《聖女パーティー》エルマ視点51:だから人妻はやめておけとあれほど……。


 魔族の襲来に備え、各亜人の里へと注意喚起を促すことにしたあたしたちは、シヌスさまとトゥルボーさま以外の女神一柱に聖女二人という編成で、それぞれの里へと赴くことになった。


 もちろん聖女は七人のため、誰か一人はイグザと組むことになるわけだが、そこで勃発したのが〝正妻ジャンケン〟である。


 読んで字の如く、これに勝った者こそが天より定められし正妻なのだ的なちょっと頭の悪い感じのジャンケンなのだが、誰かが勝つ度にほかの自称正妻たちから物言いが入るという地獄のようなループが続き、最終的にイグザが除外されてアイリスが入るというやっぱり頭の悪い感じの結末へと落ち着いた。


 ちなみに、イグザは留守番予定だったシヌスさまとともに人魚の里へと赴くことになったので、まあ効率という点で言えばよかったのかもしれない。


 そしてトゥルボーさまは神殿に残してきた子どもたちが心配だということで一旦里帰りだ。



「ところで、聖女さまは〝人妻〟についてどう思われますか?」



「……はっ?」



 ともあれ、イグニフェルさまに連れられ、オフィールとともにミノタウロスの里を訪れていたあたしに、てっきりエンジョイ中だとばかり思っていた豚が神妙な面持ちでそんなことを問うてくる。


 なお、同じく逗留中のナザリィはげっそりとミイラみたいに干からびていたが……まあそれはさておき。



「まさかまた人妻に恋をしたとか言うんじゃないでしょうね? マグメルの時に懲りなかったの?」



 軽蔑気味の半眼を向けるあたしに、豚は「い、いえ、そうなのですが……」と滝のような汗を流して続ける。



「実は私が気になっている方々は皆さまご結婚されている方ばかりでして……。というより、この里の夫婦及び子持ち率がとても高く、独身の方がほとんどいらっしゃらないのです……」



「へえ、そんなこともあるのね」



 ふーん、と周囲を見渡したあたしの目に映ったのは、確かに子持ちの女性ばかりであった。


 それも二人以上がほとんどである。


 ならばまあ巨乳が多いのも頷ける。


 恐らくは子育てのために必然的進化を遂げたのだろう。


 なるほどね、と頷くあたしに、豚はぐっと拳を握り、決意を秘めたような表情で言った。



「そこで私は考えました。この際、もう子持ちの人妻でもいいんじゃないだろうかと!」



「……」



 豚ぁ……。


 だからちょいちょい人の嫁を寝取ろうとするのやめなさいよ……。


 マジで一度痛い目に遭った方がいいんじゃないかしら、この豚……。


 そうあたしが内心天罰が落ちないものかと祈りを捧げていると、豚が誰かを見つけたらしく、「あ、クレタさまー!」と動けるデブ的な速度でぴゅーっと駆けていった。



「あら、ポルコさん」



 どうやらあのいっぱい甘えさせてくれそうなママ感漂う癒し系ミノタウロスが今一番のお気に入りらしい。


 確かに豚の好きそうな清楚系の爆乳美女である。



「今日もお綺麗ですねー!」



 と、そのままあの大きなお胸に飛び込みそうな勢いの豚だったのだが、



 ――ぎゅむっ。



「ぐえっ!?」



 途中で筋骨隆々の大男に首根っこを掴まれ、振り子のように足が斜め上までぴーんっと上がる。


 そして。



「よう、ちょっと向こうで話そうか、豚野郎」



「ひ、ひい~っ!? た、助けてください、聖女さま~!?」



 豚はそのままママさんの夫と思しき男性に連行されていったのだった。



「……はあ」



 まあイグザが優しかっただけで、普通はああなるわよね……。


 惜しい豚を亡くしたわ……。

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