50 帰還と再会
「……終わったのね?」
「ああ。ザナの分も合わせてタコ殴りからの火葬であの世送りにしてやったよ」
「……そう。別に気にしなくてもよかったのだけれど……。でもありがとう、イグザ」
優しく微笑むザナに、俺も「おう」と口元を和らげる。
「それで魔物にされた人たちの様子は?」
「とりあえず全員身動きがとれない状態にはしてありますが、先ほどから臣下の方々が扉を破ろうと必死になっておりまして……」
「そっか……」
まあそりゃそうだろう。
マグメルの言うとおり、扉の前には土属性術技で岩の壁が作られており、臣下たちの侵入を拒み続けているようだった。
「まあたとえ入ってきたとしても、そこはお前が各フォームを使い分けて神の遣いを演じればなんとかなるとは思う。だがその前にこの者たちの処遇をどうするかだ」
「そうだな。たぶん浄化自体は出来ると思う。前に一度テラさまを元の姿に戻してるからな。あれの縮小版だと思えばいいだけのことだし、スザクフォームの治癒力があれば延命する要因となったものも治せるはずだ。ただ……」
「さすがにこのでけえ国中のやつら全員ってわけにゃいかねえわな」
「うん……。どれだけの人が魔物の細胞を埋め込まれてるかも分からないし、たとえ分かったとしてもすでに国外に出ている人たちもいるだろうからな」
「ではどうされますか?」
マグメルの問いに、俺は決意を秘めた表情で言った。
「水の女神――〝シヌス〟さまに会いに行こう。彼女は〝水〟と〝繁栄〟を司る神さまだ。もしかしたら俺の力を発展させて広範囲に及ばせることが出来るようになるかもしれない」
「なるほど。たとえばの話ですが、スザクフォームで飛行しながら浄化と治療が出来る可能性もあるということですね?」
「ああ。それをヒノカミフォームで出来たら最高なんだけどな。皆も一緒に来られるし」
と、少々残念そうに言った俺だったのだが、
「はっはっはっ、何を馬鹿なことを。たとえスザクフォームのみだろうと私はお前についていくぞ」
「わ、私もです!」
「当然、あたしも行くぜ!」
「右に同じよ」
「えぇ……」
いや、乗れない乗れない!?
◇
そうしてとりあえず玉座の間で魔物になった人たちのみを元の姿へと戻した俺たちは、そのまま臣下の方々を招き入れ、アルカの言ったとおりヒノカミフォームからのスザクフォームで神の遣い劇場を展開した。
ヴァエル王にいたっては、表向き魔物の襲撃によって命を落としたことにし、彼の研究を知っている者たちには、それが原因で魔物に身体を乗っ取られ、今もほかの汚れた者たちを乗っ取ろうと画策しているゆえ、早々にこれらを放棄し、善行に努めるようかなり強い口調で警告した。
神の遣いと聖女たちが直々に言っているのだ。
彼らも二度とこんな馬鹿な真似をしないと信じたい。
まあした時はトゥルボーさまの疫病フルコースで死ぬまで苦しんでもらうけどな。
ともあれ、あとはこの国の人たちの問題である。
ゆえに俺たちはよき王を選ぶよう臣下の方々に告げ、報告と休息のために一度ベルクアへと戻ってきていた。
「お父さまたちには私から事情を説明しておくわ。だからあなたたちは先に部屋でゆっくり休んでいてちょうだい。アイリスたちが案内してくれるから」
「ああ、ありがとう、ザナ」
俺がお礼を言うと、ザナは「いえ、気にしないで」と一度微笑んだ後、ご両親のもとへと向かっていった。
すると、入れ替わるようにぱたぱたとアイリスが駆けてくる。
「またお会い出来て嬉しいです、イグザさん」
「ああ。俺も君に会えて嬉しいよ、アイリス」
くしゃり、とアイリスの頭を撫でてやると、彼女は嬉しそうに頬を桜色に染めていた。
どうやら一人ずつ部屋を宛がってくれるらしい。
ほかの女子たちにもそれぞれザナの妹たちがついていた。
たださすがにこの状況では同室がいいとは言いづらいらしく、彼女たちも促されるまま指示に従っていた。
「では私たちも行きましょう」
「うん」
俺が頷くと、ふいにアイリスがどこか恥じらうように上目で言った。
「あ、あの、よろしければ手を……」
「ああ、いいよ」
ぎゅっと彼女の手を優しく握る。
とても小さく柔らかい手だ。
相変わらず可愛い子だなと一人ほっこりとしていた俺だったのだが、
「果たして手を繋ぐ必要があったのだろうか?」
「いえ、ないですね」
「……はあ。てめえらはあんなガキにも容赦ねえのな……」
「いや、あれはもう立派な一人の女だ。うかうかしてるとお前の妾ランキングは最下位になるぞ。まあ今も最下位のようなものなのだが」
「うるせえよ!? そういうてめえは何位だってんだ!?」
「決まっているだろう? 正妻の私は永遠の一位だ」
「はっ、自称正妻の自称一位さまがなんか言ってやがるぜ」
「あの、お二人ともうるさいです」
何やら後ろの方が騒がしいな……。
てか、俺は別に順位なんてつける気はないんだけど……。
「まあいいや。じゃあ行こうか」
「はいっ」
ともあれ、頷くアイリスとともに、俺は客間へと向かっていったのだった。
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