89 創世にして双生の女神たち
ともあれ、俺たちは晴れてフルガさまからお力を賜ることが出来た。
彼女の力は〝破壊〟ゆえ、その武技や術技も破壊力の強いものが多く、さらには雷光の如き速さで動ける技もあり、戦闘面では大いに役立ちそうだった。
恒例となっている完全系スキルも、
『スキル――《完全破壊》:ありとあらゆるものを破壊することが出来るが、神の力の前では効力が半減する』
というように、先ほど彼女が見せたものと同様のもので、相手が神の力持ちでなければ無敵の力とも言えた。
だが逆に言えば、神の力の結晶である神器などを破壊することは難しいということだ。
未だその存在自体が謎に包まれている神の武具――神器。
俺はこの〝神器〟とそれを与えたという〝終焉の女神〟について、フルガさまに尋ねてみることにしたのだが、
「……なるほど。終焉の女神に神器ときたか……」
彼女の反応はなんとも微妙な感じのものだった。
たぶんあまり聞いて欲しくない事柄だったんだと思う。
「ええ。フルガさまなら何か知っているんじゃないかと思いまして」
けれど、〝聖者〟という脅威が目の前に迫っている以上、そういうわけにもいかない。
頷く俺に、フルガさまは小さく嘆息した後、がしがしと頭を掻いて言った。
「――お前らは〝創世の女神〟のことを知ってるか?」
「「「「「「?」」」」」」
揃って小首を傾げる俺たちに、フルガさまは丁寧に説明してくれる。
「創世の女神ってのはな、〝創世〟であって〝双生〟でもある双子の女神のことだ。この片割れを人間どもは〝創まりの女神〟と呼び親しんでいやがる。さすがに聞いたことくらいはあんだろ?」
「え、ええ、私たちにスキルをお与えになられた女神さまだと伺っていますが……」
マグメルの答えに、フルガさまも頷く。
「まああながち間違っちゃいねえよ。何せ、人間を生み出したのはその創まりの女神――〝オルゴー〟なんだからな」
「「「「「「!」」」」」」
創まりの女神――オルゴー。
それが俺たち人間を生み出したと確かにフルガさまは言った。
ならば亜人は……。
俺が問うまでもなく、フルガさまは肩を竦めて言った。
「ちなみに亜人を生み出したのもまたオルゴーだ。というより、この世界に生きる全てのものは基本的にオルゴーの創造物だと言っていい」
「ふむ。ならば終焉の女神は一体何を創ったと?」
アルカの問いに、フルガさまは「そんなの決まってんだろ?」と当然のように言った。
「――〝魔物〟だ」
「「「「「「――っ!?」」」」」」
一様に言葉を失う俺たちに、しかしフルガさまはどこか寂しそうに言った。
「でも勘違いすんな。別にやつが調和を乱そうとして創ったわけじゃねえ。終焉の女神――〝フィー二ス〟はな、単に自分も〝母親〟になりたかっただけなんだよ」
「お母さん……?」
ティルナが不思議そうに小首を傾げる中、フルガさまはなんとも口惜しげな表情で語る。
「そうだ。オルゴーには〝生命〟を生み出す力があった。まあ正確には〝スキルを持って生まれ、成長し、繁栄し、死んでまた生まれ変わるのサイクルを持つ生命体を創る力〟だな。これだけ言えばそろそろ気づいたんじゃねえか?」
「えっと、もしかしてですけど、〝五柱の女神さまの特徴を併せ持っている〟ということですか……?」
俺がそう控えめに尋ねると、フルガさまは不敵な顔で頷いた。
「さすがはオレの夫だ。よく分かってるじゃねえか。そう、オルゴーはオレたち五柱の力を全て持っていた。何故ならオルゴーこそがオレたち五柱の〝元の姿〟だからだ」
「「「「「「――なっ!?」」」」」」
フルガさまの言葉に俺たちが目を丸くしていると、彼女はやはり寂しそうな表情で続けた。
「……だが運命ってのは残酷でな。オルゴーにはそういう力があったにもかかわらず、双子であるフィー二スにはそれがなかった。いや、あいつにも同じ力があったんだが、その対極にあたる力だったんだ」
「対極にあたる力?」とザナ。
「ああ、そうだ。つまりフィー二スの創ったものは、オルゴーの創ったものを〝滅ぼす〟習性を持ってたんだよ。魔物がいい例だな。あいつらがお前らを襲う理由なんて何もありゃしねえ。ただ本能的に〝オルゴーの創作物を滅ぼせ〟と植えつけられているだけのことなのさ」
「そ、そんな理由で私たちの生活は日々脅かされているというのですか!?」
堪らず声を荒らげたマグメルに、フルガさまは「そうだ」と無慈悲にも頷いた。
「そんな……」
「だからオレたちはこの世に生きるものたちを守るために五柱の女神として再誕した。まああまりにも昔のことすぎて己の役割もおざなりになりつつあったんだけどな! ほとんどお前ら聖女だの聖者任せだったし!」
だっはっはっ! と無邪気に笑うフルガさまに俺たちが揃って呆れたような視線を向けていると、彼女は一転して真顔でこう言ったのだった。
「さて、じゃあ楽しい話はここまでだ。ここからは終焉の女神――フィー二スとの〝戦争編〟に入るんだからな」
「「「「「「――っ!?」」」」」」
当然、俺たちもまた驚愕の表情になっていたのだった。
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