第49話 商業ギルドへ

「はぁー、何だか緊張するねー」


 今日私達は商業ギルドへと向かっている。店を作る為の登録と、土地購入や、従業員の募集の為だ。

 今馬車の中にはリアム、セオ、ランス、ジュリアン、ジョンそして、私が乗っている。御者はスノーとウインだ。

 なので勿論かぼちゃの馬車である。アダルヘルムも一緒に来たがっていたが、リアムに止められた。美麗エルフが一緒に居たら私が目立ちすぎてしまうと言うのである。

 ただでさえエルフは珍しいのに、その中でもアダルヘルムは飛びぬけて美しいのだとリアムが言った。

 そのエルフが付き添う美少女、ただの美少女より数倍目立つでしょ! マスター! とアダルヘルムを言いくるめていたのが面白かった。

 なのでアダルヘルムは渋々お留守番である。その代わりセオにしっかりと守る様にと、長ーい指導をしていたようで、セオが可哀想になってしまった。


 今日は商業ギルドしか行かないから特に危険はないですよと私が言うと、ララ様の何も無いと言う言葉ほど信用できないものはありませんと、私まで長ーい指導を受けることになってしまった。

 リアムにお前どんだけやらかしてきたんだ? と呆れられてしまって、納得いかない私であった。

 ココの事はマトヴィルにお願いし、良い子にしててねと約束をして屋敷を出発した。

 

 大きな建物が建ち並ぶ地域に着けば、目立つ真白な形で商業ギルドは建っていた。

 商業ギルドに着き、馬車とスノーとウインを魔法袋へしまう。入口にいた人たちには驚かれたが今日は気にしない、これから店を作るので、わざと目立ちたいのだ。

 その為、リアム達は王都に行った時のオルガ作成のスーツなどでビシッと決めている。

 私とセオも今日は平民服ではなく、私が作った生地で整えた服を着て来ているのだ。これで目立たない訳がない。

 私がならやっぱりアダルヘルムも連れてくればよかったのではとリアムに言うと、それでは商品でなくアダルヘルムにだけ視線が行ってしまうといわれて納得したのであった。


 そんなこんなで、予約してある指定の時間となり、応接室へと通された。その部屋には数々の調度品が置いてあり、歴代の商人たちがサンプルとして置いた品を大切に保管して、長きにわたり引き継いできたのだと分かるような部屋であった。


「……ここは……一番いい部屋じゃねぇか?」


 部屋を見渡したリアムがボソッと呟いた。それが聞こえたらしい案内の女性がにこりと笑ってリアムに答えた。


「はい、ここはギルド長専用の応接室になります」

「はっ? 俺たちは登録に来ただけだぞ? なんでだ?」

「さぁ……理由は存じませんが、ウエルス様がいらっしゃいましたら、こちらの部屋へとご案内するようにと承っております」


 女性はそう言ってお茶を出して下がっていった。私達は案内されたソファに腰を下ろし、ギルド長が来るのを待つことにした。

 本人に聞けば分かるとランスが言ったからだ、リアムとランスがギルド長と対面するのに中心となる場所に座り、私とセオは端の方に大人しく(リアムにしているように言われた)座った。

 ジュリアンとジョンは後方に立ったまま控えている。

 先程の女性が出て行って暫くすると、白髪の女性が入ってきた。髪を綺麗に後ろでまとめ品のある櫛を指している、両耳には金色に光る大きめのイヤリングをしている。年齢は高めの様だがスタイルが良く背も高い、また自分の長所が分かっているのだろう、それを生かすような服装をしている。

 もう一人女性の後ろから男性が一緒に入ってきた。その男性は髪もがっちりと固めており、いかにも真面そうな雰囲気を醸し出していた。

 私達はリアムが立ち上がると共に立上り、真似て頭を下げた。


「初めまして、リアム・ウエルスと申します。本日は貴重なお時間を頂きましてありがとうございます」

「堅苦しい挨拶はいらないよ。皆座りな。私はベルティーナ・ランゲ、商業ギルドのギルド長だよ。こっちはフェルス、私の右腕だ。それで今日は店の登録に来たって事で間違いないかい?」


 ギルド長は目を細めてジッとリアムを見た。この部屋は昼間だと言うのに豪華なシャンデリアに灯りがともっており、とても明るい、もしかしたら相手を良く見るためにわざとそうしてあるのかもしれないがーー


「はい、私が新しく店を立ち上げることになりまして、その登録と土地の購入、そして従業員の募集に参りました」

「ふむ……あんたの実家の店とは関係がないんだね?」

「はい……ギルド長は私をご存じで?」

「ウエルス家って言えば色んな意味で有名だからね……まぁ、何もしなくても情報は勝手に入ってくるさ」


 リアムは苦笑いだ。どうやらリアムの実家は色々な噂の立つ家らしい。


「店を建ててすぐに従業員を募集するのかい? 随分と自信があるようだね……?」

「そうですね、店と並んで飲食店も作りますので、そちらの従業員の募集と、後は店の方にも数名ですかね。自信は有りませんが売れる確証はあります」

「ふん、ワイアット商会に行った件だね?」

「ご存じでしたか……」


 ギルド長はまたリアムの事をジッと目を細めて見た。今度は着ている物を観察するようにゆっくりと見回している


「こっちにも問い合わせがあったからね、あんた街を歩き回っただろ? すっかり有名人になってるよ。ウエルス家の三男坊が出世したってね」


 リアムはギルド長のその言葉にしたり顔で笑った。どうやらかなりの宣伝効果があったようだ。


「それじゃあ、まずは書類に……どうした嬢ちゃん、私の顔になんかついてるかい?」


 ギルド長はそう言って私の方を目を細めて見た。私はギルド長が気になって知らず知らずのうちにジッと見入っていたようだ。

 リアム達が私が注目を浴びたことで固まっているのが見える、もしかしたら私の言葉を待っているのかもしれないがーー


「あの……ギルド長……ベルティーナさんは、目が見え辛いのではありませんか?」

「ほぅ……どうしてそう思うんだい?」


 ギルド長の言葉に、私は疑問に思っていたことをぶつけることにした。リアム達がこちらを見て焦っているようにも見えた。


「まず、何を見るにしても目を細めて見ていました。リアムの事も、今出そうとした書類の事も、それにこの部屋は昼間なのにとても明るくなっています。

 その上ベルティーナさんのデスクのランプには、灯りが付いています。こんなにも部屋があかるいのにです……ですからもしかして、目が悪いのかと思いまして……」


 私はギルド長にそう言ってから周りを見ると、リアムは頭を押さえ、ランスは微笑んでいるが目が笑っておらず、セオに至ってはやっぱりララだよね、と言う感じで苦笑いをしていた。

 私は笑顔でカップのお茶を一口飲んで誤魔化して見たが、何も変わらなかった。


「……あんたの言う通りだよ……見えづらくてね……物が二つに見える時もある……もう引退も考えてる程さ……あんた、聡い子だね……何者だい?」


 私は苦笑いを浮かべて答える。


「私はララ・ディープウッズです。ベルティーナさん、少し目を見せて頂いてもよろしいでしょうか?」

「……ディープウッズ……」


 驚いているギルド長と、後ろに控えているフェルスの答えを待たず、私は彼女に近づきそっと顔に触り目を見て診ることにした。瞳の中の白い部分が少し濁っているのが分かる、これはやはり……


「【白内障】だと思います」

「えっ? はく……なんだって? 聞いたことのない名だね」

「簡単に説明すると目が見えづらくなる病気です。癒しを掛けてもよろしいですか?」

「……ああ……」


 驚いている様子のギルド長にそっと癒しを掛けてみた。


「どうでしょうか? 少しは良くなりましたか?」

「これは……」


 ギルド長は周りを見渡すと、今度は書類を見たり、自分の手を見たりと目の確認をしだした。そして最後に私の手をぎゅっと握った。


「あんたは凄い子だね! こんなに良く見えるのは何年ぶりだろうか、嬉しいよ、本当に有難う」


 喜んでもらえたようで良かった。話を聞くと何度か医者には診てもらった様だが、原因も分からず、結局諦めていたようだ。

 私は今度目薬も持ってくることを約束して元の自分の席に戻った。するとリアムは深いため息を付いてソファの背に寄りかかってしまった。ランスは苦笑いだ。


「フフフ……そうか、ディープウッズ家の姫様か……」


 ギルド長はそう呟くとリアムの方へと向き直した。


「あんたの隠し玉はこの姫様だね?」

「何故そう思われますか?」


 リアムは質問に質問で返した。ギルド長がニヤリと笑う。


「それが答えかい、随分大事にしてるようだね……ふん、どうせあんたの着てるその服もこの嬢ちゃんが作ったんだろ? 違うかい?」


 ギルド長の言葉に後ろのフェルスが大きく目を見張った、リアムは何も答えず笑顔を返すだけにとどめているーー


「分かったよ、その嬢ちゃんの事は誰に聞かれても知らぬ存ぜぬで通すとしよう。フェルスもいいね!」

「畏まりました」


 フェルスはそう言って頷くと、私達の前に書類を持ってきた。リアムがその書類に目を通し、店の名前スター商会と、自分の名前リアム・ウエルスと記入して店の手続きは無事完了した。

 私はリアムってあんななのに字も綺麗なんだなーと考えて座って見ていた。


 次は店の土地である、前もってランスが希望を伝えて置いてくれたので、商業ギルド側で準備をしておいてくれたようで、3件の物件情報を渡された。

 一つ目は、中央地区にある小さめの土地だ、建物は立っておらずそのままで使うことが出来る。場所も良い場所にあり、一等地と言えよう。ただし金額が高い上に土地の小ささが気になった。

 二つ目は、中央の端にあるが土地が広くまだ使えそうな建物も付いていた。ただし少し人目に付きにくい為、宣伝がかなり必要になりそうだ。例えば毎日アダルヘルムに街を歩いてから店に来てもらうとか、だろうか? それは却下だなと私の中で答えを出した。

 三つめは、中央に大きく構えている古商家の引取手の付かない土地と建物だ。こんなにいい条件なのに何故買い手がつかないかと言うと……


「お化け屋敷?」

「ああ、そうだ、そこの商家は大店だったんだけど不幸が有ってね、何でも一人娘に惚れた男が結婚を断られた腹いせに、家族中を襲ってその後自分もそこで自殺したらしい……

 それから人が寄り付かなくなっちまってね、ほっとくもんだから木も草も伸び放題でね、どんどん薄気味悪くなっちまって、こんなにいい場所にあるのに誰も買おうとしないんだよ。

 ギルドにも再三怖いから何とかしてくれって連絡が入っていてね、迷惑してんのさ、でもねその分本当に安い、とても街の一等地とは思えないほどの値段だ。その上広いからね。事件を気にしないならお買い得な物件だと私は思うよ」

「ここにします!」

「ララ!」

「姫様……」


 私の言葉にリアムとランスが真っ青な顔になる。二人とも怖いのだろうか?


「おまえ、そんな評判の悪いところに店を建てたら誰も来ないだろうが! 何考えてんだよ」

「姫様そうでございます。商売をするにあたって評判と言う物はとても大事でございますよ」

「だからでしょ」

「「はっ?」」

「だって、元々お化け屋敷が建ってたんだよ、その後どんなものが出来たってそれより悪くなることは無いでしょ? それにお化け屋敷として有名なら、皆次に何が出来るのか、怖いもの見たさで気にするはず。どんな宣伝よりも効果があるじゃない!」


 私はそう言って皆にぺったんこな胸を張って見せたのだった。

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