第386話 南太平洋の海賊

 ユナーツとアマト国で戦の準備が進められている頃、オーストラリアに一隻の船が到着した。ユナーツ人の船長が指揮する海賊船のピオリア号である。


 ピオリア号の船長は、ホルバインという海のならず者だった。ユナーツの海軍に所属していたのだが、軍規を犯して追放された男である。


 そのオーストラリアの近くにあるニューカレドニア島には、アマト国から開発団が送り込まれていた。小さな開拓村が多数作られ、開拓民が森を切り開き開墾して田畑へ変えた。


 アマト国はその開拓村のために多くの物資を輸送して援助していた。その情報がねじ曲がってオーストラリアに広がった。


 ニューカレドニア島で金鉱山が発見されて、金塊を得た開拓民が贅沢な暮らしをしているというものだ。金鉱山など発見されていないし、開拓民が贅沢な暮らしをしているというのも間違いだった。


 その噂を耳にしたホルバインは、開拓村を襲って金塊を奪おうと考える。そして、噂だけを頼りに贅沢をしてるという開拓村を探し出した。


 ピオリア号の船長であるホルバインは、配下のスカリー副船長に確認した。

「スカリー、その開拓村には、本当に金塊が有るんだな?」

「間違いねえです。村の奥にある倉に金塊が仕舞われているそうですぜ」


 ピオリア号には四十人ほどの船乗りが乗っているが、そのほとんどは陸で問題を起こした犯罪者だった。そういう者がユナーツの近くでは暮らせなくなって、オーストラリア近辺まで流れ着いたらしい。


 ホルバインはピオリア号を開拓村の近くにある浜辺近くに停泊させると、小舟に部下を乗せて上陸させ開拓村を襲わせた。


 ホルバインたちは、以前にユナーツの船舶も襲って海賊行為をしていた。その中には軍の輸送船もあり、ユナーツで作られた最新の武器も手に入れた。


 ユナーツの最新銃は、『マクブライド銃』と呼ばれている。このマクブライド銃はアメリカが最初に開発したスペンサー銃に酷似していた。


 マクブライド銃の弾倉は管状弾倉と呼ばれており、銃床の内部にあるパイプ状の弾倉に七発の銃弾を込められるものだ。


 一方、アマト国の最新銃は九発の銃弾が装填できる箱型弾倉を持つボルトアクションライフルだった。一般的には『ヒメミヤ銃』と呼ばれている。


 マクブライド銃を持ったホルバインたちは、開拓村の住民を撃ち殺し奥にある倉を探した。だが、その倉にあったのは穀物の種籾だった。


「クソッ、金塊なんぞねえじゃねえか!」

 ホルバインが怒鳴り声を上げる。結局、金塊を探し出せなかったホルバインたちは、村の食料や少しの貨幣を奪って引き上げた。


 殺された開拓村の住民は、何で貧しい村を海賊が襲ったのか分からなかっただろう。南方調査部隊の指揮官であるロクゴウが、開拓村の惨劇を知ったのは襲撃の三日後だった。


「海賊は何者なんだ?」

 ロクゴウ少将は、無駄だと分かっていながらヒキタ大尉に尋ねた。

「私には分かりません。ですが、村で薬莢を拾いました。あれはユナーツ製の薬莢です」


 ロクゴウ少将が苦虫を噛み潰したような顔になる。

「ユナーツの連中が、開拓村を襲って村人を皆殺しにしたのか? 何の意味がある?」

「私にも分かりません。戦争を始めたいのでしょうか?」


「いや、時期が早すぎる。ユナーツでは五年計画を立てて、戦艦や巡洋艦の建造を始めている。その完成を待たずに戦争を始めるとは思えない」


 海賊はユナーツの武器を使っただけで、ユナーツ人ではない可能性もある。そこで海賊を探し、手掛かりを掴んだ。オーストラリアに建設されたユナーツの町に海賊たちが居るという情報だ。


 ロクゴウ少将はユナーツに海賊の引き渡しを迫った。だが、ユナーツのオーストラリア総督府は、引き渡しを拒否する。


 その理由はユナーツ人に、そんな非道な真似をする者は居ない。だから、間違いだというのだ。それでロクゴウ少将が納得する訳はなかった。


 少将はピオリア号を監視するように命じた。ピオリア号を尾行した小型調査船は、ホルバインたちがオーストラリアの原住民を襲い奴隷狩りをしているのに気付いた。


 その奴隷はイングド国やフラニス国の奴隷商人が買い取って、奴隷市場に流すようだ。

「ユナーツ人は非道な真似をしないだと、奴隷狩りが非道な行為じゃないというのか。これだからユナーツ人は信用できないんだ」


 ロクゴウ少将はユナーツ人に対する怒りを吐き出した。それを見ていたヒキタ大尉は、少将をなだめどうするか質問する。


「あいつらを放置する事はできん。もう一度オーストラリア総督府に交渉する。それでもダメなら、考えがある」


 ロクゴウ少将は、オーストラリアのリズモアへ向かった。総督府があるリズモアは、ユナーツ人が二万人ほど住む町に発展していた。


 その総督府へ行きボウマン総督に、面会を求めた。二時間ほど待たされて、ようやく会えたボウマン総督は、また来たのかという顔をしている。


「ロクゴウ少将でしたな。今度は何でしょう?」

「ピオリア号を調べさせました。ユナーツ人に非道な真似をする者は居ない、と総督は言われましたが、あの者たちはオーストラリアの原住民を狩って、奴隷として売っているようです。それでも非道な真似をしている者は居ないと言うのですか?」


 ユナーツの法では奴隷を禁止している。但し、ユナーツ人の全てが守っている訳ではないようだ。


 ボウマン総督が顔を歪め、ロクゴウ少将を睨む。

「その船の連中が、奴隷狩りをしているという証拠は?」

「部下が目撃したのです」

 総督が薄笑いを浮かべる。

「信用できんな。もっと確実な証拠を出して欲しいものだ」


 ロクゴウ少将は、この総督がアマト国を敵だと考えていると感じた。どんな証拠を持ってきても、ピオリア号の連中を引き渡す気がないのだ。


「よく分かりました」

 ロクゴウ少将は、ボウマン総督を睨んでから総督府を去った。


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