第316話 同盟国と漁業

 俺はグライダーを製作する場所を、オキタ家の領地であるホタカ郡にした。ここは内陸であり、海外諸国の目が届き難いと判断したのだ。


 それにホタカ郡には広大な斜面を持つチモシー草原がある。ここの草原には、なだらかな斜面がありグライダーを飛ばすには適している。


 俺は職人たちに揚力の基礎とグライダーについて説明した。職人頭であるシンザエモンが、首を傾げる。

「上様、その揚力というのは、どれほどの力が有るものなのでございますか?」


「あまり強いとは言えぬ。なので、機体は軽く作らねばならん」

 俺は木造のグライダーを作ろうと考えていた。まだアルミの生産が確立していなかったのである。ボーキサイトは手に入れたのだが、必要な大電力をどうやって確保するかで悩んでいた。


「翼の大きさは、どれほどにしたら、よろしいのでございますか?」


 揚力は空気密度と翼面積、飛行速度、揚力係数などを使った式で表される。その計算式を職人たちに理解させるのは、難しそうだったので、計算に強いフカミ・タイゼンという男を連れて来た。

 開発を始めたが、これは時間が掛かりそうだと感じ始める。


 アルミを製造するためには電力が必要で、発電用のダムを建設する事に決める。この計画も時間が掛かるだろう。だが、このような計画を一つずつ進めていく事で、アマト国は文明国となる。


 俺がダムを造る場所を選定していると、勘定奉行のフナバシが俺の部屋に来て報告を始めた。

「交易で膨大な利益が出ています。その一方、農業が不作であった事から、食糧が値上がりしております」


「そのために造った肥料工場はどうなった?」

「軌道に乗り、生産が増えております。この調子であれば、アマト国に関してだけなら、収穫量は回復するでしょう。ですが、まだ諸外国へ売るだけの量を生産できないようなので、極東地域の天候が回復しなければ、今年以上の食糧不足となるかもしれません」


 これには溜息を吐くしかなかった。

「我が国でも救荒食物として、蕎麦・ジャガイモ・ライ麦を栽培させるか?」

「小麦に適していない畑でも、小麦を栽培している事があります。そういう畑は、蕎麦・ジャガイモ・ライ麦に切り替える、というのではどうでしょう?」


「それでいいだろう。各地に通達を出してくれ。それと同盟国はどうなる?」

「今年も不作となれば、来年は酷い食糧不足になるでしょう」

 俺は顔をしかめた。

「まずいな、極東同盟が揺らぐ。海産物の漁獲量を増やすか?」

「できるのでございますか?」


「できる。現状は水産資源の枯渇を警戒して、漁獲量を制限している。その制限を一時的に外して、漁獲量を増やせばいい」


 フナバシの顔が厳しいままだった。

「ですが、魚は保存が難しいのでは?」

「大量に獲れる鰯や鰊などを干して、極東地域で安く売り出そう」


 フナバシが頷いた。だが、完全に納得した訳ではないらしい。

「人手が足りるか心配です」

 アマト国は凄い勢いで発展している。基本的に人手不足なのだ。


「魚を獲るところまでは、我が国の漁師がやって、魚の加工は同盟国の人々にやらせよう」

「どういう事でございます?」

「同盟国の沿岸で、我が国の漁船が漁をするという事だ」


「それは問題になりそうな気がします」

「だが、沿岸に魚が居ても、それを漁獲する手段を持っていない国がほとんどなのだぞ」


「同盟国に漁船と漁具を貸すというのは、ダメなのですか?」

「扱える者が居ない。何年か訓練しなければ無理だ」


「申し訳ございません。思慮が足らなかったようでございます」

「いいのだ。将来的には、そうする事が必要かもしれん」

「ですが、それだと我々の技術を同盟国に渡す事になります」


「少しくらいなら良いのだ。同盟国の国情が揺らげば、極東同盟も揺らぐ。ユナーツ軍が牙を研いでいる今は、安定していて欲しい」


「その計画を早める事はできませんか?」

 フナバシがそう進言した。

「まだ今年が不作になると決まった訳ではないのだぞ」


 フナバシは外交奉行のコニシから、同盟国の食糧について相談されたらしい。外交方が同盟国に派遣している者たちが、月に一度の割合で報告書を送ってくる。


 その報告書には七割以上の確率で不作になりそうだと書かれていたそうだ。

「コニシからの報告はなかったぞ」

「まだ収穫の時期には間がありますから、報告する時期を待っているのでしょう。上様が忙しくしておられたので、不確かな情報で時間を取りたくなかったのです」


「そのような遠慮は無用だ」

 俺はコニシを呼んで、同盟国の食糧問題を話し合った。そこでアマト国の漁船を同盟国に派遣して、魚を獲らせて加工する件を、同盟国と交渉しようと決まる。


 外交方の外交官たちが、同盟国の首脳と話し合いを始めた。最初は渋っていた首脳たちも、今年も不作となるかもしれないと聞くと考えを変えた。


 アマト国の漁師が同盟国沿岸の魚を獲り、同盟国に安く売るという取り決めが結ばれた。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 バラペ王国の南西にあるアラバル国に、ジャネイという十五歳の少年が居た。この少年の家は小さな農家だった。しかし、その年は雨がほとんど降らず、作物が枯れて途方に暮れていた。


 父親が出稼ぎに出て金を送ってくれたので、母親と三人兄弟はなんとか生きてきたが、毎日が空腹だった。父親が送ってくる金では、生きるだけで精一杯だったのだ。


 そこでジャネイは仕事を探して、海岸にある町まで来た。ホレイスという町は、交易で栄えている町なので、仕事があるかもと考えたのである。


 ホレイスの町で大勢の労働者を募集していたので、ジャネイも応募した。

「雇ってください。何でもします」

 そう言ったジャネイを見て、国の役人だという男は頷いた。

「いいだろう。真面目に働けよ」


 役人は同僚に愚痴った。

「何で、田舎から来た小僧や娘が多いんだ?」

「地方の不作が酷いからだよ。川などがなくて、雨水だけに頼って畑を耕している者たちなんだ」


 外交方やフナバシが早めた計画により、同盟国の大勢の人々が飢えから救われる事になりそうだった。


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