163 憎しみの温度差
「くっ、この不肖ポルコ、あなたさまに愛を誓った身ではございますが、私とあなたさまは決して結ばれることのない悲しき定め――ゆえに私は涙を呑み、この里で新たなる愛を見つけようと思います!」
「え、ええ、頑張ってくださいね」
「はい! それでは!」
しゅばっと機敏な動きでマグメルに頭を下げ、ポルコさんが去っていく。
勝手に人の嫁に愛を誓わないで欲しいところだが……まあそれはさておき。
色々と不安要素はあるけれど、ナザリィさんもついてるからな。
たぶん大丈夫だろう。
「で、ではのう……げふっ!? こ、こっちのことは我らにがふっ!? ま、任せおぐっふ!?」
――どさりっ。
「「「……」」」
ま、まあ大丈夫ということにしておこうと思う……。
◇
ともあれ、そんなこんなでミノタウロスたちのことはお二人にお任せし、俺たちはドワーフの里へと戻ってくる。
シヴァさんの話だと、まだどこの町も襲われているような気配はないらしいので、恐らくはエリュシオンも侵攻前の準備段階にあるのではなかろうか。
適当に魔物たちを動かしても各地の冒険者たちに倒されるだけだからな。
戦力を集中させる場所など、綿密に計画を練っているに違いない。
「とはいえ、今やエリュシオンは創世の神だからな。むしろあいつ自身が前に出た方がより多くの人間を効率的に殺せそうな気がするんだけど、どうして〝魔物に襲わせる〟なんて回りくどいやり方をするんだろうか?」
俺の疑問に、「ふむ」とアルカが思案するように言った。
「そもそもやつは何故そこまで人間たちを憎んでいるのだ? 改めて考えてみれば、ほかの聖者たちはそれほど人間たちに憎しみを抱いてはいなかった。へスペリオスは〝快楽〟を、シャンガルラは〝刺激〟を、カナンは〝優越感〟を、ボレイオスは〝強者〟を求め、それぞれエリュシオンと行動をともにしていた。アガルタにしてもそうだ。あれは単に家族との〝安寧〟を求めていただけに過ぎん」
「そうね。確かに私が彼らと一緒にいた時も、エリュシオンとほかの聖者たちにはどこか温度差のようなものがあった気がするわ」
「温度差、か……」
エリュシオンが魔物たちの行動権を握っている以上、一度争いが始まれば、その戦火は瞬く間に世界を包むことになるだろう。
仮に俺たち全員がそれぞれの地に飛んだとしても、救える命には限度がある。
となれば、被害を最小限にとどめるため、まずは侵攻自体をやめさせることを考えるべきだと思う。
万が一エリュシオンを倒せたとしても、一度始まった侵攻が止まるとは限らないからな。
説得するにせよ戦うにせよ、何故そこまで人類の滅亡に拘るのか――その理由を知る必要があるのではなかろうか。
まあ可能性はかなり低いと思うが、それを知ることで魔物を使わせないようにすることが出来るかもしれないし。
うん、と頷き、俺は皆に告げる。
「恐らく鬼人の里に行けば何かしらエリュシオンについて分かると思うんだ。というわけで、俺はこれから鬼人の里に向かおうと思うんだけど……どうかな?」
「うん、いいと思う。あの鬼の人はとても悲しそうな目をしていた。わたしも彼に何があったのか知りたい」
そう真っ先に頷いてくれたのはティルナだった。
以前、ドワーフの里に聖者たちが襲来した際、彼女はその部分に踏み込んでエリュシオンに斬られかけてるからな。
真実を知りたいと思うのは当然だろう。
「無論、私もお前の意見に賛成だ。あの男の背景に別段興味があるわけではないが、お前がそう決めたのであればどこへなりともついていくさ」
「おう、ありがとな」
アルカの言葉に、俺はにっと歯を見せながらお礼を言う。
すると、イグニフェルさまが腰に手をあて、不敵に笑いながら言った。
「ふむ、ならば我ら五柱が責任を以て留守を預かるとしよう」
「すみません。お願いします」
「なら私もアイリスたちのことが心配だし、残念だけど今回はここに残ることにするわ」
「ああ、分かった。じゃあ女神さまたちとともに留守を頼む」
「ええ、任せてちょうだい」
ザナが頷いたことを確認した後、俺はほかの女子たちを連れ、フィーニスさまの移動術で鬼人の里へと向かったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます