第393話 南洋の戦い

 ロクゴウ少将が南洋支援艦隊を見たいというので、ソウリンとドウセツは一番大きな水上機母艦に案内した。乗船すると、その甲板から精悍な駆逐艦が見えた。


 ソウリンが率いてきた南洋支援艦隊には、五隻のイワミ型駆逐艦が含まれている。但し、四十五センチ単装魚雷発射管だったのが、四十五センチ連装魚雷発射管に換装されていた。発射する魚雷も新型に替わり、戦闘力は大幅に向上している。


 甲板から海を眺めながら、ロクゴウ少将、ソウリン、ドウセツの三人は話し始めた。

「捕まえた海賊は、どうしているのです?」

 ドウセツがロクゴウ少将に尋ねた。

「牢屋だ。死刑と決まったのだが、ユナーツが文句を言ってきたので、処刑を延期している」


 ソウリンとドウセツは、ロクゴウ少将からいろいろと聞いて状況を把握した。


 それから十数日が経った頃、また商船が海賊船に襲われた。オーストラリア人たちが銃で武装するようになったので、奴隷狩りをしていた連中がアマト国の商船を襲い、海賊行為を行うようになったらしい。


 ロクゴウ少将は、海賊の被害が増えた原因を海賊どもに甘い態度を取ったからだと判断した。そこで牢屋に入れていた海賊を処刑し、南洋支援艦隊と協力して徹底的に海賊船狩りを行う。


 それにより三隻の海賊船を沈めた。それを知ったユナーツのデクスター総督が、呼び寄せた艦隊をグアム島の近くまで進めて、砲撃訓練を行わせた。


 南洋警備隊基地から砲撃訓練の様子を見ていたロクゴウ少将は、目尻を吊り上げる。

「デクスター総督は正気なのか?」

 その言葉を聞いたドウセツは、これがユナーツ人の傲慢さなのだと思った。


 ユナーツ人は自分たちの国が世界最強の国家だと考えている。実際に列強国との戦いにも勝利したのだから、アマト国さえ存在しなければ間違いではない。


「どうしてもアマト国を倒して、世界一はユナーツだと証明したいのでしょう」

 ドウセツの意見を聞いたロクゴウ少将は、納得できないという顔をする。

「ユナーツの戦争準備は終わっていないはずだ。なのに、なぜ戦争を急ぐような真似をする?」


「上様から聞いたのですが、ユナーツに偽情報を流して、建艦計画を拡大するようにしたそうです」

「拡大されたら、アマト国の脅威になる」

「いえ、元々がぎりぎりの建艦計画だったのです。それを拡大した結果、技師や職人が過労でバタバタと倒れたと聞いています」


 ソウリンがニヤッと笑う。

「上様は面白い事を考えますな」

 ロクゴウ少将は賛同するように頷いたが、すぐに厳しい顔になる。

「それに気付いた現場のユナーツ人は、早く戦争が起こる事を願うようになったかもしれんな」


 自分たちの建艦計画がストップしたので、有利なうちに戦争を始めようと思ったユナーツ人が多いのかもしれない。


 それからしばらく経った頃、海賊船狩りをしていた南洋警備隊の船とユナーツの巡洋艦が遭遇し、ちょっとした切っ掛けで戦いが始まった。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 ホクト城で仕事をしていた俺に、オーストラリアの近海で南洋警備隊の船が沈められたという報告が届いた。


「ついに始まったか」

 俺の呟きを聞いたトウゴウが、厳しい顔になる。

「上様、海軍はまだ戦の準備ができていません。どうなさるのですか?」


「仕方あるまい。今の戦力で戦うのだ」

「ですが、厳しい戦いになるのでは?」

「そうだろうな。それに簡単に決着するような戦いにはならぬだろう」


「戦が長引くと?」

「アマト国もユナーツも、決め手に欠けている」

「どういう事でしょう?」

「本気で相手の国を打ち負かそうと考えれば、多数の兵を船で敵国まで運んで、その領土を占領しなければならない。我が国もユナーツも、それができるとは思えない」


 ユナーツは遠すぎるのだ。さて、問題はオーストラリアのユナーツ艦隊である。南洋支援艦隊だけで勝てるだろうか?


「トウゴウ、南洋支援艦隊は勝てると思うか?」

「ソウリンの艦隊でしたな。駆逐艦の魚雷で、戦艦や巡洋艦が沈められるかですな」


「今から戦艦と巡洋艦を送っても、手遅れか。今は祈る事しかできん。それよりオーストラリアの戦が、どう広がるかが問題だ」


「上様は、戦が広がると考えておられるのですな?」

「ユナーツの建艦計画が頓挫したせいで、戦力が優勢な今、戦うべきだと考えるユナーツ人が増えているようだ」


「戦を広げて、アマト国を完全に叩きたいのでしょう」

「それを阻止するために、いろいろな種を育てていたのだが、予想以上に早く戦が始まってしまった」


「どういたしますか?」

「今までと同じだ。戦をしながら発展する」

「ですが、今までは敵の領土を手に入れて発展しました。ユナーツから領土を奪うのは無理でございます」


「ならば、すでに手にしている領土を使って発展させればいい。南洋の島々やウォルター諸島、ニューカレドニア、ニュージーランドなどを開発して人が住める土地にすれば、海洋帝国と言えるほどの領土を持つ国となる」


「海洋帝国でございますか。大陸には手を出さないのですな?」

「大陸は極東同盟を中心に発展させる。当分の間、桾国は放置だ」

「分かりました。まずは南洋支援艦隊とユナーツ艦隊の海戦がどうなるかですな」


 俺は笑みを浮かべた。

「ソウリンとドウセツが組んでおるのだ。何とかしてくれるのではないかと期待している」


 オーストラリアに配属されたユナーツの艦隊は、南太平洋艦隊と呼ばれているらしい。その南太平洋艦隊がグアム島を目指して進み、ニューカレドニアへ向かおうとしていた南洋支援艦隊とソロモン諸島の近くで遭遇した。


 それは偶然だったのだが、南太平洋艦隊が砲撃を開始した事で本格的な海戦へと発展する。


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