第161話 傭兵の面接②

 十分に休憩を取っていると、二番目に面接予定の傭兵隊が受付の女性の、今度はエンマに連れられてやって来た。

 先程のビッシっと決めた傭兵隊とは違い、冒険者かな? と思われる様な3人のおじさんたちだった。けれどその表情は優し気で、街の警備隊の人たちよりもよっぽど良い人そうであった。チームの人数は20人ぐらいでCランクとはいえ、中々大きい傭兵隊の様であった。


 リアムと挨拶を交わすと、チーム名をモンキー・ブランディと名乗った三人は席へと着いた。私がお茶を入れて出してあげるとニコニコと良い笑顔を返してくれた。


「おう、嬢ちゃん有難うよ。おっ、おお! こりゃまた別嬪さんだな、将来が楽しみだ」


 リーダーと思われる真ん中のおじさんが私を褒めると、ガハハハッとマトヴィルの様に笑った。街にいる良いおっちゃんという感じで、とても親しみやすい笑顔だった。


「それでは、お話を伺わせていただきます」

「おう、何でも聞いてくれ」


 おじさんはリアムの言葉にドンと胸を叩きニカっと笑った。


「普段のお仕事内容を教えていただけますか?」

「ああ、勿論だ。普段は護衛仕事や街で祭りでもあればその警備をしたりしてる、それから引越しの手伝いとかもする事が有るぞ」

「引越しですか? 傭兵の方が?」


 おじさんは私が入れたお茶をずっずっと音を立てて一口飲んだ。美味しかったのかカップの中のお茶を見てからもう一度飲んでいた。今度は一気飲みだ。

 これにはランスの目が細くなった。おじさんの横にいる同じチームの二人は苦笑いを浮かべていた。


「お、おう、引越しの手伝いでもやらねーと、今のご時世傭兵なんて食っていけねーんだよ。この街は今酷い不況だからな……それにしても……このお茶は美味いな、初めて飲んだぜ……」


 おじさんが名残惜しそうにカップの中を見つめていたので、私はお代わりを入れてあげて、ついでにケーキも出してあげた。勿論リアム達にもだ。おじさん達は初めて見るイチゴのショートケーキに目を大きくさせてから、フォークも使わず手で豪快に食べた。

 リアムも早速一口食べていたが、おじさん達もリアムも面接中とは思えないほど幸せそうな顔をしていたのだった。


「ふわぁ! 噂には聞いてたがスター商会さんの作る物は美味いんだな! いっつも混んでるからよ、俺たちみたいのが入っちゃいけねーって思って行った事なかったんだが……こりゃ、絶品だな! また食いたくなるぜ!」


 リーダーのおじさんがそう言うと、両隣の二人も無言でうんうんと頷いていた。お気に召して頂いたようで、出したケーキを作った私としてはとっても嬉しくなった。勿論ランスはケーキに夢中になっているリアムにも目を細めていた。


 ほのぼのとした話を終えると、相手の実力を見るためにまたジュリアンと打ち合いをすることになった。ジュリアンは二度目の勝負だったが、先程の試合があっと言う間終わってしまったので特に疲れていないという事だったので、すぐに打ち合いをする事になった。


 中庭に行き、おじさんの左側に座っていた人が代表で出てきた。体もジュリアンに負けないほど大きく、ガッチリとした体つきであった。持っている剣も大きく大刀といえるものだなと思った。


「ウチで一番強いゲイブだ、宜しく頼むぞ」


 ジュリアンとゲイブはお互いに握手をすると構えを取った。リーダーのおじさんが 「始め」 の合図を掛けると同時にゲイブは勢い良くジュリアンに向かっていった。力技と思える太刀筋だったが、ジュリアンは軽くあしらっているように見えた。

 何度も何度もゲイブはジュリアンに向かっていくのだが、ジュリアンは全てかわし、相手の太刀筋を強制させているようにも見えた。出来るだけ大振りにならないように、自分の体に隙を作って狙わせ、頷いてはまた同じ様にしていた。リーダーのおじさんもそのジュリアンの動きを感心するように見ていたのだった。


「そこまで!」


 リーダーのおじさんの号令が聞こえると、ゲイブは力尽きたようにその場で仰向けになった。呼吸も荒く汗も沢山掻いているようだった。

 ジュリアンの方は軽く額に汗をかく程度で、呼吸も落ち着いていた。それだけでも実力差はハッキリと分かったのだった。


「あんた……とんでもなく強いな……」


 ゲイブは呼吸が落ち着いてくると体を起こし、ジュリアンにそう告げた。ジュリアンは手を差し出しゲイブを起こしてあげると、首を横に振った。


「いや、俺はまだまだだ、店にはもっと強い奴が沢山いるからな」


 ジュリアンの答えに、ゲイブだけでなくおじさん達も目を丸くしていた。たかだか田舎街の商会に、これだけ強い剣士が沢山いるなど、信じられない様であった。


 私は握手を交わしている二人に近づくと、ゲイブにポーションを渡した。ジュリアンは大丈夫だと言うので、そのまま汗を拭くだけで終わった。


 ゲイブは渡されたポーションを一気飲みすると、驚いた顔になりリーダー達の方へとその顔を向けた。そして自分が飲み切ったポーションの瓶を何度も見た後、私の方へとその顔を向けて来たのだった。


「嬢ちゃん! これは市販のポーションじゃないだろ、スゲー効き目だ!」


 市販のポーションを知らない私は比べようが無いので、何と答えて良いか迷ったが、取り敢えず自家製だと答えることにした。


「そのポーションは私がつく……スター商会で作ったポーションです。味も【栄養ドリンク】の様に飲みやすくしてあります、お口に会いましたか?」

「ああ、市販の物は苦くてまずいから、一気飲みしないと吐きそうになるんだが、これは……また飲みたいって思っちまう味だな……」

「良かったです! そう言って頂けると作ったかいがあります」


 機嫌を良くした私は魔法鞄からポーションをあるだけ出してあげた。大体50本ぐらいだ。そして小さめの魔法袋に移し替えるとおじさん達にプレゼントすることにしたのだった。


 勿論後ろの方でリアムの 「またか……」 という声が聞こえてきたが、知らぬふりをしておいた。


「良かったらこれを受け取ってください」

「いや、嬢ちゃん……それは魔法袋だろう……それにポーションも……山盛り袋に入れてたじゃねーか……」


 リーダーのおじさんが首と手を振りながら遠慮するので、その振られている手を握って魔法袋を渡した。


「これは依頼です」

「はっ? 依頼?」


 驚いているおじさん三人に笑顔で頷いて見せる。体を張った仕事をしている彼らにこそポーションは必要なのだ。今の薬師ギルドの状態では、ポーションは高く彼らでも気軽に購入することは出来ないだろう。

 スター商会でマルコ達が作った物なら商品であり売り物だが、私がディープウッズの森の薬草を使って作ったポーションだ、彼らに渡しても何も問題は無いのであった。


「このポーションを飲んだ感想を、スター商会に伝えに来てください」

「……伝えにって……」


 先程店に入りたいけど、彼らは見るからに厳ついので入れないといっていた。だったら堂々と仕事としてスター商会へ来てもらえばいいと思ったのだった。

 おじさんも私の言いたい事が分かったのか、笑顔になった。


「ハハハ、こりゃー嬢ちゃんには敵わねーや。分かった、このポーションの代金として必ず店に伺わせて貰うよ」

「はい! 美味しいお酒と、料理を沢山用意して待っていますね」

「「「美味しい酒?!」」」


 三人が余りにも勢い良くお酒に反応したので、私はスタービールやウイスキー、ブランデー、梅酒、ワインなども魔法袋に入れてあげた。三人はごくりと喉を鳴らすと、今にも涎を垂らしそうな様子で、魔法袋を受け取ったのだった。


「これは、俺が管理するからな」

「あ、ずりー、ブランディさん独り占めするつもりだろ!」

「お前その名前で呼ぶなって言ってるだろ」

「ブランディさんが魔法袋を持ってたら、三日で無くしそうだから俺が預かるぜ」

「お前もその名で呼ぶな! リーダーって呼べ」


 ブランディは女性名である名で呼ばれるのが恥ずかしい様だ。確かにもしゃもしゃの髪をした厳ついおっさんがブランディでは可愛すぎるだろう。皆にはリーダーって呼ばせている気持ちが少しだけ分かったのだった。


「モンキー・ブランディ……サルのブランディ……」


 確かにサルというか、ゴリラの様な見た目である。チーム名に納得した私であった。


「モン・ブランさんまたねー」


 私がチーム名を短縮して帰っていく彼らに手を振ると、三人は顔を見合わせ、ニカっと笑って手を振り返してくれたのだった。


 そして、面接の後は恒例のリアムのお説教タイムだ。

 さっきと同じ様に、勝手な行動はするなとか、高価な物を人にホイホイ上げるなとか、何時ものセリフのオンパレードだ。私は聞いているふりをしながら、リアムって睫毛長いなーとか、髪の毛がスター商会のシャンプーで艶々だなとか、今日着ているブラウン色のスーツも似合っているなー、なんてことを考えながら、うんうんと頷いていたのだった。


 お説教で沢山喋って疲れたであろうリアムと、体を動かして汗をかいたジュリアンの為に、冷たくて美味しいレモンティーを入れてあげると、リアムは怒りが収まりホッとしたようだった。

 そこへ大好物のキャラメルを出してあげると、リアムはご機嫌になったので、私もやっとホッと出来たのだった。


 皆でお茶とキャラメルを取りながら一息ついていると、三番目の面接の傭兵隊の人達を、今度は受付の女性のガイアが連れて来てくれた。

 入ってきたのは二人の男性で、これまでの傭兵隊の人たちの様な鎧姿ではなく、普通の洋服であった。

 一人はリアムと対して変わらない様な20歳ぐらいの男性で、もう一人は30代の男性だった。二人共腰に剣は付けているが、お世辞にも立派な物とは言えない作りであった。


 あ、この人……強いな……


 30代のシルバー色といっていいような髪色をした男性は、明らかに今迄面接した傭兵隊の人たちよりも強いと感じた。

 それなのに最低ランクのGランクだという事に、疑問を感じた私なのであった。


「初めまして、傭兵隊 ”星の牙” の代表、メルキオール・ファングだ。こっちは補佐のニールだ、宜しく頼む」

「スター商会の副会頭のリアム・ウエルスです、宜しく」


 挨拶を終えると皆席に着いた。私は彼らにもレモンティーとキャラメルを出してあげた。外は寒いので彼らには温かい物にした。メルキオール・ファングは私がお茶を出すと小さな子がお手伝いをしていて偉いなとでも思ったのか、ジッと私を見た後、ニッコリと微笑んでお礼を言ってくれた。


 隣のニールと紹介された男性はキャラメルを一粒食べると美味しかったのか、口元を手で押さえ目を真ん丸にしていたので可愛かった。


「先に謝らせて欲しい」

「どうしましたか?」


 メルキオール・ファングはお茶を一口飲むとリアムに話しかけて来た。


「名簿には10名の名が乗っているが、一人は就職先が見つかって脱退したんだ」

「……と言いますと?」

「俺が作った傭兵隊は、若い奴の就職先が見つかるまでの仮場にしてるんだ」


 メルキオール・ファングは、貧乏であるが故に働きながら騎士学校に通った者が、せっかく騎士の位を取ったにもかかわらず、成績が思うように伸びなかった為に、就職先が見つからなかった者を雇い入れ、一人前に育て上げ面倒を見ているようだった。


 話を聞いてベルティが、何故私にこの傭兵隊を紹介したのかが、何となくだが分かったような気がしたのだった。

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