第101話 新しい仲間
「リアム様、これはこの店にとって大きなチャンスでございますよ」
タルコット達との一件を聞いて、ランスが書類をまとめる手を止めることなく嬉しそうに話し出した。イライジャも同じ意見の様で頷いている。
「大物貴族と縁を繋ぎたくても新店では難しいところですのに、貢物も無く向こうから飛び込んできてくれるのですから、これを利用しない手は無いでしょう」
「そうですね、ブルージェ領主御用達のお店として箔が付くかも知れませんね」
ランスもイライジャも何だか嬉しそうだ。領主が味方に付くという事は商売をする上でとても重要なことらしい。確かにこの街では貴族と繋がりが有る店が優位に立っている節がある。ただでさえ新参者の店であるスター商会が、人気店として目立つ分だけ商人の会合などでも色々とあったのかもしれない。
「たく……お前らはララに甘すぎだぞ……」
リアムはお茶をグイっと飲み干すと、またため息をついた。
「ジョン、太陽の日のスケジュールを組みなおしてくれ」
「はい、畏まりました」
「それから、ジュリアンとランスはトミーとアーロ、それとミアとミリーにメイナードの親が挨拶に来ると伝えてくれて、くれぐれも領主一家だとは伝えないでおくように」
「「はい、すぐに伝えてまいります」」
「それから、ララ……」
「はーい」
「……今後は前もって話を俺に通してから決める様に、いいな!」
リアムは優しくデコピンをすると、また仕事に戻った。ランスがクスリと笑って 結局ララ様に一番甘いのはリアム様なのですよ と私とセオにだけ聞こえるように言ってきた。
何だかくすぐったい気持ちになってしまい、またリアムの好きなお菓子でも作ってお詫びをしようと思たのだった。
次の日、今日はミアの友人とビルの弟の面接をする事になっていた。リアムからはくれぐれも、くれぐれも大人しくしているようにと再三にわたり注意されてしまった。いつも大人しくしているつもりなのだが、リアムからはつもりでは大人しくしている事にはならないとデコピンを貰う羽目になってしまった。
それを後ろでセオがクスリと笑っているのを見たリアムが、その後セオにヘッドロックを掛けたのを止めなかった私であった。
イライジャやランスは先日渡した賢獣達を上手に使えるようになっており、ランスの賢獣であるネズミのパールは日に日に計算力が付いていて、ランスの仕事の手伝いが十分に出来ている様だった。
イライジャの賢獣、ネズミのジャンガリアンのジャンは、イライジャの指示で情報収集の訓練を店の中でしているようで、色んな情報を集めて来ていた。
例えば、子供たちが今日のおやつを喜んでいたとか、トミーがミリーをずっと見つめていたとか、商談に来た客がアリーを持って帰れないかとそっと話していたとかだ。この練習が終わったら今後街中をジャンに調べさせるのだとイライジャは嬉しそうに語っていた。製作者として嬉しい限りである。
ジョンの賢獣、てんとう虫のバグは、ジョンの事が心配な様で片時も離れようとはしなかった。ジョン的にはイライジャの賢獣のジャンの様に情報収集を行って欲しい様だが、そばに居たがるバグを引き離してまではさせる気は無い様だった。
問題はジュリアンの賢獣のリアナであった。取り敢えずはジュリアンの事を主とは思っているようなのだが、その事と言う事を聞くという事は繋がらない様で、リアムがブレイデンを連れてくると、ブレイのいう事ならジュリアンの事よりも良い子に聞くようだった。
(アニキ、アニキ、ブレイのアニキ、タッド達の所へ行こうぜ)
(リアナ、僕たちの仕事はご主人様を守ることだよ)
(アニキ、カッコイイー! ジュリ……俺の主は放っておいても大丈夫なんだぜ、タッド達のところに行こう、行こう)
ブレイは犬なのにため息をつくと、リアムに許可を取ってリアナをタッド達が遊んでいる裏庭へと連れて行った。勿論リアナがジュリアンに許可を取ることは無く、舐められっぱなしのジュリアンであった。
一体何が問題なのかは分からないが、リアナはとにかくジュリアンのいう事を聞かなかった。ただし主として好いてはいるようで、文句を言いながらも尻尾は盛大に振られているので、なつかないのは性格の問題だろうという事に落ち着いたのだった。
「そう言えば、イライジャ、カメレーナちゃんはどうですか?」
イライジャは仕事の手を止めて私の方へと振り向いた、肩にはジャンが乗っている。
「まだブライアン殿の所には届いてないようですね、カメレーナちゃんは特に何も話しておりません」
「そうですか、重要なことを何か拾ってくると良いのですが……」
「フフフ、ララ様、意外と何でもないことが重要だったりするのですよ」
イライジャはとっても嬉しそうにニヤリと笑うと仕事に戻っていった、そしてジャンも主を真似る様に肩口でニヤリとしていたので、それがとても可愛いと思った私であった。
面接の時間が近づいてきたので皆で一階の応接室へと移動した。最初にミアの友達の主婦の方二人が来て、その後にビルの弟が来ることになっている。マシュー夫妻の息子さんは王都に居るためすぐには帰ってこれない様で、今の店を辞めるのにも時間がかかる様で、まだ面接の日程は立っていないのであった。
ミアの友人一人目はアイラという名の女性だった。子供はニック5歳で今日の面接に一緒に来ていた。
「アイラさん、副会頭のリアムです、宜しくお願い致します」
「は、はい……よろしくお願いします」
アイラは緊張しているようで、顔がこわばっていた。私は緊張をほぐすためにもミアとの出会いを聞いてみることにした。
「アイラさんはミアさんとはどうやって知り合われたのですか?」
子供相手だからか、私を見て少しアイラはホッとした様だった。アイラの息子とたいして年が変わらない事も良かったのかもしれなかった。
でもリアムは私が急に喋り出したのが気に入らなかったのか、こちらをギロリと睨んできたのだった。
「はい、ミリーとは子供の年が近くて、同じ集合住宅に居ましてので自然と仲良くなりました」
「そうなのですね、息子さんのお名前は?」
「は、はい、息子はニック、5歳です……」
「ニックこんにちは、私はララです。仲良くしましょうね」
ニックはこくんと頷くと恥ずかしそうに頬を染めていた。
とてもかわいい…… もう採用でいいんじゃないかな……
ニヤニヤしている私に困った表情を浮かべると、リアムが少し緊張の解けてきたアイラに質問を始めた。
「アイラさんは仕事の時間は、何時から何時まで大丈夫でしょうか?」
「はい、9時位から14時ぐらいまでなら……あの、子供を連れてきても大丈夫というのは本当なのでしょうか?」
アイラは一人っ子のニックを連れてこれるのなら働きたいとの事だった。この世界では子連れで働くのは難しい、自営業ならばなんとかなるかも知れないが、託児所が無いので外で働くのは諦め安い賃金で内職する者が多いのが現実だ。
「子供は連れて来て大丈夫ですよ、ピートとも顔見知りならば、一緒に勉強したり遊んでいればいいでしょう」
リアムの答えにアイラは驚いた表情を見せた。まさか勉強を教えてもらえるとは思っていなかった様だ。
「あの、無料で勉強を教えて頂けるのですか?」
「ええ勿論です。お昼ご飯も食堂で出ますので安心してください」
アイラは信じられないという表情を浮かべると、声が出ない様で小さく頷いた。ミアはこの店の情報を約束通りほとんど話していなかった様だ。ただ子連れでも働ける職場という事だけをアイラに伝えて居た様だった。
「では、明日からでも大丈夫でしょうか?」
「は、はい! 勿論です。よろしくお願いします」
こうしてアイラとニックはスター商会の一員となった。この後はミアにお願いして店の中を案内してもらうことになっている、ニックもピートに久しぶりに会えるのが嬉しい様だった。
次に来たミアの友人はジェシカという女性だった。ジェシカも緊張しているようで少し青い顔をしていた。子供は私と同い年の6歳の息子キースと、4歳の娘ドロシーという子だった。二人ともとってもかわいい子だ。
可愛い……もう採用でいいんじゃないかな……
私が呑気にそんな事を考えていると、ジェシカが青い顔のままリアムに話しかけた。
「あ、あの、あたし、私でも出来る仕事でしょうか……早い計算とかは不得意なのですが……」
パン屋という事で販売の際の計算を気にして居た様だ。この店ではレジがあるので暗算は必要ないが、普通の店の事を考えれば不安になるのはしょうがないだろう。
「ジェシカさん大丈夫ですよ、字を書くのも計算が苦手だった者もこちらでは立派に働いています、ですから安心してください」
副会頭であるリアムにそう言われてジェシカはホッとした様だった。リアムがジェシカに話した人物の事は勿論ミリーの事だ。ミリーは学校に行った事がなかった為簡単な文字と一桁の計算位しか最初は出来なかった。でも今は仕事後にトミーに教わったり、子供たちと休みの日に勉強したりして、とても頑張っている。
無理をしているのでは無いかと心配になった時もあったが、勉強して知らなかった事が分かるようになるのは、とても楽しいと言ってミリーは喜んでいたであった。
それと、ご飯の準備もしなくて良いし、子供達はここに来てから益々自立して手がかからなくなって来ているので、十分に勉強する時間があるのだとミリーは嬉しそうに話してくれた。
「トミーの教え方がいいのかしら?」
と私が聞くと真っ赤になっていたので、相変わらずいいムードの2人の様だった。
「それでは、ジェシカさんも明日から宜しくお願いします」
ジェシカはリアムの言葉に嬉しそうに頷いていた。子供達も母親と一緒に職場に来れるとあってホッとした様だった。
これから店の中をミアに案内してもらうことになっているジェシカ達に、私は声を掛けた。一番は子供たちと話したかったという事が大きかったのだが……
「キース、ドロシー、この店の裏庭には遊具があるの」
「「ゆうぐ……?」」
可愛らしく答える二人に胸がきゅんとなる。可愛い。それもドロシーは女の子だし、名前も最高だ!
「ピートの他にもここにはタッドとゼンって言う子と、あとメイナードという子も遊びに来てるから、遊具で一緒に遊んでみてね」
二人は良い笑顔で微笑んで見せた。なんて可愛いのだろうか! 早く自分の子供が欲しくなってしまう、三人が部屋から出ていった後もにやけが止まらない私であった。
ビルの弟が来るまで少し時間があるので、ここで休憩をはさんだ。ジョンが美味しいお茶を入れてくれた。私は昨日のこともあるのでリアムの好きなキャラメルを出してあげた。
キャラメルを見た瞬間にとっても機嫌の良くなったリアムであった。
「ララ、キャラメルは商品にしないのか?」
リアムが早速一粒口に含みながら聞いてきた。美味しいのかとっても良い笑顔だ。
「うーん、今はパンがメインだからね、それにお菓子はナッティーだけでほぼ作っているから、作れる量に限度があるし……」
「そうなのか……」
明らかにリアムはがっかりしているが、キャラメルを毎日食べたら虫歯になってしまいそうで、リアムの甘いもの好きが心配になってしまう。
「でも、アイラさんとジェシカさんが入ってくれるから、少しずつケーキとか増やしていきたいな」
リアムはガックリと落としていた肩が、ケーキと聞いて急に上がり元気になった。ケーキも大好きの様だ。
「マシュー達の息子さんが来たら少し変わるかな、お友達も一緒だって言っていたしね」
私の言葉を聞いて、美味しいお菓子がどんどん増えると思ったのか、益々元気になったリアムであった。
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