第157話 内緒の新商品
「ララ様……これを私たちに頂けるのですか?」
ドールハウスを長い時間かけて見終わったチャーリーは、驚いた顔のままでそう私に聞いてきた。私はこくりと頷き、実際の屋敷と違う部分は無いかとチャーリー達に確認をした。
使用人見習いで有ったグレアムとギセラも、庭部分やキッチン部分など、普段エイベル夫妻が入らない様な場所を確認してもらったのだが、とくに問題は無い様だった。
私はそこに小さな人型の人形を出した、全部で四体あり、それはチャーリー、ユリアーナ、グレアム、ギセラの人形であった。
「この子達に魔力を注ぐと、少しだけ動くのですよ」
私は四体にほんの少し魔力を流した。
エイベル夫妻のお孫さん達が遊べるように、子供の魔力でも大丈夫な用に作ったのだ。
魔力を浴びると人形達は勝手に動き出した、勿論複雑な動きは出来ないが屋敷の中を歩いたり、挨拶をしたりとそんな些細な行動は出来るのであった。
「もし、他にも人形が必要でしたら仰ってくださいね、ここに居る間でしたら、いくらでも注文は受け付けますので」
エイベル夫妻は口が利けなくなったように、ブンブンと首を縦に振った。普段エレガントなお二人がそんな風に喜んでくれたことに嬉しくなった私だったのだが、まさか二人が腰が抜けそうなぐらい驚いているとは、思いもしなかったのであった。
「……ララ……まさかこれも商品にするつもりか……?」
リアムが疲れからか真っ青な顔をして聞いてきたので、首を横に振った。このドールハウスと人形はエイベル夫妻の為に作った物で、販売用の物をここまで精巧には作る事は難しいと思う。
勿論オーダーメイドなら可能だが、前世では子供のおもちゃという感覚がある私としては、そこまで力を入れる物でも無いなと思っていたのだった。
リアムは商品では無いと聞いてホッとしたように胸をなで下ろしていた。疲れて悪くなっていた顔色も落ち着いた様なので、私は販売用のドールハウスの話をする事にした。
「リアム、販売用のドールハウスはこちら側の壁が無く、正面から中が見える物です」
「はっ?」
イメージがわかないからかリアムが変な声を出し、ランス達も困った顔をしているので、私は販売用に作ったドールハウスも魔法鞄から出して見せた。
人形は子熊たちと、アルパカ君たちだ、子供が遊ぶなら動物の方が良いと思ったからであった。
「どう? かわいいでしょ? 家具とかもちゃんと本物みたいに使えるの、ビルとカイが張り切って作ってくれたんだよ。
それに人形の衣装はブリアンナが作ってくれたの、いつでも販売できる様に、余り布で時間があるときに沢山作ってくれるって……あれ?……リアム聞いてる?」
リアムは自分の顔を手で覆って動かなくなってしまった。困ってランス達の方に目を向けると、何故か窓の方を見て遠い目をしていた。みんなどうしてしまったのだろうか……
そうか、私しかこのドールハウスが作れないと思ってるから、これから販売するのに困ると思って悩んでいるのか!
リアム達の気持ちが分かるようになって来た常識人の私は自分の成長を感じた。前世の世界でも小学生になるような年ごろだ、そろそろ相手の気持ちが分かる様になっていてもおかしくはない。
それにずっと一緒にいるリアム達を、困らせる様な事を私がするはずがないのであった。
「リアム、そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
「……心配……?」
「そう、商品化するのに私しか作れないんじゃないかって、心配しているんでしょ?」
私の言葉を聞いてリアムの口元が少し動いた、引きつって居るようにも見えなくも無いが、安堵の笑顔だと私は判断した。
「実はね、もう同じものが50個出来てるの」
「はっ?」
「マトヴィルも面白がって手伝ってくれたし、セオも手伝ってくれたの、それにね、ビルもカイも販売用のドールハウスは作れるようになってるから、何も心配は要らないんだよ、ジャンジャンドールハウスが出来上がるからね」
励ますつもりで言ったのだが、リアムはまた頭を抱え出してしまった。もしかしたら嬉し泣き? とも思ったのだが違うようだった。
それにランス達も疲れてしまったのか、知らないうちに椅子に腰かけていた。そしてそのまま外を見続けていたのだった。
セオに顔を向けてみたら嬉しそうに微笑んでいた。何だかとっても楽しそうに見える。エイベル夫妻や双子達は初めてて見る光景だったからか、只々ポカンとして私達のやり取りを見ているようであった。
リアムはなんとか起き上がったと思うと大きく深呼吸をした、何故か気持ちを落ち着かせているように見えた。
「……ハァー……ララ、おまえなぁ――」
リアムがやっと口を開いたと思ったら、カチャリと扉が開いて、ちびっ子達が部屋へと入って来た。
どうやら新しく出来た店の中を、皆で探検に来たようでこの部屋に辿り着いたらしいが、まさかここに私達がいるとは思って居なかったのか、先頭に居たタッドが驚いて慌てた顔をしていた。
「も、申し訳ありません!」
そう言ってちびっ子たちの手を引いて、出て行こうとしたタッド達を私は引き留めた、子供たちにこそドールハウスを見て貰いたかったからだ。
エイベル夫妻に作ったドールハウスを見せると、子供たちは目をキラキラさせて 「凄い凄い」 と口々に言っていた。
私はそんな可愛くて仕方がない子供たちに、図書室にも同じものを準備して、皆の人形も作ると約束したのだった。
そして、私は可愛い子供たちにスター・ブティック・ペコラの開店用に作った、有る物を渡すことにした。それはーー
「はい、【ぬいぐるみ】です! 皆好きな子を選んで」
「ララ様、これってスターベアー達と……ブティックに居たペコラ?」
「タッド、魔獣のペコラじゃなくて、アルパカ君ね」
「あるぱか……くん……?」
私は頷き魔法鞄から作ったぬいぐるみたちを何個も出した、子供たちが遠慮しなくてもいい様に、沢山あるのだと見せて安心させたかったのだ。
リタやドロシー、アリスの女の子達はふわふわと柔らかいアルパカ君たちのぬいぐるみが気に入ったのか、三人ともそれを選んでいた。
そして、男の子たちには剣が強い、セディとアディが人気の様であった。
「うわぁ、ふわふわして柔らかーい!」
初めて抱っこするぬいぐるみの柔らかさに、子供たちはメロメロになっていた。男の子たちでさえも抱きしめて頬擦りをしていたのだった。
エイベル夫妻や双子たちも興味がありそうだったので、四人にもぬいぐるみを渡してあげた。大人とは言え、ぬいぐるみの可愛らしい姿と、柔らかい体に、皆頬が緩んでいたのだった。
「ふっふっふ……皆さん、これで終わりだと思いますか?」
「ま、まさか!! う、動くのか……」
子供たちに問いかけたのに、答えたのはなぜか顔色が悪いリアムだった。
リアムは日頃の忙しさのせいかさっきよりもとても顔色が悪くなっていた。
勿論一緒に仕事をしているランス達他のメンバーもだ。まさか、私が頭が痛くなる様な商品を作った事が原因とは思わず、これはどこかで無理やりにでも休ませなければいけないなと思った私なのであった。
「そうです、リアムの想像通りこの子達は動くのですよ!」
私はぬいぐるみの胸元にある小さな魔石に、少しだけ魔力を流した。ぬいぐるみはピクリとすると、テーブルからピョンッと飛び降りて、歩き出したのだった。
「名前を付けて上げると自分の事が分かるし、持ち主の事も覚えるのよ。だから皆んな自分のぬいぐるみは大切にしてね」
「ララ様、有難うございます! 賢獣みたい!」
子供達は賢獣に興味があるので、自分だけのぬいぐるみが嬉しい様だった。自分が決めたぬいぐるみを抱きしめると、早く試したいと言って部屋から出て行ったのだった。
子供達を見送り、あの子たちの喜ぶ顔を見て、大大満足した私は、またソファへと腰掛けリアム達と向かい合った。
リアムは顔色が相変わらず悪く、とても疲れている様であった。魔法鞄からポーションでも出してあげようかなと思っていると、やっとリアムが動きだしたのだった。
「ララ……これは、ダメだ……販売出来ない……」
「えっ? ぬいぐるみ? 何で?」
リアムが難しい顔をして、私が動かしたぬいぐるみを見ているので、私は首を傾げた。一体何がダメなのだろうか……
「簡単な事はこいつらにさせられるんだろ?」
私はリアムの言葉に頷く、それの何が問題なんだろうか?
「犯罪に使われる可能性がある……そういった物は販売出来ないんだ……」
「あっ……」
リアムの言葉を聞いて、確かにその可能性はあると思った。例えば誰かを縛る様に命令するとか、何体かのぬいぐるみなら誰かを誘拐してくる事も可能かもしれない、リアムはそんな事を私が作った魔道具でもあるぬいぐるみ達には、絶対にさせたくは無いのだと言ってくれたのだった。
「……リアム、有難う……じゃあ、この子達は魔石を取って、普通のぬいぐるみとして販売します」
「……商品にはするんだな……」
「勿論! これから色々な動物のぬいぐるみを作ろうと思ってるんだもん、とりあえずはブティックで販売するけど、いずれは玩具屋さんも開きたいしねー」
リアムに同意を求めて見たのだが、また頭を抱えてしまった。体調が本当に悪い様だ。私がリアムにポーションを渡そうとしていると、チャーリーがリアムに話し掛けた。リアムの顔色が悪いのを見て心配している様に見えた。
「リアム様、やはりグレアムとギセラを明日からでもリアム様の下で使って下さい」
「「旦那様……?」」
「エイベル様……それは……」
リアムに止められそうになったチャーリーは首を横に振った。双子達はある程度覚悟していたのか黙って次の言葉を待っていた。
「お前たちも見た様に、リアム様は見てるこちらが気の毒になる程仕事が山積みだ……それも、ララ様の手加減の無い仕事ぶりに増える一方だ、このままでは倒れてしまうだろう……」
私はチャーリーの言葉に一瞬 ん? となったが、黙って話を聞いた。チャーリーは今度はリアムの方へと顔を向けた。
「リアム様、私どもはアリーが色々とお世話をしてくれているので、この子達が居なくてもそれ程問題は有りません、それに今日頂いたこのぬいぐるみ達もおりますし、同じ屋敷内におりますので、寂しくも有りません。
ですが、貴方は今すぐに人手が必要です。私達が見ているだけの間だけでも、これだけ仕事が増えたのです。ララ様のお側に居れば、もっと仕事が増えていくでしょう……このままでは命の危険もあるかもしれません……」
何だか私がリアムの仕事を増やしている様にも聞こえるが、チャーリーの言いたい事は、スター商会は益々発展するって言う事だと私は思った。
その時に双子が成長していなければ、困るのはリアムなのだと教えてくれているのだろう……
優しいチャーリーの気持ちに胸が熱くなる。
「私どもはこの子達を厳しく育てて来たつもりでおります、どうか直ぐにでも使って頂けないでしょうか?」
そう言ってチャーリーが頭を下げると、ユリアーナも双子達も頭を下げた。リアムは慌ててそれを止めた。
リアムはチャーリーの手を取り有難うございますと言って、今度はリアムが頭を下げたのだった。
双子が明日から働いてくれる事になったので、私が 「これからは幾らでも商品を作っても大丈夫ですね」 と言うと、何故か皆んなに変な物でも見る様な目で見られてしまったのだった。
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