第262話 特殊作戦部隊

「フラニス国は、捕らえた族長たちをどうするのでしょう?」

 ソウリンが俺に尋ねた。族長たちがどうなったか考えると、心が重くなる。

「中東のベツラ王国をフラニス国が制圧した後、国王を捕らえて無理やり植民地になる事を同意する書類に署名させた、と聞いている。コンベル国の族長たちにも同じ事をするだろう」


 ソウリンが顔をしかめる。

「族長たちが心配です」

「そうだな。チュリ国のオサを総攻撃する前に、族長たちの奪還を行うべきだろう」


「フラニス国も予想して、警備に十分な人員を配置していると思いますが、奪還できるでしょうか?」

「こういう場合を想定して、厳しい訓練を課した精鋭部隊を派遣する。彼らなら成功させるだろう」


 俺は特殊作戦部隊をチュリ国のオサに向かわせる事にした。

「上様、オサのフラニス国海軍は、どういたしますか?」


「潰す。我が国の同盟国に手を出したら、相応のむくいを受けると世界に知らせる」

 その言葉には強い意志が込められていた。それがソウリンにも伝わり、顔を青褪めさせる。


「列強国に対して、厳しい報いを与えた場合、列強国が同盟を組んで攻めてくる事はないのでしょうか?」

 そう言われた俺は、正直あるかしれないと思った。


「そういう事もあるかもしれない。だがな、殴り返される事を心配して、こちらが手を出さなければ、向こうは殴っても殴り返せないのだと思ってしまう。それは危険だ」


 話し合えば分かり合える事も有るだろうが、話し合いで全てが解決できる世界ではないのだ。そこを攻め取れば、利益が手に入るという理由だけで他国を攻撃するような時代なのである。


 将来的には、西の列強諸国と東の極東同盟が同等な立場で交渉できる世界にしようと考えている。そのためには、国力を上げて列強諸国が二、三ヶ国連合して攻めて来ても追い返せる国にしたい。


 俺とソウリンが話し合っていると、海軍のソウマが来て話に加わった。

「先日の海戦で、魚雷艇が活躍しました。その情報は列強国に報告され、対抗策を講じられるのではないかと思っているのですが、如何に思われますか?」


「魚雷艇が活躍したのは、二度目だ。当然、対抗策を考えるだろう。方策は二つ、同じような魚雷艇を造って対抗する。また魚雷艇を攻撃する船を造るかだな」


 ソウマがゆっくりと頷いて同意した。

「魚雷を真似する事ができるでしょうか?」

「今回の海戦では、夕方だった事もあり魚雷を見た者は少ないだろう。だが、残骸、もしくは不発魚雷が敵に渡った恐れがある」


 魚雷は発展途上の兵器なので、不発だったという事は充分にあり得るのだ。

「ならば、我らの遠征艦隊が列強国に到着した時、魚雷艇が待ち構えている事もある、という事でございますな」


 それはどうだろう? 空気ボンベ一つ開発するのも時間が掛かるので、遠征艦隊の迎撃には間に合わないと思った。それをソウマに伝える。


「なるほど、今回の遠征艦隊は大丈夫という事でございますな。将来はどうなりましょう?」

「魚雷艇を駆逐する魚雷艇駆逐艦というものが必要になるだろう。海軍でも魚雷艇を攻撃するのに、どのような兵器を搭載した戦闘艦が必要か検討してくれ」


「承知いたしました」

「さて、特殊作戦部隊がコンベル国の族長たちを奪還に向かう。その援護も頼むぞ」

 ソウマが承知しましたと頭を下げる。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 アマト国の特殊作戦部隊は、チュリ国のオサから少し離れた海岸に上陸。部隊長であるミヤギ・カナミチは、人が居ない海岸線を見回してから三十人の部下たちに進むように命じる。


「隊長、オサまで発見されずに辿り着けるでしょうか?」

 部下の一人が声を上げた。

「ふん、辿り着けないようなら、そいつは特殊作戦部隊の一員ではない」


 各隊員はチュリ人に変装している。ある者は行商人、ある者は野菜売りの百姓に化けており完璧だった。やつれた表情と肩を落とし疲れ切ったという様子は、そのままチュリ人だ。


 少人数に分かれてオサに向かう。途中、何人かのチュリ人と行き交ったが、特殊作戦部隊の隊員に注目する者は居なかった。


 オサに入った後、特殊作戦部隊は寂れた教会に集まった。

「影舞からの情報で、族長たちは拘置所に囚われている」

「フラニス国の連中は、なぜ族長たちを殺さないのですか?」


 その質問を受けたミヤギがニヤリと笑った。

「上様が、族長を殺した場合、オサの町を焼き払うと通告したからだ」

 植民地の条約書へ署名するという件は、効力を失っていた。グルサへ逃げた族長たちの親族が、捕らえられた族長たちを廃し、新しい族長を立てると宣言したからだ。


 オサの拘置所には犯罪者など一人も居なかった。殺されるか放免されたからである。その代わりにコンベル国の元族長たちが、牢獄に入れられていた。


 夜になって教会から拘置所近くまで移動した特殊作戦部隊は、拘置所近くにある家の屋根に潜み合図を待った。


 闇の中にフクロウの鳴き声が響き渡り、黒装束の者たちが動き出した。六人の見張りを一瞬で殺し、見張りが持っていた鍵を使って中に入る。


 ミヤギは拘置所の奥へと進みながら、脇差を油断なく構えていた。そして、フラニー人の大柄な警備兵と遭遇し、脇差の刃で瞬時に首を薙ぎ払う。


 警備兵の後ろに回ったミヤギは、叫ぼうとする警備兵を口を塞ぐ。抵抗して藻掻いたが、流れ出る血が勢いを増すだけだった。ぐったりとなった警備兵から手を放し牢獄へと向かった。


 族長たちが囚われている牢獄の前にも見張り兵が居て、単発銃を持っていた。ミヤギは手裏剣を得意としている三名の隊員を選び、見張り兵三名を倒すように命じる。


 棒手裏剣を取り出した三名は、一瞬の動作で棒手裏剣を投擲した後、見張り兵に向かって駆け出す。見張り兵を瞬殺した特殊作戦部隊は、牢獄の鍵を開けて族長たちを救い出した。


 ほとんどの族長は怪我をしており歩けない。そこで隊員が背負ってオサを脱出する事になった。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 オサの総督府では、バルニエ提督が報告を受けていた。

「何だと、族長たちが消えたというのか?」

 ジョルジュ少佐が苦い顔で、

「見張り兵が殺されていました。アマト国には忍びと呼ばれる特殊な兵が居るそうです。その忍びではないかと思われます」


 特殊作戦部隊の隊員は、忍びではない。ただいくつかの忍びの技術を習得し鍛え上げられた者たちだった。


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