95 神を殺せる唯一の者
「おらあっ!」
――がきんっ!
「ぬうんっ!」
――どがんっ!
一撃一撃が致命傷たり得る攻防を繰り広げていたのは、オフィールとボレイオスだった。
以前は素の状態でオフィールを負かしていたボレイオスだったが、雷の力とフェニックスシールの強化の前ではさすがに余裕ではいられなかったと思われ、エリュシオン同様〝獣化〟済みであった。
「なるほど。貴様らはあの男があってはじめて潜在能力の全てが解放されるのだな」
「おうよ! だから今は身体中に力が漲ってるぜ!」
まるで炎のようなオーラを揺らめかせ、オフィールがにっと歯を見せて笑う。
すると、ボレイオスも口元に笑みを浮かべて言った。
「それは実に頼もしい限りだ。強者を打ち倒すことこそが我が喜びなのだからな」
「はっ、そいつも負けちまったらそこで終わりだけどな!」
――どぱんっ!
大地を蹴り、オフィールが聖斧を振りかぶってボレイオスに肉薄する。
「問題はない。何故なら――敗れるのは貴様だからだッ!」
ずがんっ! とボレイオスの剛撃もまたオフィールを襲ったのだった。
◇
各所で争いが繰り広げられている中、唯一未だに戦闘を行っていない者たちがいた。
〝杖〟の聖女――マグメルと、〝盾〟の聖女――シヴァである。
すでに〝杖〟の聖者であるへスペリオスを倒している以上、この組み合わせになるのは当然のことだったのだが、相手は〝聖者〟ではなく同じ〝聖女〟である。
ゆえに、マグメルは何故聖者側についたのかとその疑問をぶつけていたのだ。
「答えてください、シヴァさん。あなたの行動は不可解すぎます。何故私たち……いえ、イグザさまに助言をするような真似をしたのですか?」
「だってそうすればより早く目標が達成出来るでしょう? でも最初から答えを言ったらつまらないもの。だからヒントを教えてあげたのよ」
「でも現状あなたの言う〝七人の聖女〟は集まっていません。これはあなたの望み通りなのですか?」
「さあ、どうかしら? 所詮は占いだし、深い意味などないかもしれないわよ?」
「この状況でそれが通じるとでも?」
じろり、と鋭く睨みを利かせるマグメルに、シヴァは肩を竦めながら言った。
「まあそうね。じゃあ私からも一つだけ教えてあげる。どうしてオルゴーはわざわざレアスキルを七つに分けたのだと思う?」
「それは様々な状況に対応するためではないのですか?」
マグメルの答えに、シヴァは首を横に振って言う。
「いいえ、違うわ。――七つ全てが〝揃わないようにするため〟よ」
「揃わないようにするため……?」
「そう。ほかの凡庸なスキルと違って、七つのレアスキルは世界を守るためのもの。その相手は魔物だけに留まらず、当然同じ人類や亜人にも適用されるわ。もちろん〝それ以上の脅威〟に対してもね」
「それ以上の脅威って……まさかっ!?」
はっと両目を見開くマグメルに、シヴァは不敵に口元を歪めて頷いたのだった。
「そう、もし全てのレアスキルを一つに出来る者が本当に存在するのなら、彼は殺せるでしょうね――〝不滅の神〟すらをも」
◇
「はあっ!」
――がきんっ!
ずざざっ、と地を滑りながら構え直しているエリュシオンを前に、俺は違和感を覚えていた。
なんというか、手応えがおかしいのである。
確かに向こうも全力で攻撃を仕掛けてきてはいるのだが、ある時を境に力を抜くというか、そうかと思えば一気に攻勢に出てきたりと、まるで釣りでも楽しんでいるかのように緩急をつけてくるのだ。
これはあきらかにおかしい。
ゆえに俺はやつの誘いには乗らず、その場でぴたりと足を止める。
すると、エリュシオンは小首を傾げながら問うてきた。
「どうした? よもや戦意を喪失したわけではあるまい?」
「いや、あんたが何か考えていそうだったんでな。少しリズムを乱してみたんだ」
「ふむ、なるほど。やはり見破られていたか」
「そりゃこんだけ不自然な動きをされりゃあな」
「そうか。それは残念だ」
あっさりとネタばらししたエリュシオンを訝しげに見据えていた俺だったのだが、
「――だが少々遅かったようだな」
ざんっ! とエリュシオンが大地に神器を突き刺す。
「――っ!?」
その瞬間、俺の足元に光る陣形のようなものが浮かび上がったのだった。
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