156 男の甲斐性
ともあれ、トゥルボーさまは引き続き説得するとして、問題はこの中で一番力の消耗が激しいフィーニスさまだった。
マグメルのおかげで傷自体は塞がったものの、主に精神面でのダメージが大きく、彼女は虚ろな目でベッドに横たわっていた。
もちろんフィーニスさまには色々と言いたいこともあるが、それはぐっと堪え、俺はベッド脇にゆっくりと腰掛ける。
すると、フィーニスさまの方から「彼女たちを助ける方法が見つかったのね……」と力なく声をかけてきた。
なお、少し二人で話をしたいので、皆には少々距離をとってもらっている。
「ええ、そのとおりです。でも彼女たちだけではありません。俺はあなたのことも救おうと思っています」
「そう……。でもいいわ……。だって私にはもう何も残っていないもの……」
「……」
「力も、子どもたちも、そして赤ちゃんと描く未来すらも、全てあの亜人に奪われてしまった……。私には、もう何もないの……」
そう絶望に打ちひしがれるフィーニスさまに、俺は「……一つ聞いてもいいですか?」と尋ねる。
「何かしら……?」
「俺の思い違いだったらすいません。でもきっとそうなんじゃないかなと思って。エリュシオンに同調された際、あなたは自ら力を奪われることを受け入れたんじゃないですか?」
俺の問いを聞いたフィーニスさまは、一度ちらりとこちらを見やった後、再び前を見据えて言った。
「どうしてそう思うの……?」
「それはもちろん――あまりにも〝簡単すぎた〟からです」
「簡単……?」
「ええ。いくら魔物の力を大量に取り込んだからといって、女神さまたちの力まで手に入れたあなたが本気で抵抗すれば、あの程度の拘束から逃れるのは容易かったはずです。けれどあなたはそうはしなかった。であれば考えられるのは一つしかありません。あなたは自分に同調してきた魔物たちの存在を拒みたくなかった――違いますか?」
俺がそう尋ねると、フィーニスさまはしばし沈黙した後、「ええ、そうよ……」と静かに頷いて言った。
「だってあの子たちは私の可愛い子どもたちだもの……。たとえ私をただの創造主だとしか思っていなくとも、たとえ私のことを愛していなくとも、あの子たちは私の生んだ可愛い子どもたちなの……。それを、一体どうして拒めるというの……?」
「そう、ですね……」
その子どもたちが皆敵に回ってしまったというのは、なんとも皮肉な話である。
いずれこうなる可能性を予期していたからこそ、フィーニスさまは自分自身の赤ちゃんをあんなにも欲しがっていたのかもしれないな。
そしてエリュシオンはそんなフィーニスさまの母性の強さを利用し、まんまとその力を得たというわけだ。
相変わらず狡猾というかなんというか……。
と。
「もういいでしょう……? 私のことは放っておいてちょうだい……」
そう言って口を噤んでしまったフィーニスさまに、俺は一人考えを巡らせる。
確かに力を奪われてしまった以上、彼女の描く方法で赤ちゃんを作ることは難しいだろう。
だが前にも言ったとおり、今の彼女たちは身体こそエネルギー体ではあるものの、その存在は限りなく人に近いものになっている。
そもそもエネルギー体だって血は出るし食事もするからな。
要は身体のつくりが多少違うだけの話なのだ。
それが人間寄りになり、フェニックスシールも適用されている。
となれば、今の彼女たちには恐らく俺の力――〝スキル〟が通じるはずである。
ほら、一体これをどうしろとって感じの力を以前テラさまからもらってるだろ?
あれを使えばフィーニスさまの願いだってきっと叶えてあげられるはずだ。
まあ問題はそうなるとやっぱり男として責任をとらないといけなくなるので、ほかの女子たちから色々と声が上がりそうだということなのだが……うん、もうこうなったらがっつり覚悟を決めてやるさ。
元々そのつもりで皆を嫁にしてきたんだからな。
ぐっと拳を握り、俺はすでに死を待つだけのフィーニスさまにこう提案したのだった。
「あの、フィーニスさま。もしよかったらの話なんですけど、俺の――〝嫁〟になりませんか?」
「えっ……?」
「「「「「「「「……はっ?」」」」」」」」
当然、ここにはいないエルマと、一人吹き出しているイグニフェルさまを除いた女子たち全員の目が、揃って丸くなったのだった。
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