第45話 盗賊団と報告と

「スター商会……アラスター様から取った名か?」


 リアムにそう聞かれ私は頷く。リアムはニカッと笑うと 良い名じゃないか と喜んでくれた。セオもララが決めたのなら不満はないと了解してくれた。

 会頭は未成年の私よりリアムの方が良いと言ったのだけど、それはダメだと言って聞いてはくれなかった。

 結局私が会頭になることに決まり、リアムが副会頭となった。これから自分がなるべく表舞台にたつので、ララは成人するまでは出来るだけ目立たない方が良いと皆に言われた。

 勿論セオにもだ、ただディープウッズ家の者というだけでも狙われるのに、店の会頭までしていると知られたら、襲われる原因になってしまうとの事だった。

 私はこれには素直に頷いた。何故なら元々店の事はリアムに任せるつもりだったからだ。私は商品は作れてもこの世界の商売の事には詳しくない。

 勿論生活についてもだ。森の中で暮らしているので、この世界の一般常識に疎いのだ。

 リアムとランスが中心となって店を賄い、私とセオで新商品を作っていくことでまとまった。ウエルス家の人々も手伝う事を楽しみにしております。とジョンが言ってくれた。隣でジュリアンも頷いていた。


「ララ、アダルヘルムに話さないと……」


 セオにそう言われてハッとした。こんな勝手に店を持つ事を決めたらまた怒られてしまうと顔が青くなるのを感じる、私はスノーを出して、アダルヘルムをこの部屋に呼んできて欲しいとお願いした。

 スノーは可愛く カシコマリマシタ。 と言って部屋を出て行った。


 私はアダルヘルムが来る間に、リアム達が盗賊に襲われた時の話を聞くことにした。


「手紙に賊に襲われたって書いてあったけど、大丈夫だったの?」


 リアムは帰ってくるのは遅くなったが、特にケガも見受けられないし、売上を取られたわけでも、魔法鞄など高価な品を取られたわけでも無い様だった。

 確かに安心して良いとは手紙に書いてあったけれど、何があったのか詳しく聞きたいところだ。


「俺は目立つ為に街中をあのスーツで歩いて見せたんだよ、その時から不審な輩は見えては居たんだ。

 ただ、ジュリアンがこの風貌だろ、それに警備隊も王都の街には沢山いるからな、そこで襲われることは無かった。でもな、実家に行った後からどうやら本格的に尾けられていたようなんだ… …」


 集団で順番に見張りに付かれていたようで、不審だと感じたとしてもずっと後を同じ人物に付かれている訳ではなかったので、そこまで警戒していなかったそうだ。ジュリアンは明らかに自分の責任だと感じて顔を伏せていた。


「まぁ… …兄貴が怪しいってのもあるしな……」

「お兄さんが?」


 言いにくそうなリアムの代わりに、ランスが言葉を引き受けた。リアムは苦い顔をしている。


「ご長男のロイド様は、少しばかりリアム様に対して劣等感を抱いているようでございまして、何かと手を出されるのでございます… …」


 それにしたって賊に襲われたら下手したら死んでしまうかもしれないのに、自分の弟にそんな事をするなんてーー


 本当にリアムの兄の仕業だとしたらお仕置きが必要かもしれない。私の眉間のしわを見て、リアムはデコピンをお見舞いしてきた。気にするなの合図らしい。


「王都のユルデンブルク領を抜けてヒッツウエルズ領に向かう途中で賊が現れてな、こっちは4人、でも剣を使えるのは俺とジュリアンだけだ、賊は10人ぐらいか? いてな、流石に無傷では居られないだろうと覚悟したんだ。そしたら……」


 リアムが大事そうに自分の手にキーホルダーを乗せ、私とセオの前に出してきた。リアムはとても愛おしそうな顔をみせている。


「こいつが……ブレイが守ってくれたんだ……」


 馬車の中に一緒に乗っていたブレイは、敵だと分かるとすぐに外へと飛び出してきた。

 そして体が巨大化し、唸り声を上げた。僕のご主人様に近づくな! とーー


 そう言った途端爆発したような風圧が起こり、その風に思わず目をつぶってしまったが、次に目を開けると賊は全員倒れて気を失っていたらしい。


「ブレイ、凄い! ちゃんとリアムを守ってくれたんだね!」

「ああ、見せたかったぜ」


 ただ、その後が大変だったらしい。一気にブレイに魔力を奪われた形になってしまったリアムは立っていることも辛い状態にになってしまい、ヘロヘロの状態。 

 勿論ブレイはキーホルダーに戻ってしまった。賊はそのまま放置出来ないし、風圧のせいで馬車は歪んでしまったし、と散々だったそうだ。

 ジュリアンが馬に乗り、近くの街まで警備隊を呼びに行き賊を引き渡し、その間リアムは馬車の中で休んで魔力回復に努めたそうだ。


 その後馬車を誤魔化し誤魔化し走って、近くの街で修理をしてもらい、やっと出発出来たそうだ。


「あー… …じゃあ……ブレイに手加減を覚えさせないとダメだね……」


 リアムは首を振った。ぎゅっとキーホルダーを握る。


「ブレイはこのままでいい… …俺が頑張って魔力量を増やせばいいだけの話だからな……」


 リアムは成人している。魔力量を増やすのは毎日訓練をしたとしても、大変なことだろう……だけどリアムは嬉しそうにそう語るので、私は笑顔で頷いた。


 丁度賊の話に区切りがついたところで、アダルヘルムがスノーを伴って部屋へと入ってきた。リアムはサッと立ち上がる。それに伴ってウエルス家の皆が立ち上がった。


「アダルヘルム様、お邪魔しております」

「リアム様、どうか敬称無しでお呼び下さい。ララ様の大切なお友達なのですから……」

「しかし……そんな訳には……」


 アダルヘルムが首を振るので、リアムはどうしようかと困っているようだ。するとセオが口を開いたーー


「俺はマスターって呼んでる」

「マスター?」

「剣の師匠なんだ」

「では、私もマスターと呼ばせて頂いてもよろしいでしょうか? それと… …もし出来ましたら、私にも剣の指導をして頂けると嬉しいのですが」


 アダルヘルムはお父様と同じく有名な剣士のようで、その人に師事出来るのは剣を扱うものとして夢の様な事らしい。

 ジュリアンまでも目をキラキラさせて、アダルヘルムを見つめている。何だかその目が少し怖いけど… …


「ふむ……確かに今後ララ様との交友が深まれば、リアム様にも危険があってもおかしくはありませんねーー

 わかりました。お受けいたしましょう」

「有難うございます! マスター」


 そう言ったリアムの頬は少し赤く染まり、まるで恋する乙女の様だった。勿論ジュリアンは言わずもがなである。


「それでララ様、私にお話とは?」


 アダルヘルムはリアム達を座らせると私に問いてきた。


「あの… …リアムと一緒にお店を作ろうと思って……」


 私の言葉をリアムが引き取る。


「先日、王都で売ってきましたララ様の品は、予想以上に良い値で売れました。これからその品が出回れば噂となり、調べる者も出てくるでしょう。

 でしたら店を構え、私が窓口となり、買い手の対応を一気に受け持てば、ララ様が表立って目立つことも少ないと思います。

 ララ様はいずれ必ず注目を集めてしまう方だとは思いますが、出来るだけそれを遅らせることを私にもお手伝い出来ればと思っております。

 どうかララ様をお守りする役目を私にもお手伝いさせて頂けないでしょうか?」


 リアムはそう言って頭を下げた。私は思いもしなかったリアムの言葉に、驚きが隠せなかった。


「私ってそんなに目立つのですか… …?」


 私以外の全員が驚いた後、苦笑いをした。何故だーー


「ララ様はこういう方ですが、大丈夫ですか?」

「はい、命を懸ける覚悟をしております」

「セオ、君も大変になるが大丈夫だろうか?」

「はい、俺は必ずララを守ります!」

「えっ?! なんだか皆大げさすぎませんか……」


 私の呟きは皆には聞こえない様である……酷い


「ふむ……では、許可いたしましょう。ただし、その都度報告をする事と、私の確認を受けることを条件といたします。ララ様、宜しいですね!」

「はい、アダルヘルム有難うございます」


 何故か私の名を強調されてしまったけれど、取り敢えず許可は下りたので一安心である。

 アダルヘルムは話は終わったようなのでと言って部屋を出て行った。


 私達はまだ商品を見たことのないランスに、私が作った品を見せるため裏庭の小屋に向かうことにした。

 小屋へ入ると、リアム以外のウエルス家の面々が酷く驚いて居たので、自分も同じ経験をしたリアムが、気持ちはわかるぞと言って皆の肩を優しく叩いていた。


 各部屋を簡単に説明し、収納部屋へと向かった。部屋へ入るとランスの目の色が変わったのが分かる。さすがリアムに師匠だと言われる男である。商品を見る目は真剣だ。


「これは……何と素晴らしい……」


 ランスはいつの間にか手袋を取り出し、私に許可を貰うと一つ一つ丁寧に品物を確認しだした。私は横に付いてそれを説明する。


「姫様、こちらは?」

「ああ、それは口紅ですね。今は色が少し増えて10色の口紅があります」

「こちらは、何でしょうか?」

「料理器具の圧力鍋です。私の趣味は料理なので、あ、そうだ、一つ持って帰ってリアムの家でも使って見てもらえますか? 【データ】を集めたいので… …」

「お前は… …またそうやって簡単に他人に価値のある物を渡すんじゃねーよ……」


 リアムは大きくため息をついて、私の頭をくしゃくしゃと撫でた。


「リアム、これはより良い商品を開発するために必要な事なんだよ。いろんな意見を聞かないといい品は作れないんだからね!」

「姫様は何と志が高いのでしょう……」


 何故かランスが泣き出さんばかりに感動している。

 私は苦笑いをしながら、これまで作った品を魔法袋に入れてリアムに差出した。


「これをリアムのお家で使ってみて意見を集めてくれる? それを元に改善していきたいから、厳しめでね」

「ああ……分かった。皆に伝えるよ……」


 受け取ってくれたので満足して私は微笑む。


「あと、これを皆さんに……」


 リアムは私が渡した袋を開けて中を確認した。中には沢山のミサンガが入っているのだ。


「お前……これ……」

「あ、大丈夫。編み込むのは自動化出来る様になったから、凄く簡単に出来る様になったの。私と付き合うと危険に巻き込まれる可能性もあるみたいだから、お家の皆さんにも付けてもらってね。ただし、剣の練習とか武術の練習をする時は外してーー」


 私の言葉はそこで遮られた。リアムが私をぎゅっと抱き締めたからだ。リアムとは身長差があるので、抱きしめられると息が出来なくなる。

 もう限界だと思った時にサッと離された。ふーっと深呼吸していると、ありがとなっ とリアムの少し湿ったような声が聞こえた。

 でも顔はそっぽを向いていたので、私は頷くだけにとどめた。


 ただランスは目頭が赤くなっていたし、ジョンはハンカチで目を押さえていたし、ジュリアンに至っては完全に泣いていたので、その後の対応に困ってしまった。


「あっ、そうだ、セオの作った物も見てください!」


 私はこの場の雰囲気を変えるためにそう切り出した。勿論、元々セオの作った品は見せようとは思っていたのだけれど。

 話を振ると興味を持ったのか皆の目の色が変わった。どうやら早く見てみたいようだ。


「それで、セオは何を作ってるんだ?」


 リアムに聞かれ、セオは少し恥ずかしそうに答えた。


「刀だよ」とーー

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