198 複合異能
一体どういうつもりなのか。
突如四方八方に触手を伸ばしたヴァロンに、当然マグメルたちは訝しげな視線を向ける。
すると、彼は伸ばしていた触手を戻しつつ、どこか残念そうに言った。
「ああ、やはり思ったとおり、トウゲンは美味しくないですね……。一緒に食べた者たちも実に味気がない……。そしてほかの《
今の口ぶりを聞くに、どうやら先ほどの触手で自らの仲間たちをアイティア同様食らっていたらしい。
なんておぞましいことを……、と顔を顰めるマグメルに、彼女と融合していたシヌスもまた憤りの孕んだ声音で言った。
「あなたの言うとおりです。これ以上、あの者の蛮行を許すわけにはいきません。我らの最大火力を以て彼の者に裁きの一撃を」
「で、ですが彼は私たちの術技を文字通り〝食らい〟ます。それでは逆に彼に力を与えるだけなのでは……?」
そうなのである。
神姫兵装を発動させた聖女が二人いるにもかかわらず、未だヴァロンを仕留めきれずにいたのは、彼がマグメルたちの放った遠距離系の武技や術技を、例外なく全て〝食らっていた〟からなのだ。
そんなヴァロンに最大火力とはいえ、術技をぶつけるなど、ご馳走を自ら与えにいくようなものである。
だがシヌスは「いえ」と首を横に振って言った。
「いかにあの者が術技の類を取り込む異能を持つとはいえど、その収容量には必ず〝限度〟があるはずです。以前イグザがキテージなる魔の者を倒した際、彼は自分の力を彼の者が〝受け止めきれなかった〟と言っていました。つまり取り込める容量以上の力を流し込めば、必ずやあの者を自壊させることが出来るはずなのです」
「……なるほど。確かに試してみる価値はありそうですね」
「ええ。フルガたちが合流してくれた今ならば、攻守ともに援護が望めます。是非決断を」
シヌスにそう告げられたマグメルは、「承知しました」と即断する。
当然、その意思はほかの女子たちにも伝わっていたようで、
「いいだろう。ならば囮役は我らが引き受けよう。――ゆくぞ、ザナ!」
「ええ!」
「よっしゃ! ならこっちは全力であいつらを守るぞ!」
「ええ、分かったわ!」
それぞれが自身の役割を全うすべく床を蹴る。
「ここに集いしは七つの理、光より出でて闇夜に還る――」
最中、マグメルは現状放てる最大最強の術技を発動させるため、聖神器を両手で握り、〝詠唱〟を始める。
〝詠唱〟は瞑想の一種であり、これを長く挟むことで術技はその威力を最大限に高めることが出来るのだが、その場から動くと効力が半減する上、戦場ではそんなことを悠長にしている余裕がないため、よほどの場合を除き、〝穿て、清浄なる光の牙〟などの最小限に留めているのだ。
「――混ざれ、混ざれ、混ざれ、混ざれ! 祖は万物を司る双生の乙女なり!」
――ばちばちばちばちっ!
しかしザナたちの援護により、今マグメルは完全な詠唱を以て術技を放つ準備が出来ていた。
「流転する無圏の環! フィニスオルグ――」
が。
「――やめて、マグメル」
「――っ!?」
突如目の前に姿を現した城塞都市オルグレンの城主――フレイルの悲しげな表情に、マグメルは思わず手を止めてしまう。
と、次の瞬間。
「マグメル……食べさせてええええええええええええええええええっっ!!」
――ぐばあああああああああああああああああああああああああああっ!
「「――なっ!?」」
フレイルの身体を突き破るように飛び出してきた鋭利な触手群が、真っ直ぐマグメルたち目がけて襲いかかってきた。
「「マグメル!!」」
当然、術技は食われるため、シヴァたちが咄嗟にマグメルたちの前に立ちはだかるも、触手群は盾にぶつかる直前で多方向に逸れ、そのままマグメルたちのもとへと向かっていく。
「きゃ、きゃあああああああああああああああああああっ!?」
だが。
「――おらあっ!」
「「「「――っ!?」」」」
ずしゃあっ! とどこからともなく現れたオフィールがフレイルに渾身の一撃をかまし、彼女は触手ごと肉片を飛び散らせながら床を転がっていった。
「……オフィールさん?」
「はっ、随分と可愛い悲鳴じゃねえか、ドM女」
どうよとばかりに不敵な笑みを見せるオフィールだったのだが、
「……痛いよ、オフィール……」
「「――っ!?」」
直後に吹き飛ばしたはずのフレイルが、何故かトゥルボーの神殿で匿っていた子どもたちの一人として再生し、どういうことだと堪らず固まってしまう。
だが驚きはそれだけに留まらなかった。
事態の重大さを鑑み、一箇所に集まって警戒を強めるマグメルたちを囲むように、
「オフィール……」
「女神さま……」
「マグメル……」
「シヌスさま……」
「ザナ……」
「ヒノカミさま……」
「シヴァさん……」
「フルガさま……」
ぞろぞろと彼女らの見知った人物が次々に姿を現したのである。
「ど、どうしてお母さまが……」
「惑わされちゃダメよ、ザナ。これはさっき私たちがあのアイティアとかいう魔族に受けていた戦術と同種のもの。私たちの思考を読み取り、親しい人の姿を模すことで攻撃の意思を削ごうとしているの。恐らくは彼女を取り込んだことで、その異能すらをも自らのものにしたのね」
「なるほど。そういうことか。どうりで我が島の幼子までいるはずだ。であればあれらは全てまやかし。迷わず灰にすれば済む話ぞ」
「そ、そう言われましても……。そ、それ以前にこれは幻術か何かなのですか……?」
マグメルの問いに、オフィールと融合中らしいトゥルボーが「いや、これらは幻術ではない」とそれを否定して言った。
「先ほど〝盾〟の聖女が魔の者を取り込んだと言っていたが、我らと戦っていた者も突如襲いきた触手に貪られ、呑み込まれた。やつの異能も取り込んでいるとなれば、こやつらは我らの見知った顔を持つ不死の傀儡。幻術などよりも遙かにたちの悪い代物だ」
「しかも本体の物理攻撃以外を〝食らう〟という特性も兼ね備えているわ。まったく、親しい人たちに食べられるなんて、これ以上ないほどに最低のシチュエーションね」
『……っ』
そう肩を竦めるシヴァに全員が言葉を失い、唇を噛み締める。
すると、自らの勝利を確信したらしいヴァロンがにちゃあと不気味な笑みを浮かべて言った。
「ああ、これでやっとあなたたちを食べることが出来ます……。融合している女神たちを合わせれば全部で八人……。皆さん一体どんな味がするんでしょうね……」
じゅるり、と本体を含めた全ての触手や傀儡たちがよだれを垂らす。
そして。
「では……イタダキマアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアスッッ!!」
『――っ!?』
一斉に襲いかかってきたヴァロンたちに、さすがのマグメルたちも恐怖で顔を引き攣らせていたのだが、
「それ以上、俺の女に――近づくんじゃねええええええええええええええええええええっっ!!」
ばしゅうううううううううううううううううううううううううううううっっ!! と白銀の炎が全てを薙ぎ払っていったのだった。
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