第178話 黒虎省の戦い

 俺はハンゾウから話を聞いて、ハジリ島がどうなるか考えた。

 ハジリ島全体に戦乱が広がりミケニ島のカイドウ家のような覇者が生まれるのだろうか? その場合、ホウジョウ家が覇者となる可能性が一番高い。


「面倒な事だ。すぐにでも動くべきだろうか?」

「御屋形様が、ハジリ島を手に入れようと思われているのならば、動き出すべきでございましょう」


 俺はハジリ島を手に入れたいと思っているのだろうか? あれほど近くにアマト国と同等の規模を持つ国家が建国されれば、アマト国が成長する妨げとなるのではないか?


 カムロカ州のクジョウ家とアダタラ州のカラサワ家の関係を考えてみた。この二家はお互いに切磋琢磨して成長するという関係になっていたのだろうか?


 違うような気がする。州と州の境に兵力を配置し、毎年のように小競り合いを繰り返していた。この関係をミケニ島とハジリ島の関係に置き換えれば、いつ隣の島から攻められるかと警戒し、成長に使いたい資源や資金を永続的に無駄な防衛費に費やす事になる。


「列強諸国がハジリ島に手を出さなければ、放置しておくつもりだったが……」

 俺はハジリ島をアマト国に組み込む事に決めた。そうなると、兵員揚陸艦を増やさねばならないだろう。現在十隻の兵員揚陸艦を所有しているが、それでは足りない。


 評議衆を集めて、トウゴウにハジリ島を短期間に制圧するための戦備はどうなったか尋ねた。

「アマト国が所有するホロベツ半島に、一万ほどの兵を配置しようと考えております」


「しかし、ミヤモト家はホロベツ半島の根元に砦を築き、防備を固めていると聞いたが、それはどうする?」

「あの程度の砦ならば、野戦砲を使って破壊すれば良いのでございます」


 俺は頷いてから、

「だが、戦を始めるには理由が必要だ」

「ミヤモト家は領地を広げようと懸命になっております。シバ郡・ツシマ郡を制圧すれば、次はヤタテ郡に手を伸ばすでしょう」


「なるほど、カイドウ家と親交のあるヤタテ郡のキクチ家から助けを求められれば、堂々とミヤモト家を叩けるか」


 ハジリ島の北側にあるミヤモト家を攻め口として侵攻する。それは良いのだが、ハジリ島の南側はどうだろう? その事をトウゴウに尋ねた。


「その件に関しましては、コウリキ殿が担当しております」

 俺がコウリキに視線を向ける。

「では、某から説明いたします」


 コウリキはハジリ島の地図を広げて、ヤタテ郡の南にあるウツイ府を指差した。

「ウツイ府のハツシカ家は、隙のない大名家なのですが、ただ一つだけ問題を抱えております」


「それは何だ?」

「当主ハツシカ・御門督・ナリヒラに子供が居ない事でございます」

「ふむ。確かに不安な点では有るが、一門から養子を迎えるなどすれば、済む話ではないのか?」


 コウリキが頷いた。

「御門督様もそう考えられたようで、一門の家臣を集め相談されたそうです。そこでハツシカ・マゴジュウロウの次男とハツシカ・カゲモリの孫が候補に挙がったのでございます」


 マゴジュウロウの次男ユキヤスを推す家臣とカゲモリの孫ヨシマサを推す家臣で争いが起きているという。


「それは、御門督殿が決断すればいいだけの話ではないのか?」

「はい。御門督様は、ユキヤス殿を養子にするつもりでおられたようですが、正室のスミレ様がヨシマサ殿がいいと言い出したのでございます」


「馬鹿な。正室とは言え、なぜスミレ殿が口出しする?」

「御門督様が、婿養子だからでございます」

「ふーっ、厄介な事を……だが、付け入る事はできる」

 俺は両陣営に金をばら撒き、コネを作るように命じた。


 そのコネを使って、ハツシカ家の情報を仕入れ、カイドウ家の影響力を大きくする事ができる。

 クガヌマが面白くなさそうな顔をしている。

「御屋形様、そんなまどろっこしい真似をせずに、攻め込んで切り取れば良いではありませんか?」


「領地を広げるだけなら、そちが言うようなやり方でも良いが、その後の内政で問題が出るのだ。力で奪われたと感じた者は反抗するものだ」


「そんな者など、今までも居たではありませぬか。我々は、その者たちを踏み潰してきたのでござる」

「その通りだ。今までは生き残るために、そうしてきた。だが、これからは列強諸国や周辺国の目がある。それらの国々が見ている」


 トウゴウが頷いた。

「御屋形様がおっしゃる通りでございます。アマト国が危険な国だと周辺国が思えば、連合してアマト国を攻めるかもしれません。評判を気にせねばならないと拙者も思います」


「ですが、桾国はどうでござる。あの国は耀紀帝の一言で、何でもやります。援軍として行った国の領民を襲い、食料を奪い、平気で民を殺す」


 トウゴウが苦笑いする。

「御屋形様に耀紀帝を真似しろ、と言っているのか?」

「違う違う。それほど評判を気にする必要はない、と言いたいのでござる」


 俺も苦笑いして頷いた。

「アマト国は建国したばかりの国だ。その国民には、アマト国に誇りを持って欲しい。そのために表向き、アマト国は非道な真似などしないと信じてもらう」


「表向きだけでござるか?」

「そうだ。国には表と裏が有るものだ。表が有るから国に誇りを持てる。そして、裏があるから国は生き残れるのだ」


 他の評議衆も納得して頷いている。フナバシが、

「先程名前が出た桾国は、国民が誇りを持てない国になった。必ず衰退して滅びるだろう」


 桾国が滅びる時、周辺国にも激震が走り右往左往する事になる。それに備えて国の基盤をしっかりしたものにしなければならないと思っていた。


 ホシカゲが報せを持って来た。

「御屋形様、桾国軍とイングド国軍が、黒虎省で戦いを始めました」

「ついに始まったか。どちらが勝つと思う?」


 トウゴウが最初に口を開く。

「イングド国軍でしょう。火力が違います」

 鉄砲と大砲の数が多いイングド国軍が勝つと、トウゴウは予想した。その意見にコウリキとクガヌマも賛成する。


 フナバシが首を傾げた。

「しかし、兵力は桾国軍が二倍ほど多いという報告ではありませんか。桾国に軍配が上がるかもしれませんぞ」


 トウゴウが頷いた。

「確かに兵力は桾国が多い。ですが、その指揮を執っている大将が、あの黄少将というのでは、危うい」


 黄少将というのは、アシタカ府の居留地に攻め込んできた桾国の武将である。クガヌマが率いるカイドウ軍と戦い敗退している。


 クガヌマもトウゴウに同意する。

「野戦砲の前に、味方の兵を突撃させるような馬鹿が大将というのでは、桾国軍に勝ち目はない」


 そんな予測を立てた数日後に、黒虎省での戦いが決着したという報告が届いた。

「ホシカゲ、戦はどうなった?」

 俺が尋ねると、ホシカゲが戦の様子を語り始めた。


 それによると、最初に多数の兵を使って攻め寄せたのは、桾国軍だったらしい。だが、多くの鉄砲兵により撃退され、イングド国軍が優勢となったようだ。


 そして、大将である黄少将が狙撃兵の鉛玉を食らって死んだ事で決着がついたという。


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