第216話 楽しい新商品

 今日はスター商会は定休日の為、私はディープウッズの屋敷でベビーグッズとウエディンググッズを作るべく、裏庭にある小屋に籠っていた。


 私が集中指導をしようと思っていたウィルとサムの事なのだが、何故かアダルヘルムが張り切って見てくれている。午後からはマトヴィルがパン作りを教えるのだと、こちらも張り切っていて、ウィルとサムは青い顔になりながらも張り切る二人の指導に頑張って付いて行って居る様だった。これならすぐに店で働けそうだなと教育を担当してくれたアダルヘルムとマトヴィルに感謝した。まー、ウィルとサムは命がけに近い思いだったのかもしれないが……


 ノアはベビー服をオルガと作るのだと言って、ルイを伴ってオルガの所へ行ってしまった。セオは騎士学校に行く前に剣や、包丁、ナイフなど刃物を作りだめするのだと言って、鍛冶部屋に籠っていた。なので私は一人小屋の中で、先ずは何を作るべきかと頭を悩ませていた。


「うーん……ベビーカーは必要だよね……それと、ベビーベットもだよね……」


 この世界にもベビーベットとベビーカーはあるが、前世の様な機能性は無い。ベビーカーは車輪のついた籠だ。それも車輪にはゴムなどついていないため、動けばごつごつして乗り心地が悪い事は想像がついた。私の大切な孫に(アーロとミアの子、ララの孫では無い)そんな危ない物を使う気にはなれない、揺れも少なく安全な物を開発しなければならないだろう。


 そしてベビーベットもただの柵で出来た檻の様な物だ。機能性も無く可愛くも無いベビーベットを可愛い私の孫に(何度も言うがアーロとミアの子で、ララの孫では無い!)使わせる気など毛頭なかった。ある程度大きくなっても使えるようにして、ミアが産後で体力が無くてもスムーズに使える物でなければならないだろう。考えるだけでも楽しくなり、創作意欲がふつふつと湧いてくるのであった。


「おむつも必要だよねー……できれば紙おむつが良いな……」


 この世界では当たり前だが布おむつだ。勿論布でも良いかも知れないが、まだ幼いピートがいてミアも大変だと考えると、紙おむつを作って楽をさせてあげたかった。ミアは私にとって娘の様な者だ。子育てが少しでも楽になる様にしてあげることが大切だと思った。子と孫の為なら幾らでもいいものを作り上げて見せましょう! と気合十分の私であった。



 そしてトミーとミリーの方だが、お付き合いは順調の様で、今日も店の定休日という事もあり、二人でどこかへ出かけている様だった。タッドとゼンは勿論そんな二人に気を利かせ、スター商会の中でやりたい事が有るからと言って、二人からの誘いを断った様だった。


 ただし私はタッドとゼンに毎回断らないようにと指導をしておいた。チキンハート気味のトミーの事だ。何度も二人にお出掛けを断られたら、自分の事が嫌いなのではと思いかねない、二人にそう伝えると、 「なるほど!」 と大人の様な返事をして、今日はお風呂でも一緒に入ってあげようかななんて可愛い事を言って居た。ミリーのお相手としてトミーは十分にタッドとゼンに認められている様だ。後はいつ結婚するかであるが、それは二人に任せるしかないだろう。ただトミーは意外と思い悩むタイプなので、うじうじしていてプロポーズ出来ないならお尻を叩いてみようかなとは思っていた。

 決して早く結婚して貰って私が孫(トミーとミリーの子も、ララの孫では無い)の顔が見たいわけではなく、皆が幸せになってくれればそれで良いのだった。


「ドレスは結婚が決まってからブリアンナ達と作ればいいよねー、うーん、ノアの言っていた通り、やっぱり結婚式にはピンク色のシャンパンとかは外せないよねー、あとは引き出物かー」


 和食器でも良いかなとも思ったが、この世界で使ってもらうのなら洋食器の方が良いだろう。スター商会で販売しているバスセットやタオルセットやスタービールセットなども引き出物として取り扱えるようにすれば、売り上げも伸びるだろう。セオにスプーンセットを作ってもらっても良いだろうし、タンブラーなどでも良いかも知れない、本当は前世のカタログギフトの様な物を作れればそれが一番良いのだが、今のスター商会の人材不足な状態では、リアム達から苦情が来る可能性もある。それは困るので、取りあえず思いつくままに色々と作ってみようと決めた。


 お昼は小屋のキッチンでセオと二人で取ることにした。ココは森へ見回りと言う名の遊びに出かけている為に、マトヴィルにお弁当を作ってもらっていた。ココは森の主の様になりつつあるようで、慕ってくる獣たちの事は、食べずに我慢しているのだとココが話してくれた。森の中で暴れる魔獣は問答無用で倒してマトヴィルに持って帰ってきている様なのだが、この前は


(オオカミ ナカマ ココ タベナイ ナカマ ダイジ ココ タベナイ)


 と言って狼と友達になったのだと教えてくれた。私にとってはいつまでも可愛いココなのだが、森の動物たちにとっては頼りになる存在のようであった。


「ララ、作業は順調?」


 昼食を取りながら、色々と悩み黙ったままの私にセオが声を掛けてきた。もしかしたら知らず知らずのうちに うーんうーん と唸っていたのかも知れなかった。向かい合っているセオの顔には苦笑いが浮かんでいた。


「作りたいものが沢山ありすぎて……取りあえず思いつくまま作ってはいるのだけど……」


 ふーとため息をつくとセオが優しく頭を撫でてくれた。最近のセオはグッと男前度が上がっているので、優しくされるとドキドキしてしまう。リアムには見せられない姿だ。


「まだ時間はたっぷりあるんだゆっくりでいいと思うよ」

「フフフ、そうだね。ゆっくり沢山作ればいいよね」

「あー……うん、リアムが喜びそうだしね……」


 やっぱりリアムは新商品を楽しみにしている様だ。セオのセリフで確信を持てた。相変わらずリアムと通信魔道具で毎晩連絡を取り合っているようなので、確かだろう。それにしても、リアムはセオが騎士学校に行ってしまったら大丈夫なのだろうか、試験の時の数日でさえ、カエサルに少し心が揺れていたぐらいだ、寂しさから変な女性? もしくは男性? に走らなければ良いがと少し不安になった。学校に行く前にセオの姿絵でもリアムにプレゼントしてあげようかなと思うのだった。


 お昼休憩を挟んで、また作業部屋へと籠った。セオも鍛冶部屋に戻っていった。紙オムツとピンクシャンパンの試作品が出来たので、研究所へ行って皆に見て貰おうと思いついた。その前にノアとルイの様子を見に行く。


 二人はノアの部屋でベビー服作りをして居たようで、オルガと共にブライス、リタ、アリス、それからドワーフ人形のミミとシーも一緒に居た。作業机には作ったであろう沢山の服が並べられており、今すぐにでもベビーショップが開けそうなほどであった。ルイも服作りを手伝わされていたようで、スラムで育ったからか、意外と手先が器用で、十分役に立っているようであった。ブライス達他の子達はいつもの事なので、すっかり慣れた手つきで有った。小さなアリスでさえ器用にミシンを使っている姿に感心した私であった。


「ノア、オルガ、凄い沢山ベビー服が出来てますね……」


 驚く私に二人は顔を見合わせると嬉しそうに微笑んだ。


「楽しくって楽しくって止まらないよ。アーロとミアの子は僕好みの子に育ててみたいからね、生まれるのが楽しみで、つい作りすぎちゃうんだー。ねえ、オルガ」

「はい。私も赤子の服を作るなどどれぐらいぶりか分からないぐらいですので、楽しくて仕方ありませんわ」


 ノアが光源氏の様な事を言って居た様な気がしたが、要はアーロとミアの子を自分の妹のように思っているという事だろう。ブライスたちも二人の話を頷いて聞いていたので同じ思いの様だ。産まれてくる子はきっと幸せになれることだろう。なんたって私の孫だ(違います)可愛いのは決まっている! ただ女の子が産まれる予定で皆が衣装を作っているのだけが気になったのだけど……


 ノアの部屋を出て転移部屋を使って研究所へと向かった。自分で直接転移出来るのだが、ビルの部屋である所長室へいきなり行くのは失礼なので、転移部屋へと一旦転移した。ノックをしてからビルの部屋へと入ると、そこには涙ぐんだカイがいたのだった。その様子から何か有ったのだとすぐに分かった。


「カイ、どうしたのですか? 何か有ったのですか?」


 カイは私の顔を見て少しホッとした表情になったが、まだ顔色は悪かった。取りあえず落ち着かせ、カイをソファへと座わらせると話を聞くことにした。カイはぎゅと両手を膝の上で握り少し震えて居る様だった。

 カイは涙が溢れそうになるのを堪えながらゆっくりと話してくれた。心配でたまらないといった様子だった。


「兄ちゃんが……帰ってこなくて……」


 昨日仕事が終わった後、ビルは妹の件で長男である兄と両親と話をする為に、実家へと向かったそうだ。遅くなっても実家に泊ることは無いと言って居たのだが、結局ビルは今日になっても戻ってこなかったそうだ。心配になったカイは隠蔽の紙飛行機を飛ばしてみたそうなのだが、返事は返ってこなかった様で、今スター商会へ行ってリアム達に相談しようかと悩んでいたようだった。


 ビルに何か有ったんだ……直ぐに助けに行かないと……


 私は安心させるようにカイを抱きしめると、立ち上がって気合を入れた。


「カイ、実家まで案内してください。ビルを助けに行きましょう!」

「ララ様……」

「さあ、直ぐに出発しますよ!」

「は、はい!」


 私とカイは所長室から出ると研究員の皆の元へと向かった。今日は休みだが、研究好きの皆の事だから多分研究室に居るだろうなと思っていると、やはり研究馬鹿の皆が揃っていた。私は皆に指示を出した。


「ジュール、エタン、スター商会に転移して、リアムにビルが行方不明だと伝えて下さい。それからメルキオール達にも連絡を、ビルの捜索に当たってもらってください」

「へっ?! ビ、ビルが?!」


 ビル行方不明の事を知らなかったジュール、エタンに私は頷き本当の事だと分からせると、二人は「ハイ!」 と返事をして転移部屋へと飛んで行った。カイが慌てる二人に転移部屋の鍵を渡していた。鍵なしでは研究所からは転移出来ないのだ。


「セブ、ハッチ、ディープウッズの屋敷へ行ってアダルヘルムとマトヴィル、そしてセオに ”私はビルの実家に向かった” と伝えて下さい。お願いしますね」

((カシコマリマシタ))


 セブとハッチには私の鍵を渡しディープウッズの屋敷へと転移してもらった。そして残りの皆にも指示を出す。


「もしかしたらビルがここに戻ってくる可能性もあります。ジェロニモ、その時は直ぐに私宛に速達の手紙を送って下さい」

「は、はい」

「マルコ、ノエミ、リリアンは念の為、結界魔道具で研究所を見えないようにして下さい。十分に気を付けて下さいね」

「「はい」」「任せるのだ!」


 私は返事に頷くとカイの手を引っ張り玄関へと向かった。そこでかぼちゃの馬車を取り出すとカイと共に乗り込んだ。


「さあ、カイ行きますよー!」

「はい!」


 こうして私はカイと共に、ビルとカイ二人の実家へと馬車を走らせたのだった

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