第287話 ルブア島の開発

 中東地域にあるルブア島では、大規模な開発が始まっていた。湊と倉庫が完成し、湊から内陸への道路を造る工事が進められている。


 この道路は油田のある方へ伸びており、石油の採掘も始まっている。と言っても試掘という段階で、少量の石油を採掘していた。但し、少量とは言え細いパイプの中を噴き上がる石油が、一日分も貯まるとかなりの量になる。


 それを砂漠を渡って運ぶのは困難だった。だからこそ、道路の建設が急速に進められているのだ。この道路建設には、中東の人々を使わなかった。


 油田の場所が極秘となっているからだ。評議衆の一人であり、ルブア島の開発責任者であるナイトウは、何度もルブア島とホクトの間を往復している。


 今回はパイプラインを建設する必要があるかどうかを見極めるために来ていた。試掘井戸から石油が噴き上がっている様子を見たナイトウは、採掘技師のコノエダに尋ねる。


「石油の噴き出す勢いはどうだ?」

「試掘してから一ヵ月経ちますが、一向に衰えません。膨大な石油が埋蔵されているものと思われます」


 ナイトウは腕を組んで考えた。

「他の試掘井戸はどうだ?」

「同じでございます。必ずパイプラインが必要になるでしょう」

「分かった。パイプラインを建設しよう」


 ナイトウはパイプラインが必要だと判断したのだ。だが、その言葉を聞いたコノエダの顔が不安そうに歪む。

「そんな顔をして、どうした?」

「パイプラインに掛かる費用を考えますと、怖くなるのでございます」


 ナイトウが笑う。

「心配するな。最後に決定を下したのは、私だ。責任は私が負う」

「ナイトウ様、アマト国にとって、石油はどれほど重要なのでございますか?」

「アマト国が、この先百年の繁栄を手に入れるには、石油と石炭が必要なのだ」


「百年後は、どうなるのでしょう?」

「そんな先は、上様とて分からぬだろう。今生きている我々が全て死に絶えた後になるのだからな」


 そう言ったナイトウは、本当に上様も分からないのだろうかと疑問が浮かんだ。もしかしたら、百年先も見通しておられるのではないか?


 ポンポン自動車で湊に戻ったナイトウは、湊に見慣れない船が停泊しているのに気付いた。湊を管理している役人に確かめると、

「あれはユナーツの船でございます。水を分けてくれと言って、湊に入ってきたのです」

 そう言わて不思議に思う。


 そして、こんなところにまでユナーツ人は来ているのかと、ナイトウは驚いた。

「しかし、水が不足していると思われているルブア島に、水が欲しいと言って来るとは、少しおかしいな」


 ルブア島でアマト人が何をしているのか、ユナーツ人が探っているのではないかとナイトウは疑った。


 その日、湊の食堂で昼飯を食べていたナイトウに、ユナーツ人が話し掛けた。

「御武家様、カイドウ家の方でございますか?」

 流暢なミケニ語で話し掛けられたナイトウは、ユナーツ人に視線を向ける。


「そうだが、何かな?」

「アマト国は、この島を大規模に開発しているようですが、なぜでしょう?」

 砂漠しかない島を開発するのはおかしいと考えているようだ。


「この島は、中東地域、桾国方面、南の島々へ向かう中継地になる。整備すれば、栄えるだろうと判断したのだ」

「しかし、水が不足するのはないですか?」


「近くの島や大陸から水を運んで来ているので心配ない。それにいざとなれば、海水がある」

「海水と言われましても、あれは飲めません」

「蒸気にしてから、また水に戻せば飲める。それは知っているだろう」


 ユナーツ人も蒸留水が飲める事は知っていた。だが、膨大なエネルギーが必要なので、採算が合わないと考えているのだ。


 ルブア島では、有り余る原油を燃やして水を作っている。油田が有るから可能な事で有るが、このままでは費用が掛かり過ぎる事は、アマト国でも理解していた。


 そこで、アマト国では淡水化技術の研究を始めていた。この世界は水不足に悩む国が多く、解決できれば商売になると考えたのだ。


 ちなみに、海水の淡水化の副産物として塩やニガリが生産されるが、これは安い価格で世界各国に売る事になっている。


 そして、生産された石油は、アマト国の石油精製工場に運ばれ灯油や軽油などが作られる。それらの製品は、国内でも使われるが、諸外国に売られ膨大な利益を上げる事になる。


 ナイトウは石油産業から得られる利益の予想額を知って、他国には絶対に漏らせないと思った。アマト国が発展するためには、石油産業が必要なのだ。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 ホクトに戻ったナイトウから、報告を聞いた。

「ユナーツ人が、ルブア島に目を付けたのか。警戒せねばならんな」


「目を付けたというのは大袈裟でございます。ユナーツ人はアマト国が関連する全てを調べようとしているのだと思われます」


 俺は顔をしかめる。

尚更なおさら、悪いような気がする。ルブア島に海軍の船を送るべきだろうか?」

「それではルブア島に何かあると、ユナーツ人に教えるようなものです」

「それもそうだな。だが、放置するのも危険な気がする」


 俺はナイトウと話し合い、漁船に偽装した武装船をルブア島に送る事にした。

「漁船に偽装するとなると、武装は如何いたしますか?」

「小型魚雷二本と手回し式多砲身機関砲でいいだろう」


 俺はルブア島の防衛に力を入れる事にした。


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