第52話 解体作業
購入した物件に、今日はアダルヘルム、マトヴィル、セオ、そして私の四人で向かっている。
今現在建っている古い建物を解体するためだ。今日の為に古い建物から使えそうな調度品などはリアムが前もって取り出してくれてある。実際にはリアムではなく、ランス達が作業を行ってくれた。
リアムはどうやらあの屋敷には近寄りたくは無い様だ。相当幽霊などが苦手のようだ……
中央地区に入り屋敷に着くと、順番に馬車を降りた。今日は屋敷の普通の馬車で来ている。アダルヘルムやマトヴィルがただでさえ目立つ上に、解体作業をするので、これ以上は目立つ必要が無いからだ。
馬車を屋敷の解体の邪魔にならない所へと置き、イッチ、ニッチが世話をする。
この子たちは普段からマトヴィルに付いているので、馬の世話もなれたものである。
そして私達は土地の端4箇所に結界魔道具を置き、全体に結界を掛けて、周りに迷惑にならないようにした。これで解体の音も作業中の様子も周りからは見えなくなるのだ。
「よし、これで準備は整いましたね?」
「はい、マスター」
「こんだけ広い土地なら思いっ切りやれるな」
「はい、師匠」
実は、この解体をどうせならば、魔法を使った攻撃の練習を兼ねてみようとなったのである。私達はかなり成長してきているとアダルヘルムとマトヴィルが言うので、実践でそれを確認してみることにしたのだ。
「よし、では、セオ、先ずは剣を使ってみよう」
「はい!」
セオはアダルヘルムにそう言われて、自分の得意とする双剣を構えた。セオは全身に魔力を纏うと大きく飛びあがり、風を使い身を回転させながら、古い屋敷に切りかかった。屋敷はばってんの形に大きく切り込みが入り、地鳴りのような音を立てて崩れていく、セオの攻撃でかなりのダメージを屋敷に与えた。
「ふむ……攻撃力が上がったようだな、セオの最近の努力の成果が出ているようだ」
「はい、有難うございます」
アダルヘルムに褒められてセオはとても嬉しそうだ。セオは騎士になると決めてから、毎日のようにアダルヘルムやマトヴィルに師事を受けている。日々努力を重ねているので、それが認められて私も嬉しくなった。
「では、次にノア様」
「はい!」
私はセオが私のために打ってくれた刀を構えて魔力を纏う、そして水をイメージした攻撃で屋敷に切りかかった。
刀の先端が長く伸び、水の刃物が屋敷を襲う。ザッシュ と大きな音がして、屋敷全体に長い切れ目が入った。
屋敷はセオの攻撃に何とか耐えていた部分もその攻撃に負け、大きな音を立てて崩れだした。
「流石ノア様……一撃が素晴らしい……」
「有難うございます!」
アダルヘルムに褒められて嬉しくなり、思わずセオの方に笑顔を向けた。セオも喜んでくれているようで、私に笑顔を返してくれた。
「よし、じゃあ、今度は武術の成果を見せてもらうぞっ! 先ずはセオ!」
「はい!」
セオは返事をした後、すぐに身体強化を掛け、身体全体を魔力で覆うと深い深呼吸をして飛びあがった。屋敷の元の屋根の大きさより飛びあがると、踵からけりを屋敷へと入れた。
壊れ欠けていた屋敷はより砕け、元が屋敷だと知らないものが見たらただのガラクタの山だと思うかも知れない、それぐらい砕けてしまった。
「おお! セオ、なかなかやるなぁ!」
マトヴィルはセオの攻撃を見て、自分も攻撃したいのか、うずうずとしているように見えた。その目は嬉しそうに輝いている。セオはマトヴィルの様子を見て、ニコッと笑って喜んだ。
「よし、次はノア様だ! あー、ちょっと手加減しても良いからな、もう屋敷はボロボロだ……」
マトヴィルは屋敷の状態を確認して苦笑いをした。セオの一撃が効いたらしい。
「師匠、魔力玉を打って見ても良いですか?」
「魔力玉ですかい?」
私はマトヴィルとの最初の練習の際に身体強化から生み出した、カメ〇メハを放ってみようと思っていたのだ。
マトヴィルに初めての練習で壁を壊した時の攻撃技ですと話すと、あー、と何となく伝わったようだ。マトヴィルにとっては壁を壊したことは、それほど記憶に残らないようだ。オルガが怒るはずである……
「では、いきます!」
私は身体強化を全身に掛けながら、腕から魔力玉を放出する事を意識すると、手から魔力が飛び出した。
「魔力玉!」
気合を入れたので、思わず呪文が口から出てしまう。魔力玉はがれきの山となった元屋敷に一直線に向かっていった。ゴーゴゴッ! と大きな音を立てながら全てのがれきを飲み込んでいくと、反対側の結界の壁へとぶつかった。
結界がミシッと音を立ててひび割れていく、そのひびは上空付近まで伸びていくと、何とかそこで止まってくれた。
「あ……あれ? マトヴィル……あー、師匠……思ったより威力が大きくなってしまいました……」
皆を振り返って見てみると、啞然とした表情を浮かべている。屋敷のがれきは今の魔力玉でほとんど消えてしまい、地面には風圧で着いた跡が見える。その上、結界も壊れ掛けているのだ、思った以上の攻撃だったのだろう。
「ガハハハッ! ノア様! こりゃあ、スゲー!」
マトヴィルが大きな声を上げて笑い出すと、セオとアダルヘルムも笑い出した。
「これは、片付ける手間が省けましたね」
「ノアは凄いや……」
私は皆が動き出してホッとする、取り敢えず実践の攻撃は、合格を貰えたようだ。私達はその後、土地の整地を行った。
これは小屋づくりや秘密基地作りなどで慣れたものなので、四人でやればあっという間に終わってしまった。
アダルヘルムとマトヴィルは自分たちの出番が殆ど無かったと言って、苦笑いになっていた。
その後は結界魔道具を片付ける。すると、道端に沢山の人が集まっているのが見えた。どうやら結界魔道具が壊れかけた事により、結界の中がぼんやりと見えていたようだ。
人々が押しかけないように、誘導している人たちが見えた。どうやらベルティが言っていた、ギルドの見回りの人の様だ。私達はその人たちに近付き、話しかけることにした。
「ほら、ここで立ち止まるな通行の邪魔になる!」
「こら、おまえ! こっから先には入るんじゃない!」
二人の男性が、大きな声を出して驚いて立ち止まる沢山の人を誘導している、さっきまであった有名な幽霊屋敷が突然無くなったのだ、皆が興味を持つのは当然だろう。
私たちが近付いてきたのが分かったのだろう、その二人はぺこりと頭を下げると挨拶してきた。
「こんにちは、商業ギルドの見回りのものです。私がトミーこっちがアーロです」
「わざわざ有難うございます。お騒がせして申し訳ございません」
2人の男性の視線が子供の私とセオに向けられることは無く、アダルヘルムとマトヴィルに向いていたので、代表してアダルヘルムが答えてくれた。
ただし、道を歩いていた女性たちの視線がアダルヘルムとマトヴィルに集中してしまい、見学者が増えてしまったという弊害がおきてしまったけれどーー
「それにしても……あっという間に幽霊屋敷が無くなってしまいましたね……それだけじゃなく、土地の整地まで終わってるとは……いやー、素晴らしい……」
自分をトミーだと名乗った男性が驚きを隠せない顔をしてそう言った。
「これだけ野次馬が集まってしまうと、勝手にこの土地に入りこんじまう奴がいるかもしれません。どうしましょう、ギルドに常駐の護衛を雇いますか?」
「ご心配ありがとうございます。大丈夫です。結界を張りますので」
「け……結界ですか?」
「ええ、先ほど強力な攻撃を防ぐための結界魔道具は壊れてしまいましたが、ただ侵入を防ぐだけの結界でしたらすぐに張れますので、何の問題もありません」
アダルヘルムがそう言って微笑むと、道端の方から黄色い歓声が上がった。何人かの女性はうっとりしてふら付きながら歩いているようだ。やはりアダルヘルムとマトヴィルを外に出すと目立つようだ。アリナが街に買い出しに出かけるときは大変だっただろうと、心配になってしまう。
私がそんなことを考えていると、アダルヘルムがサッと手を振って結界を張ってしまった。あっという間の出来事に、トミーとアーロは呆然としていたーー
私は魔法バックから可愛くラッピングしてあるクッキーセットを出し、動きが止まっている2人に差し出した。すると驚いた顔のまま二人は黙ってそれを受け取った。
「今日はわざわざ有難うございました。それは、少しですがお礼の品です。クッキーですので良かったら食べて見て下さい。あ、感想を頂けたら助かります」
「く……くっきー?」
「はい、あー……お菓子です」
「そ……そんな高級なものを? いいのかい坊や?」
「はい、これからここに建つ店でも普通に販売する予定ですので、気に入ったら買いに来てくださいね」
「おお、勿論だよ、有難うな」
トミーとアーロは嬉しそうな顔をして、クッキーを自分の鞄の中へ大事そうにしまっていた。私はついでなので集まっている人々に宣伝をする。
「今度ここにスター商会というお店が出来ます。店舗脇にはお菓子とパンの店も作る予定ですので、皆様、是非いらして下さい。
店の代表はリアム・ウエルスです。何か質問がございましたら、暫くは、ウエルス家までお願い致します」
私は深く集まっている人達に頭を下げた。小さいのに偉いわねとか、坊主必ず行くぞー とか沢山の声が聞こえて良い宣伝になったと、ホッと胸をなでおろした。
挨拶も終えたので、馬車へと向かい森へと帰るとする。
動くたびに女性の悲鳴のような歓声が聞こえ、アダルヘルムとマトヴィルはすっかりアイドルの様になってしまった。
これは危険過ぎて、とてもじゃないけれど、店の手伝いはお願いできないなと思ってしまった。
屋敷へ戻ってから暫くすると、リアムからの手紙が届いた。
どうやら私の宣伝効果が出たようで、ひっきりなしにウエルス邸に店についての問い合わせが入っているようだ。
私は返信に今日合った出来事を書き、良い宣伝になったでしょ。と自慢してみた。
でも戻ってきた手紙には宣伝しすぎだと書かれていて、午後からずっと来客が途絶えずにリアムもランスもてんてこ舞いになっていると書かれていた、その上、アダルヘルムとマトヴィルの事も多く聞かれるようで、ごまかすのが大変だと愚痴だらけの手紙が届いた。
私は流石に申し訳なくなって、黄色い紙飛行機でリアムにクッキーセットを送ってお詫びをした。
その後届いた手紙には愚痴が無かったので、無事機嫌は良くなったようである。ただ従業員の募集が大分集まったので面接をして欲しいと、商業ギルドのギルド長であるベルティから連絡がきたと書いてあった
なので建築工事の途中でも面接は大丈夫だと返信しておいた。
これで従業員が決まれば本格的に店が開店となる。私は頭にいい考えが浮かんで一人ニヤニヤしながら、返信を書き終えた。
「ララ、悪い事考えてるでしょ?」
私の顔を見たセオが突っ込んできた、私はリアムに手紙を飛ばし、セオに振り向いた。
「セオ、良いことを思いつきました! フッフッフッ……これで尚更お客が増えますよー」
私のセリフを聞いたセオが何故か苦笑いを浮かべていたが、そこは気にしないようにしたのである。
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