第271話 ルブア島の石油

 イングド国大使のハドックと話を交わした三日後、ルブア島のヤスマサが油田を発見したという報告が入った。

「本当に油田を発見したのか?」

 俺が確かめると、その情報を知らせてくれたトウゴウが頷いた。


「先ほど電信室に入った情報でございます」

 俺は顔がニヤけるのを抑えられなかった。埋蔵量にもよるのだが、この油田の発見はアマト国にとって最重要な発見になるかもしれなかったからだ。


 埋蔵量が多いなら、石油精製工場を新たに建造しなければならない。その場所として元カムロカ州のタカハマ湾が良いだろう。ミケニ島の西端に位置するタカハマ湾ならば、西の中東にあるルブア島から原油を運んできた船が最も早くミケニ島に到着できる場所だと考えたのだ。


 ここに貯蔵タンクと石油精製工場を建設し、灯油や軽油、ガソリンなどを生産して諸外国に輸出する。かなりの利益になるだろう。


 その利益で内燃機関の開発をするつもりでいる。俺は勘定奉行のフナバシと船奉行のツツイ、土木や城造りに詳しいナイトウを呼んだ。


「上様、御用は何でございましょうか?」

 俺はルブア島で油田が発見された事を知らせた。

「おめでとうございます。やはり神の叡智とは凄いものなのでございますな」

 フナバシが感心したように言う。


「そこで、石油産業を発展させようと思うのだが、その計画を立て必要な資金を算出して欲しいのだ」

「なるほど」

 ナイトウたちは俺に質問して、必要な施設や運搬用の船、道路整備と港湾整備、それに石油採掘施設などの情報を入手しようと思ったようだ。


 俺は知っているかぎりの情報を伝えた。アマト国ではすでに石油採掘施設や貯蔵タンク、石油精製工場が存在するので、それらを調べて建設費などを算出する事になった。


 ナイトウは、ルブア島へ行って港湾などの施設を造るのに、どれほどの工事が必要か調査する事にしたようだ。


 それぞれが調査を始め、二ヶ月後に計画が纏まった。

「上様、石油産業の発展計画が纏まりました」

「そうか、説明してくれ」


「まず、ルブア島の港湾施設でございますが、同時に五隻の石油輸送船が停泊できるだけの施設にしようと考えております」


 ルブア島を視察したナイトウが計画を説明した。

「港湾施設から、油田までの距離はどれほどなのだ?」

「百二十キロほどでしょうか。計画では舗装道路を建設する予定になっております」

「ポンポン自動車で運ぼうというのか?」


「そうでございます。一日の採掘量が確定しておりませんので、まずは輸送車で運ぼうと考えているのです」


 採掘量か、それが一番の問題だな。ゲイホク郡の油田と比べるとどうなのだろう。俺はそれを確かめる。

「ゲイホク郡に比べれば、比較にならないほど多いと思われます」


 確定はしていないが、ある程度有望だと判明しているようだ。石油が採掘されそうな場所が広範囲に広がっており、少なくともゲイホク郡の二十倍は採取できると言う。

「それほどの採掘量が見込めるのなら、パイプラインを考えた方が良いか」


 パイプラインと聞いて、三人は首を傾げた。俺が説明すると納得したが、フナバシが渋い顔をする。

「上様、そのパイプラインの建設には巨額の費用が掛かるのではありませんか?」


 確かに巨額の費用が掛かるだろう。だが、本当に有望な油田なら、輸送車くらいでは運びきれないほどの原油が産出するはずなのだ。


「上様、まずは舗装道路を建設し、輸送車で運ぶ事から始めましょう。何事も一気に進めるのは危険でございます」


 フナバシの言う事は正論だが、俺の勘はここは一気に拡大する好機だと言っている。ユナーツが焼玉エンジン車を取り入れれば、一億人の人々が軽油などを欲しがるようになると予想できる。


 ガソリンエンジンが完成すればガソリンも売れるようになるだろう。そして、各国は自分たちでガソリンや軽油を作れないものかと研究を始めるはずだ。


 アマト国がどんなに秘密にしても、他の国も石油精製方法を発見すると思われる。その原理がそれほど難しいものではないからだ。


 そうなると、それまでにどれほどの利益を得られるかが重要になる。その利益でルブア島の防衛力を強化する事になるだろう。


 石油が金になると知った列強国人たちは、中東の土地で石油を探し始めるだろうからだ。もしかすると、油田が存在するルブア島を奪いたいと考える国が出て来るかもしれない。


 俺がそういう未来を語ると、フナバシたちは驚いていた。

「上様は、そんな先の事まで考えておられるのでございますか」

「本当にそうなるかは分からん。だが、俺としては一気に儲けたいと思っている」


 船奉行のツツイが考え込んだ。

「そのような先を考えておられるのでしたら、大型の石油輸送船が必要になりますな」

「そうだな。小型輸送船で運ぶのは効率が悪い」


 そんな事を話した数日後、ユナーツの船がアマト国を来訪した。外交方の役人が、交易区へ行くように説得して、その船は交易区の湊に停泊する。


 その船のオーナーは、ハンフリー・ボーナムという人物で、ユナーツの大商人だという。


 俺は来訪した目的が知りたかったので、外交方に目的を聞き出すように命じた。その結果、蒸気機関の秘密を探りに来た事が分かった。


 焼玉エンジンや電信機の秘密ではなく、蒸気機関の秘密というところにユナーツの状況が想像できる。ユナーツは石炭が豊富なのだ。


 その石炭を使った蒸気機関が一番欲しい秘密であり、二番目が焼玉エンジンなのだろう。効率的に物を運ぶには、蒸気機関を使った鉄道が一番だと気付くのは時間の問題だ。


 俺はちょっと困った顔になった。蒸気機関の原理は学校でも教えており、すぐにユナーツの者が見付け出すと思ったからだ。


「ユナーツが蒸気機関を中心とする社会を目指し始めると、軽油やガソリンが売れなくなる」


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