第183話 閑話24  秘密のデート

 ララは最近時間を持て余していた。

 セオが受験勉強の為ララから離れている時間が長くなり、一人でいる時間が増えたためだ。

 ココやモディも訓練に参加しているし、普段ララに細かく注意してくれるアダルヘルムも今はセオに夢中だ。つまりララはつまらないのだ。


 今まで思いついた事が有ればそばに居るセオにすぐに相談出来ていたものが今は出来ない。ララが無茶なことをしようとすれば止めていてくれたはずのセオがいない。

 その為気を紛らわすように大量に似通った商品を作ってしまったり、新しい商品を想像してみたりと気を紛らわさせているのであった。


 今日もまた自主勉強を終えると時間が余ってしまった。ララの勉強の進み具合はもう世界最高峰グレイベアード魔法高等学校に入学していても可笑しくない位だ。

 それもそうだろう、前世の記憶があるララは基本文字さえ覚えてしまえば殆どの事は前世の記憶で何とかなる。新しく覚えなければならないのはこの世界の薬草や歴史ぐらいだろう。

 それだって十分に勉強できている。それに既に物作りも薬づくりも一流に出来るララが、新しく覚える事など既にない位なのであった。


 ただし、教師がディープウッズの住人という事もあり一般常識には疎く、偏った教育になっていることをこの屋敷の者は気が付いていないのであった。


 そんな常識知らずなララは今日も何をしようかと考えていた。スター商会へ行っても今はセオが居ないため余り自由が無い。外へ出る訳にも行かないし、リアムには目のつくところに居ろと言われてしまう。

 1人で自分の執務室に籠るのも余り歓迎されないくらいだ。勿論それはララを一人にすると次から次へと問題を起こすからなのだが、ララはそれに気が付いていない。商品を作っても良いのだがリアムが忙しそうなので相談もし辛い。そうなると前世でやったことのない事に挑戦してみようかなという気持ちが急に湧いてきたララなのであった。


 先程までの鬱々とした気持ちとは違いララは急に楽しい気持ちになって来た。

 面白い事ややってみたい事が見つかればすぐに夢中になる。今のララはそんな性格だ。その為周りには色々と心配をかけ振り回しているのだが、何故かララはそんな事には気付きもしないのであった。


「ふっふっふ……明日が楽しみになりました」


 ララは明日の為の準備を終えると、満足してディープウッズの屋敷にある小屋を後にし、自室に戻ったのであった。


「リアム、おはよう」


 次の日、ララはご機嫌でスター商会へとやって来た。相変わらずリアム達は朝からとっても忙しそうだ。

 ララの挨拶にリアムは 「おうっ」 と手を上げて答えた。客や他店の商人相手では見られない普段のリアムはとても砕けていて、ララはこっちのリアムのが好きだ。

 以前はたまに見せる別人の様なリアムをカッコいいと思っていたが、最近は無理にカッコつけているように見えるため笑いが込み上げてしまう。

 ララはそんな事を考えながら、今日のリアムの予定などをジョンに聞いたり、自分への商品作成の依頼がないかを確認すると、リアムの仕事の邪魔にならないように部屋を後にする事に決めた。


「ララ、自分の執務室へ行くのか?」

「ううん、タッドの所ー」

「おお、そうか、なんだ、一緒に勉強か?」


 仕事が忙しいのに自分の事を気に掛けてくれるリアムに心の中で感謝しながら、ララは笑顔で首を横に振った。


「今日はね【デート】するんだー。じゃあね、リアム。お仕事頑張ってねー」

「おーう、そうか、”でえと” か、気を付けろよー」


 ララが手を振って部屋を後にするとリアムも手を振り返して見送ってくれた。

 リアムは今日もララは可愛いなと思いながら仕事の書類に目を通し、ふとさっきのララのセリフを思い出した。


 でえと?! でえとって言ったか?!


「お、お、おい! ランス、ララは ”でえと” って言ったか?」

「はっ?! そう言えば今 ”でえと” すると仰ってましたね……」

「”でえと” ってのは確か……」

「ええと確か以前ララ様が……逢瀬や密会……恋人がする事と言って居たような……」


 リアムが勢い良く立ち上がると執務用の椅子が後ろへと倒れた、だがそんな物を気にしている余裕は今のリアムには無かった。


 ララを追わなければ!


 リアムの頭を占めて居ることはララの ”でえと” の事だけであった。


「ジュリアン! ララの後を追うぞ!」

「は、はい!」

「リ、リアム様!」

「ランス、悪い、仕事は戻ってから死ぬ気でやる!」


 リアムは執務室を飛び出していった、ランスやイライジャ達の大きなため息が聞こえたような気がしたが、今はそれよりもララを探すことが優先だ。


 一体どこの誰と ”でえと” をするんだ?! ララはまだ6歳だぞ! まさか外へ出るんじゃないだろうな?!


 リアムは以前ディープウッズの森へ行ったときに習った探査を使い、ララの居場所を探った。セオの様には広範囲には探査できないが、ララがまだ屋敷内にいたことでリアムにもララの場所が分かった。向かっているのは寮の玄関の方だった。まさか外の奴とでも ”でえと” するのかとリアムは焦り、ジュリアンと共に猛ダッシュで寮の玄関へと降りて行った。

 リアムとジュリアンが階段を下りて見たものは、タッドと仲良さげに手を繋ぐララの姿だった。タッドは恥ずかしそうに頬を染め。ララは嬉しそうに何かをタッドに話しかけていた。

 

 まさか! ララはタッドと恋人同士なのか? 6歳と10歳だぞ?


 リアムは二人に見つからないように後を付けることにした。二人は手を繋いだまま裏庭へと向かうとベンチに腰掛け話をして居る様だった。楽しいのか時折可愛らしい笑い声が聞こえてきた。

 暫くすると喉が渇いたのかララがテーブルに一つのコップを出し飲み物を入れた、そこに二本の棒らしきものを入れると、二人で仲良く棒を使って飲み物を飲みだした。ララは満足そうだがタッドは真っ赤になり、まるで茹蛸の様であった。


「じゅ、ジュリアン……あれは ”でえと” なのか?」

「……はい……私には小さな恋人同士に見えます……」


 なんてことだ! ララがタッドと付き合っているとは全く気が付かなかった!


 リアムは考えた、確かに自分の様に14歳も年上の男よりよっぽどタッドの方がララにはお似合いだ。だがセオは? ララにはセオがいるだろう……もしかして近すぎて家族としてしか見て貰えなかったのか……俺もそうなのかもしれない……


 そんな事を考えているとジュリアンに小声で呼ばれた。


「リアム様……二人が動き出しました……」


 リアムはハッとして二人をまた見つめた。手を繋ぎ、先程合流した玄関へと向かうようだ。玄関に着くとララはタッドを抱きしめ両頬へと口づけをした。タッドは、また真っ赤になり、ララはニッコリとして、そしてリアムは頭が真っ白になった。


 二人はその場で別れるとララは今度は中庭の方へと向かった。誰かと待ち合わせの様だ。そこには今度はゼンが待っており、ララが見えると手を上げてニコニコと喜んでいたのだった。

 二人は遊具の方へと向かっていった。ブランコにララが座りゼンが立って一緒に乗り出した、楽しそうに大きくブランコを揺らし笑い合っている。まるで中の良い恋人同士の様に見えなくもなかった。

 二人は暫く遊具で遊ぶと、また元の中庭へと向かった。そこでララはタッドにした時と同じようにゼンに抱き着くと両頬に口づけをした。ゼンもお返しにとララの両頬に口づける。二人はそこで別れると、ララは今度は階段を上っていった。


 図書室の前で待っていたのはリタであった。ララはリタと図書室へと入ると、他の子達とは離れ、二人きりでいられる場所へと座ると何やら紙を出し書いて居る様だった。時折声を落としながら笑い、仲の良い姉妹の様にしていた。

 リアムはいい加減ララの行動が読めてきた、これは子供たち一人一人とどうやら ”でえと” をしている様だ。リアムはホッと胸をなでおろし、執務室へと戻ることにした。

 図書室からは小さな子供たちのコソコソと話す声が聞こえてきた。今度は僕の番だよとピートらしき声がする。私はお人形で ”でえと” するのとはアリスの声だろうか。ララは日頃の子供たちの頑張りを ”でえと” という形でねぎらっている様だった。


 それにしても……ララは紛らわしいだろう……


 リアムが執務室へと戻った時にはもうお昼時で有った。ランスの頭からは角が生えているような幻が見えたのだった。


 リアムが一心不乱に仕事に打ち込んでいるとララが執務室へとやって来た。気が付くともう夕暮れ時で、ララがディープウッズの屋敷に戻る時間になっていた。

 ララはリアムに近づくと少しベランダに出ないかと言ってきた。リアムはチラリとランスに目を向けると小さく頷くのが見えたので、ララと二人きりでベランダへと出た。

 今日は午前中をララを見張る事に使ってしまった為に、昼は自室でサンドイッチを片手に仕事を行った。お陰で今日の仕事には何とか目途が立ちランスの機嫌も落ち着いたのだった。


「リアムお仕事お疲れ様、これ良かったらどうぞ」


 ララがベランダのテーブルに出したものはキャラメルの香りがするふわふわとクリームが乗った初めて見る飲み物であった。先程タッドとララが飲み物を飲んでいた時に使っていた棒も刺さっていた。


「これは……なんだ? 初めてみるな?」

「キャラメルフラペチーノ、キャラメル好きのリアムなら気に入ると思って作ってみたんだ」


 リアムはララの笑顔に胸が締め付けられて、自分の気持ちを再確認した。ララを愛おしいとそう思った。


「んっ! 滅茶苦茶美味い!!」

「フフフ、でしょう、そう言うと思ったー」


 ララとリアムは自然と手を繋ぐと夕日が落ちて行くのを二人で見つめていたのだった。


 リアムはララとのベランダ ”でえと” を楽しみ充実した気持ちになっていた。

 ララは執務室の皆に帰りの挨拶をすると扉へと向かった。そこで何か思いついたように立ち止まり振り返ると、とっても良い笑顔でリアムに話しかけた。


「あ、リアムさっきの飲み物他にも沢山種類あるから明日皆にも披露するね。スターベアー・ベーカリーで飲み物の販売もすればいいと思ってるんだー。それじゃあまた明日ねー」


 そう言って出て行くララを見送りながら、執務室にいる皆が青い顔になり明日が来るのが怖いと思ったのだった。


 屋敷に戻り食事や湯浴みを済ませるとララはやっとセオと一緒にゆっくりと過ごす時間を迎える。

 今日は皆とデートをした話や、リアムと沈む夕日を見た話などをすると、セオは少し悔しそうな顔をしていた。

 ララはそんなセオに抱き着きセオの胸に顔を押し付けるとセオの鼓動が聞こえてきた。大好きなセオの温かな胸の音に幸せな気持ちになる。


「セオ、受験が終わったら二人でどこかへお出掛けしようね」

「うん、ララの行きたい所へ沢山出かけよう」

「フフフ、デートだね、楽しみだな」

「……あー、リアムには秘密にしとくよ」


 二人はデートの約束し、今日も仲良く同じ布団で眠りに着くのであった。

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