第333話 魚雷と魚雷艇

 ユナーツが魚雷の存在に気付いた切っ掛けは、アマト国海軍とイングド国海軍との海戦で生き残ったイングド国軍人から手に入れた情報だった。その軍人はアマト国海軍が奇妙な兵器を使ったと言った。


 それを詳しく調べたユナーツは、アマト国海軍が使った魚雷の残骸を手に入れ、魚雷という存在を突き止めた。そして、それが恐るべき兵器だと結論したのである。


 ユナーツの国防長官であるジェイソン・ドノヴァンは、海軍のハリントン提督を呼び出し報告を聞いた。


「前回報告のあったアマト国の魚雷について、報告してくれ」

「分かりました。海軍工廠で研究した結果、圧縮空気かモーターを推進力としているのではないか、と推論しています」

「それで射程は、どれほどなのだね?」


「射程は一キロほど、速度は時速十二キロほどではないか、との結論になりました」

「その兵器は、どれほど危険なのだ?」

「小型艇に装備して接近し、魚雷を発射して命中させるという使い方をするのですが、戦列艦を沈めるほどの威力が有るそうです」


 ドノヴァン国防長官が溜息を漏らす。

「極東の新興国が、そのような新発明をする。由々しき事態だ。対処は考えているのだろうね?」


「射程が短いので、近付いてくる小型艇を破壊する艦艇を、主力艦の周りに配置する必要があると考えております」


「魚雷を装備した小型艇を『魚雷艇』とすると、魚雷艇を駆逐する艦艇だから、魚雷艇駆逐艦か。すぐに建造を手配したまえ。ところで、イングド国とフラニス国は、魚雷艇の存在に気付いておるのか?」


「情報は持っているかもしれませんが、脅威だとは考えていないようです」

「なぜだ?」

「魚雷の命中率が低かったからでしょう。さらに、より以上に脅威と思われるサナダ型戦艦が現れたからだと思われます」


「命中率が低いのか。ならば、魚雷艇駆逐艦は必要ないのか?」

「いえ、命中率の改良は可能です。軽く考えない方が良いでしょう」


「分かった。ならば、改良した魚雷を開発し、我々も使えるように訓練せよ」

「承知いたしました」

 ユナーツは魚雷の開発を始めた。そして、モーター駆動の単射程魚雷を開発し、それを発射する魚雷艇の建造も始める。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


「上様、ユナーツから報告が届きました」

 ホシカゲの顔が険しいものになっている。

「ほう、その顔からすると、まずい報告らしいな」


「ユナーツで、魚雷が開発されたようです」

「それは本当か?」

「海軍工廠の技術者が実験している現場を、目撃いたしました」


 一緒に報告を聞いたソウマ提督が、

「上様、如何いたしますか?」

「敵も開発するのなら、それ以上のものを開発するしかない。ちょうど魚雷に使う小型内燃機関が開発されたところだ。その性能は素晴らしいぞ」


「分かりました。敵の魚雷に対する対策ですが、ご意見が有りますか?」

「有るが、今は言わないでおこう。対策はそなたたちで検討して、答えを出せ」

 俺に頼りすぎるところが有るので、ソウマたちに考えさせる事にした。


「殺伐とした話は、ここまでにして。久しぶりにミカグラ郡の工業地帯を視察に行きたいのだが、どう思う?」

 ミカグラ郡はホクトの南東にある工業地帯である。そこの工業地帯には、アマト国最大の石油精製工場があり輸出の柱となっている灯油や軽油を生産している。


 これから石油精製工場を増やそうと考えているのだが、ミカグラ郡の工場を拡張するのか、それとも別の場所に新しい工業地帯を造るのかを検討したかったのだ。


「警備を完全なものにするために、時間を頂きとうございます」

 トウゴウが言った。俺は溜息を吐いた。

「全く不自由な身分になったものだ。昔なら少人数で出掛けられたのだがな」


 それを聞いたトウゴウが笑う。

「それは上様が、カイドウ家の当主になられたばかりの頃でございます。遠い昔の事です」


 ホクトでは視察の準備が行われ、一ヶ月後にホクト城を出てミカグラ郡へ向かった。ホクトを出た俺たちは、五千の兵に守られて東に向かう。


 五千は多すぎると文句を言ったのだが、万全を期すためには必要だと説得された。

「この辺りも随分と変わったな」

 広大な平野があるエサシ郡まで来た俺たちは、延々と続く水田を見ながら進んだ。昔は用水路が発達していなかったので、水田が少なかったのだが、俺が命じて用水路を張り巡らせたのだ。


 水源はクナノ河である。まず貯水池を造り、その貯水池にクナノ河から用水路を引く。雨の多い時期にクナノ河の水を貯水池に溜め込んで、渇水時に使うという方法を取っている。


 その貯水池ではヤマメやイワナが飼われており、農民たちの食料になっている。この辺りでは養蜂も盛んであり、全国に蜂蜜を出荷しているらしい。


「隠居した後は、こういうところで暮らしたいものだな」

 それを聞いたトウゴウが、首を捻った。

「そんな日が来るのでしょうか?」

 トウゴウは俺が隠居するような事はあり得ない、と思っているようだ。だが、俺だって人間なので、年を取れば隠居する日が来るだろう。


 その時のために準備をしておく必要が有る。

「トウゴウも、後継者を育てねばならんのだぞ」

 それを聞いてトウゴウが渋い顔をする。

「なぜ、そんな顔をする。息子のマサシゲは、よく働いておるぞ」


「恥ずかしながら、マサシゲはまだまだでございます。使いものになるには、後十年の修業が必要でしょう」

「厳しいな。マサシゲはそろそろ小姓から外して、陸軍にでも入れようかと考えていたのだが」


「ならば、一度ユナーツへ行かせてはどうでしょう」

「大きな世界を見せたいという事か。良いだろう。ホシカゲに手配させよう。その前にユナーツ語を覚えねばならんな」


 ユナーツ語はドウセツが喋れるので、ドウセツから学ばせるとしよう。


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