第404話 ユナーツ上陸

 ユナーツはアメリカと呼ばれていた時代とは形が変わっている。サンフランシスコやロサンゼルスなどの大都市と一緒に西海岸が沈み、グアテマラとニカラグアも海に沈んでしまった。


 太平洋からメキシコ湾に入り東海岸へ行けるようになったのだ。アマト国は大遠征の準備を始めた。同時にユナーツへ使者を送り交渉した。


 アマト国が有利な条件で停戦を申し出たのである。ユナーツは停戦交渉を長引かせようとした。停戦交渉をしている間は、アマト国の軍事活動が停滞したからだ。


 ユナーツは時間稼ぎをしながら戦力を回復させようとしているのだ。そして、アマト国もユナーツ本土に攻撃を仕掛けるための準備期間が欲しかったので、ユナーツの停戦交渉引き伸ばしに乗った。


 大変だったのは、延々と引き伸ばされる交渉を担当したコニシたちだった。昔『会議は大いに踊れど、先に進まず』という有名な言葉が出たほどの会議があったが、今回も同じようだったらしい。


 但し、今回はダンスではなくユナーツの高官が好きな賭け事で時間を過ごしたようだ。ちなみに、コニシは賭け事の才能があったらしく、最終的に大勝している。


 『会議は大いに踊れど、先に進まず』という言葉を残したウィーン会議は、九ヶ月ほどの長きに渡って会議が延々と続いたようだが、アマト国とユナーツの会議は半年で決裂した。


 ユナーツでは破損した軍艦の修理が終わり、新しい戦艦も二隻が完成した。それにユナーツ人の捕虜は、停戦交渉の前段階で解放している。


 その代償として、ユナーツは少数のアマト人捕虜解放とかなりの金貨を支払った。アマト国でも捕虜の扱いに困っていたので、厄介払いができてスッキリした。


 捕虜の奪回が解決したユナーツでは、やはりウォルター諸島が必要だと考えた。ウォルター諸島を奪取するためには、アマト国の爆撃部隊を何とかする必要があり、高射砲の開発を始めた。


 ユナーツは短期間で空に向かって撃てる大砲を開発した。そして、高射砲を量産すると、軍艦に搭載する工事を始めた。


 一方、アマト国は大量の輸送船を用意し、ユナーツまで遠征する大艦隊を編成した。それもユナーツに気付かれずに編成し、ユナーツに向けて出発した。


 この大作戦をユナーツに秘密にして遂行する事は非常に困難だった。事前に合流する事はできず、各地方に散った軍艦が夜にひっそりとアマト国を離れたのだ。


 その後、輸送船に重機や陸兵を乗せてユナーツへ向かわせる。


 俺はホクト城から海を見ていた。この瞬間、アマト国海軍の大艦隊がユナーツへ向かっているはずだ。


「皆、頼むぞ」

 俺はホクトを離れる事ができない自分を、不甲斐ないと思った。だが、一国の首脳が遠征して勝敗を決するような時代は終わり、戦いは能力がある部下に託すしかない。


 海を見ていると背後から声が上がる。

「父上、ここに居られたのですか」

 息子のフミヅキが横に並んで海を見る。その背丈は俺と同じほどになり、立派な一人前の大人となっている。


「遠征艦隊の事を考えておられたのですか?」

「そうだ。何とか成功させて欲しい」

 フミヅキが黙ったまま頷いた。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 大艦隊を率いるクゼ・ヒデノリは、戦艦の艦橋で前方を見詰めていた。

「クゼ提督、順調な航海ですね」

 参謀として旗艦に乗り込んだイサカ・サコンが声を掛けた。

「ユナーツの南にある島に、補給基地を造れたのが大きいな」


「ユナーツは気付いていないようです」

「まあ、今回の遠征が成功すれば、ユナーツは気付くだろう。あの補給基地は一度だけで潰される」


「ならば、是が非でも成功させねばなりません」

「そうだな。だが、今回の作戦は難しい。運がなければ、成功せんだろう」

「どこが難しいと考えておられますか?」


 クゼは顔をしかめながら考えを整理した。

「このまま敵に発見されずに東海岸まで到達したとすれば、目標の土地を制圧する事はできるだろう。ただ占領し維持する事は難しい。滑走路を造って、爆撃機を運び込むまで死守する必要がある。何隻の軍艦が沈められる事か」


 補給基地で燃料や食料、水などを補給してから、ユナーツの東海岸に向かった。そして、チェサピーク湾の東側にあるデルマーバ半島に到着すると、その沿岸に兵を上陸させた。


 陸軍兵は素早く一帯を制圧し、重機を船から降ろしたアマト兵は滑走路の建設を始めた。そして、滑走路の周りに陣地の構築を始める。


 アマト国軍がデルマーバ半島に攻め込んだ事は、ユナーツ政府に報告されたはずだ。ユナーツが反撃軍を編成して攻めて来るまでに、陣地を構築しなければならない。


 重機や建築資材をユナーツまで運び、滑走路付きの陣地を構築するという大作戦は、莫大な戦費が必要だった。豊かなアマト国でも一度しか実行できない作戦である。


 滑走路の半分ほどが出来上がった頃、ユナーツの部隊が半島の付け根の方から攻めてきた。この時点でユナーツは、デルマーバ半島の一部を占領したアマト国軍を小部隊だと勘違いしていたようだ。


 なので、大隊規模の兵を出したらしい。その規模の兵で取り返せると判断したのである。だが、デルマーバ占領地には、アマト兵三万が上陸していた。


 占領地守備兵であるアマト兵とユナーツの部隊とが戦闘になり、ユナーツの部隊が壊滅した。当然の結果だった。


 ユナーツは慌てて占領地を調査した。そして、侵略軍の規模に驚く事になる。


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