えた。


「じゃあ、ヒューゴにするかい……安心して任せられる奴じゃないとねー」


 ベルティは私の方をチラッと見てそう答えて。私の事を知っても大丈夫な人物をと考えてくれた様だ。ヒューゴとはフェルスの兄の次男坊の様だ。つまりベルティの甥っ子の子供という事だろうか? 商業ギルドで働いている様だ。


「それでは領主側からは私の息子のオーギュスタンを出しましょう。会計に強い者が居る方が宜しいでしょう」


 ニヤリとフリストフォルは笑った。タルコットもオーギュスタンの事は知っているようで。笑顔で頷いている事から安心できる存在の様だ。これでブルージェ領のイベント担当者は揃った。これから益々ブルージェ領は発展していきそうで楽しみな私達なのであった。


 

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