《閑話》聖者サイド1:邂逅
そこはなんの光もない暗黒の空間だった。
壁や天井……いや、床があるのかすらも分からない。
だが歩くことが出来る以上、床らしきものは存在するのだろう。
そんな空間のただ中にそれはあった。
ほのかに輝いているようにも見える白亜の円卓と、同じ材質であろう七つの椅子。
そのうち六つには人影があり、彼女の姿を確認するや、最奥の男性がこう口を開いた。
「――どこへ行っていた? 女狐」
額に二本の角が生えた厳かな男性だ。
「別に。ただのお散歩よ」
「わざわざイトルにまでか?」
「あら、相変わらず抜け目がないのね。ええ、ちょっと坊やたちの様子が気になってね」
「余計なことはするな。自分の立場を忘れたのか?」
「はいはい、分かっているわ。でもこれで聖女も五人目。もうすぐシヌスとも会うでしょうし、あなたたちの目的が達成出来る日も近いわね」
「そうだな。何せ、最後の一人がすでにここにいるのだからな。ええ? 〝盾〟の聖女――シヴァよ」
「あら、私はただの占い師よ? それよりそっちの〝盾〟はまだ見つからないのかしら?」
女性ことシヴァの問いに、男性は「ああ」と相変わらず感情の読めない声で言う。
「元々〝盾〟はほかの者たちよりも人類に対する守護意識が強いからな。大方どこかに身を潜めているのだろう。まあ貴様のような裏切り者の女狐もいるがな」
「ふふ、当然でしょう? 私は〝勝てる方にしか味方しない〟わ。だって死にたくないもの」
「さて、それもどこまでが真意か」
静かにその瞳を閉じる男性に、シヴァは問うた。
「それで根本的なお話なのだけれど――あなたたちは彼らに勝てるのかしら?」
「無論だ。確かに聖具は全て聖女どもに渡っているが、あれは元々人が人のために生み出したもの。我らが母より賜りし〝神器〟の敵ではない」
それに、と男性はほかの五人を見渡して言った。
「我ら亜人種の身体能力は人のそれを遙かに凌いでいる。同じスキルを持つ以上、たかが人の小娘如きに遅れはとらん。なんなら〝絶対防御〟と名高い貴様の聖盾、我が神剣で貫いてくれようか?」
「いえ、それは遠慮しておくわ。だって私のメリットが何一つないもの」
そう肩を竦めつつ、シヴァはさらに尋ねた。
「で、問題は坊やの方。全てのレアスキルをその身に宿した不死身の戦士――それを一体どう打ち破るおつもりなのかしら?」
「当然、不死なのであればその特性ごと殺せばいい。それを可能とするべく我らは〝王〟の生誕を心待ちにしている。ヴァエルなどという紛い物ではない真の王をな」
「なるほど。なら彼の研究も少しは役に立ったということかしら?」
「ああ。はぐれ人魚の一件でも実に有意義なデータをとることが出来た。もちろん貴様が余計な真似をしなければ、さらに正確なデータがとれたのだがな」
じろり、と男性に睨まれるも、シヴァはその視線を悠々と躱す。
「まあなんだっていいじゃない。とにかく王さまの誕生は近いのだから」
「ふん、食えない女だ」
「ふふ、それはお互いさまでしょう?」
そこで一度言葉を区切ったシヴァは、不敵に笑ってこう続けた。
「終焉の女神に選ばれし〝剣〟の聖者――エリュシオンさま」
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