143 ドワーフの真実


「いーやーじゃー!?」



 工房の柱にしがみつき、ミノタウロスの住む孤島――ラビュリントスへの同行を断固拒否しているのは、もちろんナザリィさんである。


 俺たちの装備を作ってくれた時は、とくに胸に関して何も言ってこなかったので、もしかしたら大丈夫なのではなかろうかと一応ドワーフの里に寄ってみたところ、このような状況になってしまったのだ。



「いや、そんな泣くほど嫌がらなくとも……」



「普通に泣くわ!? おぬしらは知らんじゃろうが、わしらドワーフにじゃって胸の格差社会があるのじゃぞ!? そしてわしはこれでも巨乳の部類なのじゃ!?」



「えっ……」



「〝えっ……〟じゃないわい!? おぬし、今絶対〝その胸で……?〟とか思ったじゃろ!?」



「い、いえ、そんなことは……」



 ちょっと思ってしまったなんて口が裂けても言えない……。


 てか、ドワーフは痩せている方が魅力的みたいな感じじゃなかったのか……。


 俺が気まずそうに視線を逸らしていると、ナザリィさんが「大体!」と女子たちを指差して言った。



「そんなわしの説得にそやつらを連れてくるとは一体どういう了見じゃ!? 嫌がらせか!? 嫌がらせなんじゃろ!?」



「ち、違いますよ!? さっきも言ったように、彼女たちが同行しているのは黒人形化された〝斧〟の聖者を止めるためであって……」



「とにかくわしは嫌じゃ!? そんな乳だらけの島になんぞ行った暁には、ストレスでせっかくの巨乳が萎むじゃろうが!?」



「わ、分かりましたからとりあえず落ち着いてください!?」



 どうどうとナザリィさんを宥めつつ、俺は「参ったな……」と頭を掻く。



「まさかこんなにも拒否反応を示されるとは思わなかった……」



「そうね。豚さんのせいでややこしいことになっていたけれど、どうやらドワーフは種族の特性上身体があまり大きくならないだけであって、美の基準なんかは人とほぼ変わらないということみたいね」



「そうなのか? でもあのデブはドワーフの中じゃイケメンだって言ってたぞ?」



「それに関しては直接彼女に聞いた方が早いと思うわ。――ねえ、ナザリィさん」



「……うん? なんじゃ?」



 シヴァさんの呼びかけに、相変わらず柱にしがみついていたナザリィさんが警戒気味に振り向く。


 そんな彼女にシヴァさんはこう問いかけた。



「あなた、〝パング〟というドワーフを知っているかしら?」



 ちなみに、〝パング〟というのはポルコさんの本名である。



「パング? あのデブならわしの昔馴染じゃが……」



 いや、普通にデブ言われてるし……。


 イケメンじゃねえじゃねえか……。


 思わず頭痛がしそうになる俺だったが、確か彼が聖者なのは一部のドワーフしか知らないはずなので、俺たちはそれをナザリィさんに説明する。


 すると、彼女は信じられないといった表情で声を張り上げた。



「あのデブが〝盾〟の聖者じゃと!? いや、そんなことよりあやつがドワーフのイケメンとはどういうことじゃ!?」



 え、そっちに驚くの!?


 俺が微妙にショックを受ける中、オフィールが頷いて言う。



「おう、そう言ってたぜ。ドワーフの中じゃより体格のいいやつがイケメンなんだとよ」



「より体格のよいやつって……あー、そういうことじゃったかー……」



 何やら納得したようにナザリィさんが顔を伏せる。


 そして彼女はぽつりと事情を話し始めてくれた。



「あのな、わしらドワーフの男は別段太っておるわけではないのじゃ。小柄ゆえに太っておるように見えるのじゃが、実際には筋肉の塊なのじゃ。そりゃ毎日槌を振るっておるのじゃから当然じゃわい」



「えっと、つまりポルコさんの言う〝より体格のいい男〟ってのは……」



「うむ。〝筋骨隆々で逞しい男〟のことじゃ。あやつは思いっきり勘違いしとるようじゃがのう。ゆえにその点で言うならパングのやつはあれじゃ。イケメンどころかただのクソデブじゃ」



「「「……」」」



 ただのクソデブぅ……。


 衝撃の事実に、俺たちは揃って白目をむきそうになっていたのだった。

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