《聖女パーティー》エルマ視点17:あたしの初壁ドンがああああああああっ!?


 風の女神がいるという砂漠地帯に向けて旅を続けていたあたしたちは、その入り口にあたる商業都市――アフラールまでもう少しというところまで来ていた。


 なので今日はこの村で宿をとり、明日山越えをしてそのままアフラールに入ろうということになったのが、



「――やはり女性というのは少々強引にくる男性に弱いと思うのです!」



「は、はあ……」



 え、なんであたし豚の恋愛観なんて聞かされてるの……?


 道端に落ちてる魔物のうんちくらい興味ないんですけど……。


 あたしが呆然と料理を口に運ぶ間も、豚の話は続いていく。



「となると、やはり目指すのは〝俺についてこい系男子〟! ゆえに私は強い冒険者を目指すことにしたのです!」



 ぐっと豚が拳を握る中、あたしはちらりと彼のお腹を見やる。



 ――ぷるるんっ。



 へえ、このお腹で俺についてこいねえ……。


 ぺちぺちとお腹を叩いてやりたい衝動に駆られるあたし。



「とはいえ、戦闘向きではない私のスキルでは、いくら頑張っても強い冒険者になることは出来ませんでした……。ですが私も男の子として生まれた身。一生に一度くらいは素敵な女性に対してときめくようなアプローチをしてみたいじゃありませんか」



 いや、ありませんかとか言われても知らないわよとしか言えないんだけど……。


 てか、それ以前にあんたはまず痩せるところから始めるのが先でしょうが。


 そのお腹じゃアプローチもクソもあったもんじゃないわよ。


 そう内心半眼を向けていたあたしだったのだが、



「――というわけで、僭越ながら聖女さまにお願いがございます」



「えっ?」



 ちょっと待って。


 なんかすんごい嫌な予感がするんですけど!?


 食後の眠気が一気に吹き飛ぶ中、豚は真顔で声を張り上げてきた。



「是非私に――〝壁ドン〟というものを経験させてくださいませ!」



 ぎゃああああああああああああああああああああああああああっ!?


 ちょっ、な、何言ってんのよこの豚!?


 あたしの初壁ドンをあんた如きに捧げろって言うの!?


 馬鹿言ってんじゃないわよ!?


 そんなことになるくらいなら死んだ方がマシだっての!?


 だが豚は至極真剣な表情であたしのことを見つめてくる。


 そして慈愛の聖女たるあたしがそれを断るわけにはいかない。


 こんな馬鹿みたいな願いでも微笑みながら受け入れるのが、あたしの築き上げてきた聖女としてのイメージなのだから。


 ならば方法は一つしかあるまい。


 ゆえにあたしは椅子から腰を上げながら言った。



「ええ、もちろん構いませんよ」



「おお、ありがとうございます!」



 では、と豚も席を立とうとした瞬間、あたしはやつの背後に素早く回り込み、低く体勢を屈めてから神速の抜刀術を以て腰から手刀を抜く。



 ――しゅばっ。



 すると次の瞬間、どちゃりと豚が無言でテーブルの上の皿に顔を突っ込んだ。



「……ふう」



 危ないところだったわ……。


 やれやれと思いつつ、あたしは気合いで豚をベッドまで運び、証拠の隠滅を図ろうとしたのだが、



「――きゃっ!?」



 あまりの重さに体勢を崩してしまう。


 そして。



 ――どんっ!



「……えっ?」



 気づくとあたしの目の前に豚の顔があった。


 そう、あたしの方が豚に壁ドン……というか床ドンしてしまったのである。



「ひぎゃああああああああああああああああああああああああああっっ!?」



 当然、あたしは聖女にあるまじき大絶叫を上げたのだった。

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