立花瞳は何者か

スイッチ

立花瞳は何者か


「よぉ立花」


「やっほー悟くん」


「今日は遅かったな」


「図書室の整理してたんだ」


「副委員長様は大変だよな」


「まぁね。でも最新の本はすぐ借りれるからね。私にしてみればいい給料だよ」


「さすが文芸部の鑑。読書にかける熱意が強いよ」


「悟くんも文芸部なんだけどなぁ」


「僕はこの緩さと部室の狭さが好きなだけだよ。立花みたいに文学が好きなんじゃない」


「私もここには休憩しに来てるようなものだから何も言えないんだけどねー。あれ?村岡くんは?」


「録画してたアニメ観るから帰るってさ」


「そっか。じゃ今日は何するの?トランプ?」


「いや今日はトランプはしない」


「なんで?」


「ちょっと頭が痛くてさ」


「大丈夫?帰らなくていいの?」


「大丈夫。頭痛って波があるだろ。今は干潮みたい」


「というか頭痛とトランプの関係が分からないのですが」


「トランプだと盛り上がりすぎるからね。念のための頭痛対策ってわけ」


「じゃあ将棋?」


「将棋もしない。あんな激しいのしたら僕の頭が詰んじゃう」


「え、じゃあ何やるの?」


「喋ろう!」


「いいけど……いいの?」


「なにが?」


「だっていつも喋ってるじゃん。なんか特別なことじゃなくていいの?」


「なに言ってるんだよ。こんなパイプ椅子とボロ机しかないような狭い狭い部屋で女子高生とお喋りだぞ。これ以上特別なことなんてあるもんか」


「そりゃどうも」


「それにさ僕はお知識お豊富立花さんに訊きたいことがあるんだ」


「なぁに?」


「……あのさ、幽霊っていると思う?」


「幽霊かぁ。私は見たことないな」


「まぁそうだよなぁ」


「そっちは?」


「僕もないんだけどさー。ふとしたときにやっぱりいるのかなって考えちゃうわけだよ」


「昨日の特番見たでしょ」


「なっ、いいだろ別に。ああいうのってなんか分かんないけど謎の吸引力があるだろ?気付いたらテレビの前にいる、みたいな。……ってか立花も見てたってことか」


「そだよ」


「んで立花はどうなの?」


「何が?」


「幽霊。いると思う?見たことはなくてもいいんだ。問題はいるかどうかだよ」


「私はいなくてもいいって思うよ」


「分かる分かる。怖いんだろ」


「違う違う。幽霊ってさ、いるのかいないのか分かんないじゃん?」


「そうだなぁ。じゃなきゃこんな話もしない」


「そうそれ!」


「ん?」


「幽霊は存在するかもしれないししないかもしれない」


「うん」


「そこが面白いんだよ。存在すること証明できないし存在しないことも証明できない」


「村岡みたいなこと言うなぁ。あいつすっげえ興奮して話すんだぜ」


「そうなの?」


「ああ。パンツは見えないからこそ無限の色を見せるんだって」


「それとはちょっと違う気がするんだけど」


「そう?」


「うん」


「まぁでも幽霊でもパンツでも見えるもんなら見てみたいよ」


「そうだね。パンツは余分だけど、必要なのは見る方法だよね」


「あーあ、幽霊が見えるゴーグルでもあればいいんだけどな」


「そしてその手段というのが」


「え!あんの?」


「一応ね」


「教えてくれよ立花様ぁ!」


「いいよ。その手段というのはね」


「うんうん」


「私」


「え……もしかして、その眼鏡って……」


「これはただの私の眼鏡だよ」


「じゃあどういうことだよ。さっき見たことないって言ってたじゃん」


「うん、見えないよ。ただ信じることはできる」


「宗教の話?」


「似たようなものかもね。共通点は信じる人にとっては存在するということ」


「存在するかは自分次第ってことかよ」


「そういうこと」


「そんなこと言ったら全部そうじゃん」


「でもね蓋を開けるまでまで分からないってことは日常にもたくさんあるよ」


「例えば?」


「実は私が幽霊だとか」


「……」


「うわぁ!ちょっやめてよ!びっくりしたなぁもう」


「ほら大丈夫だ。立花には肉体がある。それに幽霊だったら驚かないよ」


「それもそうかぁ。んー、じゃあ私が実は男だとか」


「それは確かめてもいいのか?」


「だめです」


「まだ方法も言ってないのに」


「だめです」


「じゃあ本当に女の子か分かんないじゃあないかあ!」


「そうだねぇ」


「酷いことを考えやがる」


「だから私が本当に女の子かは悟くんが信じるしかないの」


「つまり僕の考え次第では立花は男になり得る……それはそれで」


「変なこと考えないの」


「痛っ。お前のチョップって意外に痛いんだからな!」


「女の子のチョップは痛いものです」


「お?なんだ?僕のサマーソルトキックなんか痛いなんてもんじゃないぞ」


「そういうことでもなくてね……あ、チャイム」


「おぉーそろそろ帰ろうか」


「そうだね…………」


「ん?どうした?」


「最後にひとつ訊いてもいい?」


「なんだよ改まって。いいよ。ふたつでも答えてあげる」


「ありがと。……んとね」


「うん」


「私、私が立花だって言ったら信じる?」


「はぁ?何それ」


「だから、私が立花瞳だったら信じるかって訊いてるの」


「信じるも何もお前が立花じゃないって言われる方が信じられないよ」


「……そっか。ありがとう」


「おいおいどうしたんだよ。ちょっと今日のお前おかしいぞ」


「そういうことだよ悟くん」

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立花瞳は何者か スイッチ @crazystudent68

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