《聖女パーティー》エルマ視点20:夢も希望もないじゃない!?


 風の女神――トゥルボーさまの領域に無断侵入してしまったあたしたちは、なんとか彼女の怒りを静め、その力を賜ろうとしていたのだが、なんとそこで豚が最悪の粗相をしてしまった。



 ――そう、女神の御前でまさかの〝放屁〟をぶちかましたのである。



 当然、凍りつく空気の中、あたしはもうこの豚を生け贄に捧げて煮るなり焼くなり好きにしてもらうしかないと、脱兎の如くその場を離脱しようとしていたのだが、



「――ほう、なかなか器用なものだな」



「はは、ありがとうございます。故郷の村ではよく子どもたちに作っていたもので」



「わーい、おじちゃんすごーい♪」



「わーいわーい♪」



「……」



 いや、めっちゃ馴染んでるんですけどーっ!?


 がーんっ、とあたしはショックを受ける。


 一体何故こんなことになってしまったのか。


 ことの発端はやはりあの放屁事件であった。


 てっきりぶち切れたトゥルボーさまにミンチにされるかと思いきや、まさかの子どもたち大ウケだったのである。


 そうして群がってきた子どもたちにお腹をぽよぽよされたりなんだりしているうちに、気づけばこの状況というわけだ。


 そりゃね、おかげでなんか雰囲気も和やかな感じになってるし、結果オーライだとも思ってるわよ?


 でもあたしのこのぶっちゃけいなくてもよくない? 的な空気感は何!?


 え、あたし聖女なんですけど!?


 なんで豚の活躍を遠巻きに眺めなきゃいけないわけ!?


 意味分かんない!? とあたしが一人頭を抱えそうになっていた時のことだ。



「……」



 ――じー。



「あ、あら、どうしました?」



 ふと小さな女の子に見つめられていることに気づき、あたしは尋ねる。


 すると、女の子は不思議そうな顔でこう問い返してきた。



「ねーねー、どうしておねえちゃんはおっぱいがないの?」



 おい――おい。



「ふふ、どうしてかしらね?」



 ちょっと向こうで一緒に考えてみるのはどうかしら?


 それはもう嫌というほど身体に教えてあげるわよ?


 そうあたしが必死に拳を握りながら慈愛の微笑みを浮かべていると、



「あ、そうだ! めがみさまにおねがいしてみようよ!」



「えっ? ――ちょ、ちょっと!?」



 ふいに女の子がそんなことを言い出し、「こっち!」とあたしの手を引いていく。



「めがみさまー!」



「うん? どうした?」



 そうしてトゥルボーさまの前へと連れてこられたあたしを指差しながら、女の子は笑顔で言った。



「このおねえちゃん、おっぱいがおおきくなりたいんだって!」



「……はっ?」



 いや、そりゃそういう反応にもなるわよ!?


 あたしだって今まさにそんな感じだもの!?



「……ふむ、まああれだ。――諦めろ」



 そして神の視点で夢も希望もないこと言うのやめてくんない!?


 こっちは必死に成長途中だって信じてたのよ!?


 どうしてくれんのよ!?


 もう見込みゼロってことじゃない!?


 そうあたしが内心泣きそうになっていると、豚がふっと全てを悟ったような顔で言った。



「大丈夫です、聖女さま。女性の価値は胸だけで決まるようなものではありませんから」



 うるさいわよ、この豚!?


 巨乳好きのあんたに何が分かるっての!?


 当然、あたしは心の中で容赦なく豚を罵倒し続けていたのだった。

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