79 アマテラスオーブ


 話は少々前へと遡る。


 里の外から絶えず響いてくる戦闘音に焦燥を抱きつつ、俺はナザリィさんと新武装の最終調整を行っていた。


 だが彼女の作っていたのは武器ではなく、何か勾玉のような形をしたもので、俺も本当に大丈夫なのかと杞憂を抱く。


 そしてきっとそんな感情が表情に出ていたのだろう。



「――安心せい。こいつは必ずおぬしの力となる」



 俺を落ち着かせるためか、ナザリィさんが手を動かしながらそう言った。



「でも……」



「分かっておる。じゃから少しだけわしの話を聞け。おぬしは実際に見ていないから知らんじゃろうが、聖神杖が生まれた際、ヒヒイロカネ製の聖杖が粒子となり、なんの素材かも分からん神器に取り込まれた。ここからは完全にわしの想像なのじゃが、恐らく神器は〝神の力が物質化したもの〟なのではなかろうか」



「神の力が物質化したもの……?」



「そうじゃ。それと聖杖が融合したということは、ヒヒイロカネには神の力との親和性があるということにほかならん」



「親和性……。つまり〝相性がいい〟ってことですか?」



 俺の問いに、ナザリィさんは「うんむ」と大きく頷く。



「そしておぬしは覚えておるか? たとえ手元にあらずとも、聖具は呼べばいつどのような場所にでも現れるということを」



「ええ、覚えています。俺がアルカと戦った時もそうでしたから」



 あの時はアルカの呼びかけに応じ、粒子状のものが形を成して聖槍へと姿を変えたのだ。


 だがそれが一体どうしたというのだろうか。


 俺がいまいち要領を得ないような顔をしていると、ナザリィさんはにやりと不敵な笑みを浮かべて言った。



「じゃからこいつを――おぬしの身体に取り込ませる」



「えっ!?」



 愕然と驚く俺に、ナザリィさんはその真意を説明する。



「おぬしはすでに神に近い存在にある。《不死神鳥》の名がその証拠じゃ。であればその力にヒヒイロカネが順応せぬはずがない。というより、おぬしはずっと以前からヒヒイロカネに順応しておったのじゃぞ?」



「俺がヒヒイロカネに……?」



 どういうことかと瞳を瞬かせる俺の胸元を指差し、ナザリィさんは言った。



「――フェニックスローブ。そいつはヒヒイロカネの繊維で編まれたものに間違いない。じゃからおぬしとともに再生し、おぬしの力でスザクフォームという鎧へと変化しているのじゃ」



「そ、そうだったんですか……?」



 驚愕の事実である。


 つまり俺はマグリドに行った時点で最強の防具を手に入れていたのだ。



「うむ、恐らくはのう。ゆえにそれらの話から、わしは神器を神の力の結晶と位置づけし、こいつを作ることを決めた。この無限刃――〝アマテラスオーブ〟をのう」



「アマテラスオーブ……っ」



 ごくり、と固唾を呑みながら見下ろした先にあったのは、燃えるように蠢く真紅の勾玉だった。



「こいつはおぬしの成長に合わせて武具型も変わるよう叩き込んである。上手く発動してくれるかどうかは正直賭けじゃが、まあおぬしならば必ずや成し遂げてくれるじゃろうて」



 さあ、完成じゃ、とナザリィさんが俺にアマテラスオーブを渡してくる。


 受け取ったオーブは、まるで人肌のような温かさを持っていた。


 命が宿っている証拠だ。


 ゆえに俺はそれをぐっと握り締め、力強い口調でこう告げたのだった。



「――ありがとうございます! 俺が絶対にこいつで皆を救ってみせます!」



      ◇



 そうしてアマテラスオーブを取り込んだ俺は、今まさに聖者たちを圧倒していた。


 一つだったはずのオーブも、取り込んだ瞬間両手の甲にそれぞれ現れ、現状最善の武具型を即座に再現することが出来ていたのである。


 これがアマテラスオーブの力。



 俺の――新たなる刃だ。



「アマテラスオーブだと……っ」



「そうだ。俺は状況に応じて様々な武器を自在に扱うことが出来るんだよ」



「クックックッ、いいねえ……っ。てめえは最高に殺しがいがありそうだぜ……っ」



 口元を雑に拭いながら立ち上がったシャンガルラは、この状況でもなお余裕の笑みを浮かべて言った。



「なら俺も――力の出し惜しみはしていられねえよなあ……っ!」



「!」



 べきばきっ、と身体中を軋ませ、シャンガルラの威圧感が急激に増していく。


 すると、ボレイオスが少々慌てた様子で声を張り上げた。



「やめろ、シャンガルラ! 今はまだその時期ではない!」



「うるせえぞ、デカブツ! てめえは黙って見てやがれ! こいつは俺が――」



 と。



「――そこまでだ、シャンガルラ」



「「「「「「「「――っ!?」」」」」」」」



 ふいに別の男性の声が辺りに響き、俺たちは揃って声のした方を見やる。


 いつからそこにいたのだろうか。


 俺たちの視線の先で静かに佇んでいたのは、額から二本の角を生やした30歳前後くらいの男性であった。

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