第400話 ミッドウェー島奪還部隊
「上様、今後は水上爆撃機の量産を行うのですか?」
ドウセツが質問した。
「まさか、ある程度の水上爆撃機を作ったら、本格的な爆撃機を開発する。それが本命の爆撃機になるだろう」
「どのような性能を目指すのですか?」
「エンジンの馬力を三百まで上げて、重量二百キロほどの爆弾を搭載できるようにしたい」
「その爆弾なら、戦艦を沈められるでしょうか?」
「ユナーツの戦艦なら沈められるだろう。ただ陸上機なので、敵が攻め込んで来た時だけしか攻撃できない」
「ならば、水上爆撃機を量産する方が良いのでは?」
「ダメだ。水上機母艦に搭載できる水上爆撃機など数が知れている。本格的な戦になったら、敵国の一部を占領し、そこに飛行場を造り、爆撃機を飛ばすのだ」
俺はドウセツに戦略爆撃の思想を教えた。
「な、なるほど、敵国の製鉄所や造船所、その他工場を破壊し、生産能力と戦意を破壊するのでございますね」
ドウセツの顔が青褪めた。その戦略では将兵だけでなく、多くの一般人が死ぬ事になるからだ。但し、こういう事は一昔前の戦国時代では普通だった。
敵国に攻め入り略奪や火攻めをする事は一般的な戦で何度もあったのだ。ただカイドウ軍は、略奪を禁じていたので、ドウセツには馴染みがなかった。
「しかし、敵国に飛行場を造るような適地が、あるのでしょうか?」
「ユナーツの東海岸近くに、チェサピーク湾がある。その周辺なら造船所や製鉄所も多いので、適当だと思っている」
チェサピーク湾の西側は町が多いので、東側の土地を狙って攻めれば占領できるかもしれない。俺はそう判断した。
とは言え、その前にミッドウェー島を占領したユナーツ軍を撃退しなければならない。それをどうするか考えた。ミッドウェー島にあるユナーツ軍の戦力は、戦艦一隻と巡洋艦三隻、それにコルベットが八隻。そして、陸軍は一個師団を配置したようだ。
「多数の駆逐艦を送って、魚雷で攻撃しては如何ですか?」
ドウセツが提案した。
「魚雷を使って、あれだけの軍艦を沈めたのだ。ユナーツ軍も何らかの対応を考えているだろう」
「ならば、どういたしますか?」
「そうだな。今回は正攻法で攻めよう。戦艦二隻、巡洋艦五隻、駆逐艦五隻で奪い返す」
「ユナーツの陸軍はどうしますか?」
「戦艦と巡洋艦が砲弾を撃ち込めば、降伏するだろう」
この決定に従い、アマト国海軍はミッドウェー島奪還部隊を編成し、ミッドウェー島に向けて送り出した。
ユナーツ軍が犯したミスは、広大な領域にまたがる通信網を確立する前に、戦争を始めた事である。但し、その通信網を確立するためのヒントは、ミッドウェー島で掴んでいた。
ミッドウェー島にあった通信基地を占領し、そこにあった通信機の残骸を手に入れたのだ。残骸なのは、アマト人が逃げる前に破壊したのである。
だが、残骸からでも情報を引き出すのが、ユナーツ人である。俺は間もなくユナーツが無線通信の技術を手に入れるだろうと考えていた。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
ミッドウェー島では、マクドネル提督が不機嫌そうな顔で報告を聞いていた。
「それが間違いないとすると、アマト人は世界中に中継基地を置いて、通信網を築いているという事なのかね?」
電気関係の技術者であるサンダーソン技術将校が肯定した。
「そういう事です。アマト人は世界の裏側で起きた事を、その日のうちに知る事ができるのです」
マクドネル提督が唇を噛み締めた。
「そんな連中と戦争をして、我が国は勝てるのか?」
「情報を早く手に入れた者が、有利なのは明らかです。今の段階でアマト国に戦いを仕掛けたのは、間違いだったかもしれません」
「簡単に間違いだったなどと言うな。すでに戦争が始まっているのだ」
「ですが、今のうちなら、和睦する事も可能なのではありませんか?」
「そのためには、我が国が不利な条件で和睦しなければならない。それを国民が納得すると思うか?」
南太平洋艦隊がデスブリ水道の罠に嵌まり大敗北した、と知ったユナーツの国民は、アマト国に対して激怒した。そんな状況で和睦を言い出しても、国民が承知しないと提督が言う。
サンダーソン技術将校が苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「今は敗北した海軍に、国民の非難が集まっています。ですが、戦争に敗北した時にアマト国の通信網の事を国民が知れば、政府に非難が集まるでしょう」
「分かっている。そうしないために我々は戦っているのだ」
「大丈夫なのですか? 我々がミッドウェー島を占領した日に、ホクトに報告が届いて奪還する準備を始めたのではないかと、私は予想しているのですが」
それを聞いたマクドネル提督が、顔を強張らせた。
「な、なぜ早くそれを言わん」
「えっ、アマト国の通信網を報告したので、理解されていると思っていました」
そんな話をした翌々日、アマト国海軍のミッドウェー島奪還部隊がミッドウェー島を攻撃した。マクドネル提督はアマト国海軍が攻めてきた時に、どうするか話し合っているところだった。
「遅かったか」
提督は戦闘準備を始めるように命令した。提督は戦艦サリナスに乗って、湊から出るように命じる。湊に居るところを攻撃されたら、身動きが取れずに撃沈されてしまうからだ。
後日ミッドウェー海戦と呼ばれる戦いが始まった。ユナーツ海軍の戦力は、戦艦一隻、巡洋艦三隻、コルベット八隻で、アマト国海軍の戦力は、戦艦二隻、巡洋艦五隻、駆逐艦五隻だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます