41 なら俺がなんとかしてやる!
「はあっ!」
――がきんっ!
「ぐっ!?」
さすがは弓の聖女――連射の速度が常人のそれを遙かに超えていた。
双剣ですら捌けず一撃を肩にもらう。
だが俺は不死身――光の矢が消えると同時に傷もまた再生される。
しかもフェニックスローブまで同時に修復されるからありがたい限りだ。
さすがは御使い専用装備である。
恐らく古の御使いとやらも再生力の高いスキル持ちだったのだろう。
「ファランクスブロー!」
――どががががががががっ!
ともあれ、俺はヒノカグヅチを大剣に変えて矢の連撃を防ぐ。
一撃一撃がかなり重い強力な攻撃だ。
通常の盾程度であれば耐久度が足りず砕け散ってしてしまうことだろう。
だがそこは永久不滅の炎刃である。
たとえ一部が砕けたとしても、すぐさま元の形へと戻り続けていた。
最中、俺はザナに問う。
「何故君ほどの力を持つ聖女がゼストガルド王に従う!? 彼が非道な行いをしていることは知っているんだろう!?」
「ええ、知っているわ! でも私は聖女である前に王女なの! 父を裏切れるはずないでしょう!?」
そう言ってザナはさらに攻撃を仕掛けてくる。
「他人に平気で毒を盛るような男だぞ!?」
「それでも私のたった一人の肉親よ!」
ずがんっ! と城壁の一部が弾け飛び、俺はそれを躱しながらヒノカグヅチを槍の形へと変える。
「だからって君はそれでいいのか!? たった一人の肉親なんだろ!?」
――びゅっ!
「くっ!?」
俺の放った刺突を聖弓で受け止めていたザナだったが、彼女も余裕がなくなってきたのだろう。
焦りが苛立ちを増長させ、ついに感情が爆発する。
「そんなの……いいわけないじゃない!?」
「――っ!?」
互いに鍔迫り合いながら、ザナは感情の赴くままに声を荒らげる。
「優しかったのよ! お父さまはずっと! でもお母さまがラストールの連中に殺されてから人が変わってしまった! 頭だって撫でてくれなくなった! けれど私の中にはいつも昔のお父さまがいるの! そんなの割り切れるはずないじゃない!? だから私はあの人に協力しているの! いつか元の優しいお父さまに戻ってくれるって、そう信じているのよ!」
「ザナ、君は……」
恐らく彼女の母親というのは、食堂に飾られていたあの優しそうな女性のことだろう。
きっといい家族だったんだと思う。
涙ながらに感情をぶつけてくるザナに、俺はぎゅっと唇を噛み締め、鍔迫り合う力を弱める。
するとザナは感情任せに聖弓を振りかぶってきた。
「だから私はあああああああああああああっ!」
ざしゅっ! と鋭利なリムが俺の胸元を貫き、背中にまで到達する。
「――っ!?」
だが俺は一切抵抗せず、微かに震えていた彼女の手に自分の手を重ねて言った。
「なら俺がなんとかしてやる。そんなに泣くほど嫌だったんだろ? 大好きなお父さんが変わっていくのがさ」
「……もう無理よ。お父さまも私も堕ちるところまで堕ちてしまった……。今から何をしたってもうどうにもならないわ……」
と。
「――それは嘘だな」
「えっ……?」
呆然と顔を上げたザナに、俺は微笑みかけながら言う。
「君は心のどこかで期待していたんじゃないか? 食堂に現れたあの子の姿を見て、もしかしたら俺ならなんとかしてくれるかもしれないって」
「それは……」
「だからわざわざ俺だけを呼び出したんだろ? 自分の思いを真剣に受け止めてくれるかもしれなかったから」
「……そうね。そうかもしれないわ……。ふふ、勝手な女よね……。こんな酷いことまでして……」
そう自嘲の笑みを浮かべながら、ザナの指先が俺の胸元にそっと触れる。
正直、めちゃくちゃ痛いのだが、俺は男の子だからな。
これ以上彼女を傷つけないよう笑顔で首を横に振った。
「気にするな。何せ、俺は――〝不死身の男〟だからな」
ほら、と何ごともなかったかのように聖弓を抜いてみせる。
「このとおりなんともない。それより今までよく頑張ったな。君は本当に強い女性だ」
「――っ!?」
そう言って優しく抱き締めてあげると、ザナは一瞬固まった後、何かが溢れるように泣き崩れてしまったのだった。
◇
そうして食堂へと戻ってきた俺たちに、当然ゼストガルド王は憤りを露わにして声を荒らげてきた。
「どういうことだ、ザナ!? 我は申したはずだぞ!? 〝負けることは許さない〟と!?」
「……申し訳ございません、お父さま」
目を腫らしたままザナが頭を下げる。
「この馬鹿娘がっ!」
「……っ」
激情に任せて右腕を振り上げるゼストガルド王だが、
「くっ、放せ無礼者!?」
俺は途中で彼の腕を掴み、そして言う。
「あんたはどれだけザナを悲しませれば気が済むんだ?」
「なんだと!?」
「話は彼女から全部聞いたよ。彼女の母親がラストールに殺されたってこともな」
「だったら貴様にも我の気持ちが分かるだろう!? 最愛の者を無残にも奪われたこの苦しみが!? 怒りが!?」
「そうだな。分かるよ。でもそのおかげで、あんたはもう一人の最愛の人を今まで悲しませ続けてきたんだぞ?」
「そ、それは……」
たぶん自分でも分かっていたのだろう。
ばつの悪そうな顔をするゼストガルド王の腕から手を離し、俺は言った。
「もうそんな悲しい家族の有り様を見るのはたくさんだ。だから俺があんたらを救ってやる。――〝完全蘇生〟」
俺がそう口にすると、淡い光が集まって人の形を作り始めた。
「ま、まさか……」
「嘘、でしょ……」
目を見開き、驚く二人の前に現れたのは、近くにあった絵画と同じ柔和な面持ちの女性。
――そう、亡くなったはずの王妃さまであった。
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