第135話 アダルヘルムの熱意と子供たち
「お母様、アダルヘルム……私が連れてきた子供たちの事なのですが……」
昨日の勝手な行動の事を謝った後、私は本題に入らせてもらった。スラムから連れてきた子供たちの今後の話だ。
あの子達には親がいない様で ”おじさん” と呼ばれる人の手助けを借りながら子供たちだけで生活をしていたこと、そしてこれから先の事を考えてディープウッズで育てたい事を話した。
「私の子供にしたいと思います!」
そう高々に宣言すると、お母様はまあと言って微笑み、アダルヘルムとセオはまた頭を抱えてしまった。
ニカノールは呆然として口をあんぐりと開けたまま固まっている、私はそんな皆の様子を見て頷きながらも話を続けた。
「フッフッフ……私にはもう十分な収入がありますからね、子供の4人や5人ぐらい養えますよ」
そう、私は自分の子を持つ為にスター商会を作り、ここまで沢山の商品を売り上げお金をためてきたのだ、セオを森で見つけた時に自分の子にできなかった事を学習し、しっかり反省を生かしたのだ、素晴らしい成果だと自分でも褒めてあげたいくらいだった。
だが、頭を抱えていたアダルヘルムは大きなため息をつくと具合が悪そうな顔で私に話し出した。
「ララ様……いくら収入があるとはいえ、ララ様の御歳で子供を養子にするのは無理があります……」
「えっ?」
「第一、ララ様はこれから学校へ行き学ばなければならない事が沢山あるのですよ、その間あの子達の事はどうするのですか?」
「うっ……」
「ここはセオと同じ様にディープウッズ家の養い子として引き取るのが一番だと思いますが、ララ様はいかがお思いですか?」
「ううう……それが一番いいと思います……」
アダルヘルムの言葉にガックリである。
やっとやっと、蘭子時代の40年プラス、ララの6年で子供を持てると思ったのに、今回もダメなようだ。やっぱり早く大人になるしか方法は無い様だ、あと9年……成人までが益々待ち遠しくなった私であった。
暫くはピート達を可愛がることで我慢するしかないよね……ハァーだよー
しょんぼりしている私を見てお母様が心配そうに声を掛けてきた。
「ララに、妹が出来るのね」
「……い、も、う、と……」
妹! という言葉を聞いてハッとする、朝アリスに お姉ちゃん と呼ばれ胸がキュンとなった事を思い出した。あの可愛いアリスにこれからは毎日お姉ちゃんと呼ばれる贅沢な毎日が待っているのだ。こんなに嬉しいことは無い!
お母さん呼びされない事は少し悲しいが、今の私には妹が出来るだけで十分に幸せでは無いだろうか。
急に自分に元気が出て来たことがよく分かった、そこにアダルヘルムも追加の甘い言葉を掛けてきた。
「そうですね、兄にはノア様とセオがおりましたが、これからは姉も居るのですね」
「あ! ね!?」
そうだ! 私には可愛い姉リタが出来るのだ、これからはこの二人を思う存分着飾らせて可愛がることが出来る、何という贅沢であろうか。
蘭子時代を考えたら何十倍、いや何百倍も幸せな事である、私の姉妹愛に一気に火が付いた。
「私! 姉妹を滅茶苦茶の無茶苦茶に可愛がりたいと思います!」
鼻息荒く宣言すると、皆がホッとした表情を浮かべたのが分かった。どうやら自分の子に出来ないと分かった時の私の落ちこみようは、皆を大変心配させたようであった。
次にロイの騎士学校の事をアダルヘルムに相談することにした、本人が希望する騎士は、この街の警備隊より上に立つ立場になる事、その為には王都の騎士学校に行くべきなのかを相談してみる。
「ふむ……成程……ルイは読み書きは出来るのでしょうか?」
「いえ……確認してません……」
「そうですか……入学試験まで後一ヶ月半……これは腕が鳴りますね……」
アダルヘルムの顔はとってもいい笑顔だが、それが逆に怖い、ルイの命が少し心配になって来た。
「あ……あの、アダルヘルム、今年無理でしたら、来年受験でも良いのではないですか?」
私のこの言葉が火に油を注いでしまった、アダルヘルムの口の端がクイッと上がり大王様の笑顔になってしまった。セオもアダルヘルムの笑顔を見て顔が引きつっている。
「無理……ララ様は私の指導ではルイを今年合格させることが難しいと?」
氷の微笑に思わず背筋がぞくっとなった、アダルヘルムが怖くて自分が焦るのが分かった。
「いえいえ、アダルヘルムの指導に問題が有るのではなくて……現実的に不可能ならば――」
「ほう……不可能ですか……」
ヤバい、これはヤバい! アダルヘルムの背中に炎が見える……
アダルヘルムは立ち上がるとお母様の方へと振り向き頭を下げた、お母様はその様子にニコニコしている、何だかとっても楽しそうだ。
「エレノア様、騎士学校入試日まで暫くおそばを離れさせて頂くことをご了承ください」
「ええ、勿論大丈夫ですわ」
「ハンキ、ランタ、セブ、ハッチ、しっかりエレノア様をお守りするように」
((((カシコマリマシタ))))
アダルヘルムはマトヴィル達とルイを合格させるためのスケジュール調整を相談しに行くと言って、部屋を出て行ってしまった。どうやら私のせいでアダルヘルムを本気にさせてしまった様だ。
ルイの事が心配だ……
私が曇った顔をしているとお母様がクスクスと笑い出した、それを見たニカノールはまた頬を染めポーっと見つめている、まるでアイドルに夢中になっている少女の様だった。
「ララ、大丈夫ですよ、アダルヘルムに任せておけば何の心配もいりませんよ」
「お母様……でも……」
アダルヘルムのあの笑顔を見ては、とてもそうは思えない。合格させる為なら何でもやってしまいそうな勢いだ。
「ララ、ルイ本人が望んでいる事だ、それにマスターや師匠達に稽古を付けてもらえることは凄い事なんだよ」
「セオ……」
同じ騎士を目指すセオの言葉を聞いて、気持ちを落ち着かせた。ルイが希望することならどんなことでも協力してあげたいと思う、その為にはアダルヘルムに任せるのが一番なのは分かっている。
とにかくポーションを沢山作ってルイがいつ倒れても良い様に備えておこうと思ったのは、皆には内緒の話にした。
お母様の部屋を後にし、子供たちの部屋へと向かった。私達はこれからスター商会へと行くのだが、子供たちは昨日スラムからやって来たばかりなことと、アリスの体調の事も考えて、今日は家でゆっくりとしてもらうことにした。
出かける前に子供たちとニカノールにはココとモディを紹介することにした、彼らも私の大切な家族なのだ、これからここで暮らす子供たちにはきちんと教える必要があるだろう。
ココとモディを見た子供たちは、始め真っ青な顔になった、魔獣の中でも凶暴である銀蜘蛛とモデストなのだ、その上二体とも大きくなり始めているのでかなりの迫力がある。
私的にはいつまでもいつまでも小さくて可愛い子供なのだが、大型犬を越えるサイズになり始めているこの子達は、世間の人から見ればそうは思えないだろうことは、常識に疎いセオと私でも解ることであった。
(ココ、カゾク、ミンナ、ナカマ)
(ふぉふぉふぉ、我が名はモディでございまする、可愛い方々どうかよろしくお願い申しまする)
二体がお喋りが出来るという事が分かると、子供たちはホッとしてすぐに仲良くなった。ルイ達は今日はココとモディと遊んでいると言うので、二人にも子供たちの事をお願いして、出かけることにした。
ただし、ニカノールだけはどうしてもココとモディの事が怖い様で、腰が抜けてしまった為に、スター商会へと一緒に行く前に私が癒しを掛けてあげたのだった。
転移部屋へ向かいながら、癒しによって顔色もすっかり良くなったニカノールが嬉しそうに話しかけて来た。憧れのスター商会へ行けることが嬉しい様で、テンションが上がっている事が私から見ても良く分かった。
昨日もスター商会には行ったのだが一瞬で通り過ぎてしまった為に、ニカノールを皆にゆっくり紹介することも出来なかったし、反対に店の事をニカノールに見せてあげることが出来なかったので、私もとっても楽しみなのであった。
「フフフ、ララちゃんの家族って本当に綺麗な人たちばかりね」
「えー、やっぱりそう思う? フフフ、自慢の家族なの」
照れながらニカノールの方へと視線を送るととっても嬉しそうに微笑んでいた、でも目元は潤んでいるようにも見えた。
「あたし……こんな風に普通に接してもらったことって初めてなのよ」
「えっ?」
「大抵の人があたしの事を気持ち悪がるの……例え言葉には出さなくても態度を見てれば分かるわ……」
「ニカ……それはその人達が変なんだよ、今まで会った人達がニカの良さを分からなかっただけなんだよ……」
私の言葉にニカノールはクスクスと笑い出した、とっても嬉しそうだ。
「ララちゃんの言う通りだわ、ここに居るとね、本当にそう思えるの、誰もあたしを可笑しいだなんて言わない、ただのニカノールとして受け入れてくれているのが分かるわ」
「ニカ……」
「ララちゃんの家族は皆本当にとっても綺麗、外見も……そして中身もね……ララちゃん……あたしをお家に招待してくれて有難う、あたし今とっても幸せだわ!」
ニカノールは今までで一番良い笑顔で笑って見せた、とっても綺麗な笑顔だった。そんな表情を見て、ニカノールがいつもこんな素敵な笑顔でいてくれたら良いなと私は思った、そんな世界に少しでもしていけるように頑張ってみようと思った私であった。
転移部屋を使いスター商会へと着くと急に重い足取りになってしまった。これからリアムのお説教が待っているかと思うと、リアムの執務室へと向かうのが怖くなってしまった。セオはそんな私に気が付いたのか手を差し出してくれた、私はセオの手をぎゅっと掴むと勇気を出してリアムの部屋へと入ったのだった。
リアムの執務室では皆が忙しそうに働いていた、昨日私とセオが黙って出かけたために、探すため、時間を割いたので仕事が溜まってしまったようだった。その様子を見るだけで申し訳ない気持ちで一杯になってしまった。
私とセオそれとニカノールが部屋へと入って来たのに気が付くと、リアムは軽く手を上げて挨拶をした。ジョンに促されるままにソファへと座り、リアムの仕事が落ち着くのを待った。
何だか絞首台の前で順番を待つような気持ちになり落ち着かない私であった。
ジョンが入れてくれたお茶を飲み終わる頃、リアムが仕事を終えて私達の向かいのソファへと座った、ジョンが新しく入れたお茶を一口飲むと、私の方へとニッコリと良い笑顔で笑いかけてきた。
「さーて、お姫様、納得のいく説明を聞かせて頂けますでしょうか?」
良い笑顔で笑うリアムを見て、先程みたアダルヘルムの氷の微笑を思いだした。
皆の笑顔が怖いよー! ひー!
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