第362話 同盟諸国の発展とギルマン王国の商人
アマト国は極東同盟の造船技術を底上げするために、一本マストのスループ船やカッター船、二本マストのブリッグ、スクーナーなどの建造技術を同盟国に技術供与した。
その影響で同盟各国は湊に造船所を建設するところが多くなった。各国の船舶が増えれば、極東の海運が活発になり、経済も伸びるだろう。
ただ船が増えただけではダメである。その船を操る船乗りも必要なのだ。そこでブルム島の湊町ザルドに船員養成学校を作り、船乗りを増やす事業を始めた。同盟国の者なら、入学できる学校である。
その他にも鉄道を海外にも広めようという事業が始まった。最初の事業は、バラペ王国のヤナックと経済特別区のベクを鉄道で繋ごうというものだ。
その間の距離は四百キロほどで、歩けば半月ほど掛かる。建設費はアマト国が全額出し、完成後の二十年間の経営をアマト国に任せるという条件になった。
本来ならば、自国が資金を出して始めるべき事業なのだが、バラペ王国は鉄道事業の重要性をまだ分かっていなかった。
それにアマト国に対して絶大な信用があったというのも、資金をアマト国に頼った原因だろう。アマト国としては首都であるヤナックと経済特別区のベクを鉄道で繋ぐ事で、さらなるベクの発展を目指した。
鉄道工事が始まると、バラペ王国中から人が集まってきた。出稼ぎと言われるものである。アマト国はバラペ王国の平均賃金より少し高い賃金で雇ったので、金を稼ぎたい人々が集まってきたのだ。
バラペ王国のルミポン国王と長老の一人であるホミンスが王宮で話をしていた。
「陛下、アマト国に頼っているばかりでは、将来属国になってしまいますぞ」
ルミポン国王は『分かっている』というように頷いた。
「分かってはいるが、我が国には国土を大規模開発するほどの資金がない」
「ならば、まず特産品を開発し諸外国へ輸出できるようにするべきです」
「その事はアマト国からも言われた。だが、どうすれば特産品が開発できるのか、分からぬ」
ホミンスが溜息を漏らした。
「我が国は、香辛料が豊富だとアマト人から言われた事があります。香辛料の栽培に力を入れてはどうでしょう?」
「なるほど、香辛料か。だが、香辛料だけでは、心許ない」
「でしたら、アマト国の縫製工場を誘致して、工場で多くの若者を働かせるというのはどうでしょう?」
「それが特産品に関係するのかね?」
「若者たちに縫製の技術を習得させ、我が国独自の服を作る工場を建設するのです」
「なるほど、我が国独自の服が特産品という事か。そうなると、縫製技術が優れていないとダメだな」
「それに、どのような服を作るかも重要です。アマト国や列強諸国、ユナーツに才能のある若者を派遣して、どのような服が流行っているのか学ばせる必要があります」
「ホミンス長老、そなたは中々の知恵者だな。これからも相談に乗って欲しい」
「もちろんでございます」
バラペ王国がアマト国の技術を取り入れながら発展しようとしているように、他の同盟国も知恵を絞って発展しようとしていた。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
ギルマン王国から来たフリッツ・クルーグハルトは、ホクトの商店街で売られている商品の多さに戸惑っていた。
「極東の地に、これほど豊かな街があるとは思わなかった」
それを聞いた仲間の商人であるトーマス・リンデマンが、苦笑いする。
「クルーグハルトさん、このホクトこそ世界で一番商品が多い場所ですぞ」
「イングド国の首都アドラムよりもですか?」
「アドラムよりもです。アマト国は列強諸国やユナーツとも交易をしておりますし、タビール湖の周囲にある工業地帯では、様々な製品が作られています」
二人は商店街の見物から戻り、ホテルの部屋で話し合った。
「海軍から、丈夫な布を手に入れるように命じられた。この街に有るだろうか?」
ギルマン王国では飛行船の開発を行っている。だが、飛行船のガス
「探せば、見付かるのではないか。但し、何に使うかは秘密だ」
「分かっている」
二人はホクトの商店街や湊などでガス嚢に使える布を探した。すると、帆船の帆を扱っている店で、目的の布を探し当てた。
軽く丈夫で、緻密に織られている布である。細い綿糸が使われており高級品だった。この布にワニスのような液体を塗って気密性の高い布にするらしい。
この布は複葉機にも使われており、増産している最中だったのでギルマン王国の商人も見付ける事ができたのだ。
必要量を注文したギルマン王国の商人は、二ヶ月ほど待つ事になった。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
「ドウセツ、商人から聞いたのだが、我々が複葉機に使っている布が大量に売れたらしい。しかも、それを注文したのがギルマン王国の商人らしいのだ。どう思う?」
同僚のフルハシから尋ねられた。
「あの布なら、飛行船にも使えるのではないでしょうか?」
「やはり、そうか。商人に注文を断るように指示しよう」
ドウセツが首を振った。
「いえ、売りましょう。どうせユナーツには同じような布が有るのです。ここで買うのなら情報が取れますが、ユナーツに行かれると情報も取れなくなります」
ユナーツは飛行船を実際に使っているので、飛行船用として使える布があるのは確実なのだ。上様に報告して、忍びに調べさせようと、ドウセツは考えた。
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