209 総力戦


 ――がんっ!



 ――どがんっ!



 ――ずがんっ!



 空に二筋の軌跡を描きながら幾度もぶつかり合う中、



「――ナイトメアサザンクロスッッ!!」



 ずばあああああああああああああああああああああああああああああんっっ!! とエリュシオンの放った黒色の斬撃が文字通り海を十字に割る。


 水平線の向こう側まで海底が剥き出しになるほどの凄まじい一撃だ。


 まともに受ければただでは済まないだろうが、俺はそれをすんでのところで躱してエリュシオンへと肉薄する。



「グランドレイ――ゼロスフィアッ!」



 ――がきんっ!



 そして俺の放った光の三重抜剣術だったが、エリュシオンはこれをその禍々しい太刀で見事に防ぎ切る。


 最速にして最高位の抜剣術――《グランドレイゼロ》三撃分を多方向から同時に叩き込む超絶技なのだが、さすがは創世神と言ったところだろうか。



「この程度で……ッ」



 険しげな表情を浮かべてはいるものの、やつはそれらを完全に受け切ったようだった。


 だがそこで俺は声を張り上げて告げる。



「アルカ!」



「承知した!」



 ――ごうっ!



「ぬっ!?」



 その瞬間、マグリドでイグニフェルさまが姿を現したように、俺の身体から出でた炎がアルカの上半身を象り、その手には進化した〝槍〟の聖神器が握られていた。



「なんだと……っ!?」



「グランドルナフォース――メテオライトおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」



 ――どばあああああああああああああああああああああああああああああああああんっっ!!



「ぐおおおお……っ!?」



 そして彼女は自身の最強技――《グランドルナフォースメテオライト》をこの至近距離でエリュシオンへと叩き込む。



「……舐め、るなあッ!!」



 どばんっ! と《グランドルナフォースメテオライト》を途中で霧散させたエリュシオンだったが、



「――舐めているのはあなたの方よ」



「何っ!?」



 そこではすでにザナが進化した〝弓〟の聖神器を手に待ち構えていた。


 当然、彼女の背後に聳えるのは超巨大な弓と矢。



「――グランドフルエレメンタルディセントッッ!!」



 ――ずがあああああああああああああああああああああああああああああああああんっっ!!



「ぐうっ!?」



 そう、黒人形化したカナンを打ち倒した最強の五属性同時攻撃――《グランドフルエレメンタルディセント》である。


 あの時は発動まで何段階かの工程を踏まなければならなかったが、全ての女神さま方と融合した今ではノータイムでの速射が可能となっていたのだ。


 どばああああああああああああああああああああんっっ!! とエリュシオンごと海水がドーム状に大爆発を起こす中、ザナの姿が俺の中へと消えていく。



「さすがに倒すまでには至らなかったと思うけど、でも手応えはあったわ」



 だが声だけは未だに聞こえ続けており、俺も彼女の言葉に頷いて言った。



「そうだな。最大強化された聖女二人の最強武技を二連続で叩き込んだんだ。腕の一本くらいは持っていって欲しいところだが……むっ?」



 話の途中で海面が渦を巻き始める。


 残念ながらあちらさんはまだまだ元気が有り余っている様子だ。


 と。



「――グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」



『!』



 突如渦の中心から海竜種――〝リヴァイアサン〟を彷彿とさせる水の竜が飛び出し、一直線にこちらへと向かってくる。


 以前セレイアさんが姿を変えられていた時よりも桁違いの大きさだ。



「あれは〝水〟の神である私にしか使えない術技――《エンシェントドラグセドナ》です! 周囲に水がある限り、対象を破壊するまでどこまでも追尾してくるので注意してください!」



「了解です! なら――シヴァさん!」



「ええ、分かったわ! ――グランドフルアダマントキャッスルッッ!!」



 ずばああああああああああああああああああああんっ!! とシヴァさんの発動させた最強の大防御壁――《グランドフルアダマントキャッスル》が牙を剥こうとしていた水竜の猛攻を完全に遮断する。


 と、次の瞬間。



「イグザ!」



「ああ、分かってる!」



 ――がきんっ!



「ちっ……」



 背後から斬りかかってきたエリュシオンの斬撃を、俺は〝剣〟の聖神器で難なく受け止める。


 もちろんオフィールが知らせてくれたというのもあるのだが、恐らくはそうくるだろうと予測していたからだ。


 何せ、元来の《グランドフルアダマントキャッスル》は一度発動させたら解除するまで動けなくなるからな。


 当然、がら空きの背後を狙ってくるだろうさ。


 だが今の俺たちはスサノオカムイの力で皆が単体で最強技を放てる状態になっている。


 それは《グランドフルアダマントキャッスル》にしても然りだ。


 しかも全員が周囲を警戒している以上、死角は存在しない。


 よって元より奇襲など無意味なのである。



「……なるほど」



 そしてそれをエリュシオンも理解したらしい。


 やつは俺と鍔迫り合いながら鼻で笑うように言った。



「女に守られながら戦うのが貴様の正義というわけか。大した救世主だな」



「そりゃただの女じゃないからな。嫁である前に全員が信頼出来る〝仲間〟なんだ。背中くらい預けるのは当然だろ? まああんたにはそんな相手もいないみたいだけどな」



「くだらん。仲間に縋るなど弱者のすること。信じられるのは己が力だけだ」



「そうかい。ならその独りぼっちの強者さまに言ってやるよ。あんたの敗因は〝誰かを信じようとしなかったこと〟だってな」



「……なんだと?」



 俺の言葉に、エリュシオンは怪訝そうに眉を顰めていたのだった。



※ここまで読んでくださって本当にありがとうございます!

 一週間後の25日に書籍版の一巻が発売されますので、よろしければそちらもお手に取ってもらえたら嬉しいです。

 サービスシーンの追加など大幅な加筆修正を行いましたので、きっとWeb版以上に楽しんでいただけるのではないかとm(_ _)m

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