《追章》その29:片おさげと母の幸せ


 あたしには以前から疑問に思っていることがある。


 それはアルカディアを始めとした、いわゆる〝マタニティ組〟が何故か全員〝同じ髪型〟をしているということだ。


 そう、〝片おさげ〟である。


 何故揃いも揃って片おさげなのか。


 確かに長い髪が引っかかったら危ないだろうし、一つにまとめて見える位置に持ってくるというのは理に適っているようにも思えるのだが……。



「ねーねー、めがみさまー。赤ちゃんってどうやったらできるのー?」



「ふ、それはもちろん〝愛〟ゆえに、だ。わかるな? 子どもたちよ」



『うん!』



 いや、絶対わかってないでしょ……、とあたしは一人胡乱な瞳をトゥルボーさまたちに向ける。


 てか、なんであんたまでがっつりマタニティ組に入っちゃってんのよ……。


 あれだけイグザのことを嫌ってたくせに、気づいたら上から四番目くらいの早さでお子さま作っちゃってるじゃない……。


 もしかしてあれかしら?


 口ではそう言っていても身体の方は……じゃなかった。


〝嫌よ嫌よも好きのうち〟みたいなやつなのかしら?


 わかんないわぁ……、と呆けつつ、あたしはトゥルボーさまの髪型を見やる。


 やはり片おさげである。


 いや、片おさげなのだろうかあれは……。


 なんか角にぐるぐる巻きにして無理矢理長さを調節してるんだけど……。


 うーん……、とあたしが難しい顔でトゥルボーさまを見据えていると、頂き物の食料などを神殿内に運び終えたらしいオフィールが「おっ?」と楽しそうに近づいてきた。



「なんだ? おめえもついにガキが欲しくなったのか?」



「まあそのうちね。というか、そういうあんたはどうなのよ?」



「あたしは別にいつだっていいんだぜ? けどなんか今できたら腹筋で潰れちまいそうだろ? だからもうちょい筋肉を減らしてからだな」



 そう言ってめりっと自慢の腹筋を隆起させるオフィール。


 いや、まあ確かにそれだけムキムキならちょっと力んだだけでぽんって出てきちゃいそうだけど、でもアルカディアでさえ普通にママさん感全開にしてるんだし、意外と大丈夫なんじゃないかしら?


 むしろオフィールの赤ちゃんならたとえ潰されかけても気合いで耐えそうな気が……。


 そしてムキムキな感じで生まれてきそう……。



「なんだよ、その顔は……」



「いえ、別に……。あんたの子、絶対母親似だろうなって……」



「?」



 ともあれ、あたしはオフィールに尋ねる。



「っていうか、あんた的にあれはどうなのよ? 最近すんごいデレ期に入ってるけど、一応あんたの母親なんでしょ? 嫌じゃないの?」



 ちなみにどのくらいデレ期かというと、イグザに黄色い声援を送ってくる一般女子たちに「喚くな。殺すぞ」と独占欲を剥き出しにして睨みを利かせるくらいにはデレ期である。



「うん? ああ、ババアのことか。まあいいんじゃねえか? 確かに母親みてえなもんだけどよ、あたしらとは違って女神っつーのは自分の幸せなんか考えたこともなかったんだろ?」



「……まあ、そうでしょうね」



「ああ。そいつがああして幸せそうにしてるんだ。ならそれでいいじゃねえか。あたしは別にババアが幸せならそれで構わねえよ」



「ふーん。あんたって意外と大人なのね」



「へへ、まあな」



 にっと歯を見せて笑うオフィールに、あたしも表情を和らげていたのだった。


 まあ、確かに大事な人が幸せならそれでいいわよね。

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