162 再びミノタウロスの里へ
ともあれ、光の英雄さんには出来る範囲で魔物たちに対処してもらえるよう協力を仰ぎ、フィーニスさまの移動術で仲間の方々のもとへと戻ってもらった。
その際、彼女からお詫びにと一振りの剣を贈られていたのだが、どう見ても英雄が使うような代物ではなく、禍々しさ溢れる魔剣然とした雰囲気を孕んでいた。
もちろん再度黒人形化を目論んでいるとか、そういうことではなく、なんでもあの剣は斬った魔物を取り込んで封印することが出来るらしく、なるべく魔物を殺したくない彼女からのお願い的な贈り物だったのだ。
とはいえ、通常であれば謝罪を受けたとはいえ、一度自分を殺した相手からのお願いなどなかなか聞き入れがたいところなのだが、光の英雄さんはとても人の出来た方だったので、二つ返事で剣を受け取ってくれていた。
なんともありがたいことである。
そんなこんなでこちらの一件も片がつき、あとはエリュシオンに対抗するため、エルマの協力が得られれば万々歳だったのだが……。
「ちょ、ちょっと待って!? も、もう少しだけ時間をちょうだい!? こ、心の準備がまだ出来てないの!?」
「あ、ああ、分かった。でも別にそんな思い詰めなくてもいいからな? いざとなったら何か別の方法を考えるし」
というように、彼女は頭を抱え、なんとか踏ん切りをつけようと必死に足掻いている最中だった。
まあエルマの場合は幼馴染ということもあってか、色々と事情が複雑だからな。
最悪、決心がつかなくても別に責めやしないさ。
「よし、ならその間にミノタウロスたちのところにナザリィさんたちを連れていこう。大分待たせちまったからな。というわけで、頼めますか? フィーニスさま」
「ええ、分かったわ……」
◇
「ぐっはあっ!?」
――どさりっ。
里に着くなり鼻血を噴いて倒れたのは、もちろんポルコさんである。
巨乳好きの彼にとってここはまさに乳の楽園――当然の反応だ。
まあなので色々と失礼のないよう今回はナザリィさんにも同行してもらったわけだが、
「ぐっはあっ!?」
――ぽてりっ。
彼女は彼女でショックを受けていたようで、白目をむきながらびくんびくんと瀕死状態に陥っていた。
いや、いくらなんでもショック受けすぎじゃない?
なんかこのまま死んじゃいそうな勢いで血を吐いてるんだけど……。
と。
「――おお、来てくれたか。感謝するぞ、人間たちよ」
族長の女性がお連れのミノタウロスたちとともに近づいてくる。
相変わらず素晴らしいお胸と腹筋をお持ちだ。
ちなみに、今回里を訪れたのは俺とドワーフの二人のほか、移動術を使ってくれたフィーニスさまと、ポルコさんの大本命――マグメルである。
そろそろ人の嫁に手を出すのはやめ……げふんっ。
彼にも新しい恋を見つけて欲しいからな。
俺から同行して欲しいと頼んだのだ。
「お待たせしてすみません。ちょっと今は二人とも意識が飛んでいるようですが、こちらがこの度復興に力を貸してくれるというドワーフのポルコさんとナザリィさんです」
「そうか。何故意識が飛んでいるのかは分からぬが、そなたたちの協力に感謝する」
ぺこり、と失神中の二人に頭を下げた後、「ところで……」と族長さんが俺の後ろに控えていた二人……というよりは、フィーニスさまに視線を移す。
言わずもがな、彼女は同胞であるボレイオスを黒人形化させ、里を壊滅させた張本人である。
ミノタウロスたちからすれば仇みたいなものである以上、どう紹介すればよいか一瞬迷ったものの、俺はありのまま彼女たちに伝えることにした。
が。
「えっと、彼女は俺の嫁で、〝杖〟の聖女――マグメル。そしてこちらの方は――」
「……女神フィーニス、ですね?」
「「!」」
どうやら族長さんたちはその存在に気づいていたようで、お連れの方々ともども彼女の前に跪いて言った。
「お初にお目にかかります、女神フィーニス。私はミノタウロス族の長――パウエ。お会い出来て光栄です」
「何故、頭を垂れるの……? 私はあなたたちを殺そうとしたのよ……?」
「ええ、存じております。ですが伝え聞くあなたさまの境遇を思えばそれも致し方のないこと。確かに里はこの有り様ですが、それも彼らがこうしてドワーフの民を連れてきてくれました。である以上、恐らくは以前よりも強固かつ素晴らしきものとなりましょう」
「そう……。でも私はあなたたちの同胞を弄んだわ……」
「確かに。ですがそれゆえにあやつは満足のゆく最期を遂げることが出来ました」
「私が憎くはないの……?」
「もちろん全ての民が憎しみを抱いていないとは言い切れません。ですが創世の神であるあなたさまがこうして自らの足で謝罪に来てくださった――その事実だけで我らは十分でございます」
「そう……。本当にごめんなさいね……」
恭しく頭を下げるフィーニスさまに、パウエさんたちは一瞬驚いたような表情を見せたものの、「……勿体なきお言葉です」と再び頭を垂れたのだった。
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