第399話 デスブリ水道の罠

 ユナーツ艦隊も南洋支援艦隊を追ってデスブリ水道へ向かう。途中アマト国海軍の巡洋艦に砲撃を加えながら追い掛け、もう少しのところでデスブリ水道へ逃げ込まれてしまった。


 ブライトマン提督を含んだユナーツ艦隊の将兵は興奮していた。提督は危険を冒してデスブリ水道へ入るかどうかを考えたが、周りは興奮して仕留めるまで追う気の者ばかりである。


 提督は追う事を命じた。但し、まずコルベットから先に行かせる。その後ろから巡洋艦、戦艦が続く。猟犬のようなコルベットは、獲物を求めて先へ先へと進む。


「コルベットの連中め、はしゃぎすぎだ。速度を落とすように伝えろ」

 ブライトマン提督が不安を覚えてコルベットに速度を落とすように命じた時、複数ある小さな島陰から船が飛び出した。アマト国海軍の魚雷艇である。その数は多く二十六隻。


「クソッ、罠に嵌められた。キャボット参謀、どうすればいい?」

「こんな狭い水道だと、方向転換できません。このまま進んで罠を突き破りましょう」

「そうだな。全艦、全速前進!」


 ユナーツ艦隊が速度を上げ始めると、魚雷艇が魚雷発射の準備をして距離を詰めてくる。ブライトマン提督は近付く魚雷艇に砲撃するように命じた。


 魚雷艇の周辺に砲弾が雨のように降り注ぐ。それを無視して接近してくる魚雷艇の乗組員に、ユナーツ艦隊の将兵たちは畏怖の念を覚えた。


 それでも魚雷艇に命中する砲弾が出始める。一隻、二隻と魚雷艇が木端微塵こっぱみじんになって吹き飛ぶ。そして、魚雷艇から魚雷が投下された。


 ブライトマン提督の周りからも悲鳴のような叫びや怒鳴り声が聞こえる。二十数隻の魚雷艇から各二本ずつの魚雷が投下され、四十本を超える魚雷がユナーツ艦隊に向かって殺到する。


「あの魚雷を撃て!」

 甲板に居る兵士が銃を持って来て撃ち始めた。銃で魚雷を仕留めるなど、奇跡のような事である。その奇跡を信じて兵たちが銃を射つ。


「ダメだ。逃げろ!」

 甲板で銃を撃っていた兵たちが、反対側へ逃げる。そして、魚雷が舷側にぶつかる音の直後に、凄まじい爆発音が響き渡る。


 この最初の一撃で戦艦二隻に二発ずつ、巡洋艦三隻に合計四発が命中した。そして、コルベットにも命中弾があり、小型艦であるコルベットは大破、もしくは中破となる。


 その後、一度は離れた魚雷艇が、魚雷を装填して戻ってきた。今度は戦艦を中心に狙い、三十数発の魚雷が投下された。


 ボロボロになったユナーツ艦隊が、やっとデスブリ水道を抜け出した。それを監視していた南洋支援艦隊の駆逐艦隊は、魚雷を用意して突撃する。


 中途半端は許さないというアマト国海軍の駆逐艦隊は、九隻の駆逐艦で総攻撃を仕掛け、三十六本の魚雷を投下する。その後も激しい戦いが続き、ユナーツ人の多くが恐怖の中で死んだ。


 この戦いでユナーツ艦隊は全滅に近い損害を出した。生き残った艦艇は、巡洋艦一隻、コルベット五隻だけだった。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 勝利の報せがホクトに届いた。俺は報せを聞いて、久しぶりに笑った。

「上様、ソウリンの手柄でございます」

 ソウマ提督が言った。

「そうだな。だが、これほどの勝利となると、ユナーツ人も対策を考えるだろう」


「しかし、魚雷の対策とはどんなものがあるのでしょう?」

「大型艦は、装甲を厚くするだろう。そして、魚雷が命中しても簡単に沈まないような構造に変える」


「ですが、魚雷も強力になるでしょう」

「それなら駆逐艦を大量に建造して、それに高速連射の大型機関砲を多数装備させる」

「なるほど、魚雷艇や魚雷を装備した駆逐艦を近寄らせないようにするのですね」


「その通り、魚雷を投下できるほど近寄らせない。それが確実な方法だ」

「そのためには大型機関砲が必要です。ユナーツに開発できるでしょうか?」

「ユナーツ人は、想像以上に優秀だ。それくらいやってのけるだろう。ただ時間は掛かるはず。その間に我々は別の攻撃手段を開発しなければならない」


「今の段階で、ユナーツ本国に攻撃を仕掛けるというのは、無理でございますか?」

 ソウマ提督は早めに決着をつけたいらしい。

「今の戦力では無理だ。ユナーツには七隻の戦艦と二十隻以上の巡洋艦が残っている。それよりユナーツがオーストラリアの海軍基地をどうするかが気になる」


 俺は南洋支援艦隊にオーストラリアの海軍基地を監視させた。その結果、艦艇が海軍基地から離れなくなった事が分かった。亀が頭を甲羅の中に引っ込めて防御の姿勢を取っているかのようだ。


 航空機戦術研究班のドウセツから、水上爆撃機の改良が終わったと報告があった。俺が警護の者を連れてチガラ湾の飛行機工場へ行くと、ドウセツが待っていた。


「ドウセツ、水上爆撃機が完成したと聞いたが、戦力になりそうか?」

「はい、巡洋艦なら沈められるでしょう」

「十分だ。完成した機体を見せてくれ」


 俺はドウセツの案内で水上爆撃機を見学した。この機体は二人乗りで、操縦席と爆撃手の席がある。操縦席はシンプルな作りをしていた。


「実際に模擬弾を落として、標的船を攻撃してくれ」

 水上爆撃機が格納庫から引き出され、海上に浮かんだ。それに操縦士とドウセツが乗り込む。ドウセツは爆撃手を務めるらしい。


 水上爆撃機のエンジンが動き始め、二つのプロペラが回り始める。海上を滑走して飛び上がった水上爆撃機が旋回を始めた。そこに標的船が動き始めた。


 水上爆撃機が低空飛行を始め、標的船の背後から迫って模擬弾を落とす。その模擬弾が標的船の二メートルも離れていない海に落ちた。


「惜しい」

 俺が声を上げると、水上爆撃機が旋回して標的船の背後に迫り、もう一度模擬弾を落とす。今度は標的船の甲板に模擬弾が落下した。


「なるほど、完成した爆撃照準器は使えるようだ」


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